アメリカでスターバックスのカップの色をめぐり大論争
アメリカのスターバックスで11月から赤いカップが使われているということで、アメリカ国内で論争が起きている。いわゆる「ごく普通の」日本人の感覚からすれば、「クリスマスだから赤、いいじゃないか」と考えがちであるが、アメリカでは様々な立場から様々な意見が寄せられているようだ。
11月14日付
『フォーチュン』によれば、アメリカのスターバックスが「ホリデー・カップ」と銘打って赤いカップでコーヒーなどの飲料を提供したことが論争を巻き起こしていると報じている。カップには前年までのクリスマスデザインとは異なり、雪の結晶や星、雪だるまなどは施されておらず、ただ単に「赤い」カップなのだという。
この赤いカップがキリスト教に対する冒とくと捉える者がいるのだという。...
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11月14日付
『フォーチュン』によれば、アメリカのスターバックスが「ホリデー・カップ」と銘打って赤いカップでコーヒーなどの飲料を提供したことが論争を巻き起こしていると報じている。カップには前年までのクリスマスデザインとは異なり、雪の結晶や星、雪だるまなどは施されておらず、ただ単に「赤い」カップなのだという。
この赤いカップがキリスト教に対する冒とくと捉える者がいるのだという。ソーシャルメディアで活躍するフォイヤーシュテイン氏がスターバックスの赤いカップを批判したのをきっかけに、様々なメディアがこの論争を取り上げたという。大統領候補のトランプ氏も、先週イリノイ州で行われた集会で、スターバックスの商品の不買運動を呼びかけたという。
同記事は賛否両論あり、どちらが正しいとは言えないものの、デジタル社会で企業イメージを守るためにどうすればよいのか、4つのポイントに分けて論じている。
1・事態は急速に拡大することを忘れるな
11月1日にスターバックスが赤いカップを発表し、同月5日には論争が始まり、あっという間にこの論争は各メディアの見出しを席巻した。そして1500万人以上が前述のフォイヤーシュテイン氏の動画を見て、そのうち50万人以上がそれを他の人に送信したという。つまり、たった5日の間にスターバックスの赤いカップは、赤色だけでは宗教色が濃くなるなら雪の結晶などのデザインを入れるべきなども含めてアメリカ人の注目の的になったわけである。
2・企業の行動に対する社会の反応を予測するのは困難
同記事は、今回問題となっている赤いカップがこれほどまでに論争を巻き起こすなどと、誰も予想はしていなかったはずで、スターバックス側も驚いているはずだとする。現にスターバックスは赤いカップをめぐる論争がヒートアップしてしまった後に初めて「カップを真っ白なカンバスに見立ててお客様に、それぞれの物語を描いてもらいたい」とのコメントを発表したという。
また、同記事はスターバックスのカップが予期せぬ事態を招いたのはこれが初めてのことではないとして、予想外の展開は何度も起こりうることを示唆している。前回スターバックスが巻き起こした論争は、今年3月にカップに「人種問題について一緒に語り合おう」という趣旨のメッセージをプリントしたことが、世論の反発を招いたというものである。会社はたしかに、自社の起こした行動がどんな展開を招くかきちんと予測すべきであるが、と同時に全てを正確に予測するのは不可能だとしている。今回もスターバックス側には赤いカップを採用したことに深い意味は無く、ただ単に洗練されたデザインを取り入れる意図しかなかったのだろうとしている。
3・問題が起こったら即座に対応すべき
このように事態の展開を全て予測するのは不可能であることを前提として、問題が発生してしまったらできる限り速やかに手を打つべきだと同記事は指摘する。スターバックスは11月8日には赤いカップを採用した意図について説明し、今回の件に関しては素早く、適切に誠意をもって対応にあたったとしている。
同記事は他の事例を用いて、対応が数時間遅れるだけでも取り返しのつかないことになり得ると指摘する。ユナイテッド航空にギターを壊されたというカナダ人ミュージシャンのデイブ・キャロル氏は、同社の対応が遅かったために、そのことを歌にしてビデオをネットに投稿し、動画は1500万回以上再生されたという。また、2013年の12月にはインターネット関連会社の企業広報担当者であるジャスティン・サッコ氏がロンドンから南アフリカのケープタウンへ飛行機で移動する直前に人種差別的なコメントをツイッターに載せ、11時間後の飛行機が着陸する頃には瞬く間に「時の人」になっていたという件が挙げられている。
4・最後には常識的な結果に落ち着くことを信じよう
同記事は締めくくりに、今回の赤いカップの論争も、時間が経つとスターバックスに擁護的な論調が増えてきたことを指摘する。「キリスト教らしいメリークリスマスの文字が入っているわけではないのだからいいじゃないか」ともっともな意見の書き込みもあるし、トリビューン紙の記者はツイッターで「ただの赤い色をしたカップ。それ以上それ以下でもない」とコメントしたという。
11月13日付
『CNBC』は、今回の論争は、のちに大学の経営学の授業で、商品のイメージが消費者の潜在意識にどれだけ強く働きかけるかという事例を説明する上で恰好の教材になるだろうとしている。そして、やはりスターバックスは赤いカップを採用した時点では、こんな騒ぎになろうとは思いもよらなかったはずであるとしている。また、今回の問題を蚊帳の外から冷ややかに眺めており、去年のスターバックスのクリスマスシーズンのカップのデザインを、雪の結晶があったか、「メリークリスマス」の文字が入っていたか正確に思い出せる人はほとんどいないだろうとし、今回の件も少し時間がたてば大した問題ではなくなるだろうとしている。
また、同記事はスターバックス側も抜け目なく、また新しいデザインを導入するだろうとする。そしてそれは敬虔なキリスト教徒に敬意を払っているわけでもなんでもなく、会社側は「話題にのぼることの重要性」を理解しているためだとする。ただ、同じ柳の下にいつもドジョウはいない、次回はもう少し工夫が必要だろうともしている。
11月13日付
『ハフィントンポスト』は、今回の論争をやはり全体として「取るに足らないもの」としている。たしかに宗教上の立場から「真摯に」赤いカップを批判する意見もあることにはあるが、それはごく少数で、批判の大部分はソーシャル・ネットワークによるウイルス的な意見の拡散によるものだと指摘する。前出のトランプ氏の不買運動も、本人の言い分はキリスト教を守りたいとのことであるが、同人の愛読書などから推測される知的レベルでは、おそらくは政治的売名行為だろうと辛辣な指摘をしている。
ソーシャル・メディアの持つ威力は誰もが痛感しているところだろう。池に投げ込まれた小さな石が、良くも悪くも大きな「波紋」を作り出すことがある以上、事態の予測、展開に対応する能力は必須である。
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人種差別問題に揺れる名門、イエール大学
アメリカのイエール大学といえば、アイビーリーグの一つであり、アメリカ国内のみならず、世界的にも名の知れた大学である。その名門大学内で、人種差別問題が起こり、学内にとどまらず学外からも関心を集めている。事の発端、経過、根底にあるものについて各メディアは次のように報じている。
11月8日付
『CBSニュース』によると、今回の人種差別問題は学内に存在する「シグマ・アルファ・イプシロン(SAE)」という「友愛会」(必ずしも同義ではないが、日本の大学のサークルのようなもの)が白人女性以外お断りとして、人種差別をしているとの報告が上がったために起きた問題だという。ただ、この件に関してSAEはそのような差別をした事実はないと否定しているという。
大学側と学生側は先週数時間にわたりこの問題について話し合いを重ね、学内で行われている人種差別について、大学長であるサロウェイ氏と学部長であるホロウェイ氏は大学全体に向けてEメールでメッセージを送ったという。...
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11月8日付
『CBSニュース』によると、今回の人種差別問題は学内に存在する「シグマ・アルファ・イプシロン(SAE)」という「友愛会」(必ずしも同義ではないが、日本の大学のサークルのようなもの)が白人女性以外お断りとして、人種差別をしているとの報告が上がったために起きた問題だという。ただ、この件に関してSAEはそのような差別をした事実はないと否定しているという。
大学側と学生側は先週数時間にわたりこの問題について話し合いを重ね、学内で行われている人種差別について、大学長であるサロウェイ氏と学部長であるホロウェイ氏は大学全体に向けてEメールでメッセージを送ったという。メールの中でサロウェイ氏は「今回の学生との対話により明らかになった内容に大変困惑している。大学全体が互いを理解し、受け入れ、敬意を払い、理解するために一丸とならなければならない」と語ったという。
11月8日付
『マッシャブル』によれば、今回の人種差別騒動はイエール大学のSAEメンバーらによるパーティーで白人女性以外が入場を断られた事に端を発しているという。また、その前日にも大学側から学生たちに「(いわゆる人種差別と同視されるような衣装は避け)、適切な衣装を選ぶよう」要請があったことも今回の騒動に関係しているという。
前述のようにSAEは人種差別的な扱いのあったことは否定しているが、学生の一人がフェイスブックに書き込みをしたことから、この話が瞬く間に広まったのだ。今回の投稿をした学生は女性で、ハロウィーンでの差別的扱いの他にも様々な人種差別が行われていると書き込んでいる。「食堂や学内の施設など、様々な場所で、顔見知りやそうでないにかかわらず、男子学生らから差別的な発言を投げかけられていた。そのほとんどが私が一人でいる時に起こり、肉体的にも精神的にも苦痛を被ってきた。そんな連中を学友と呼ばなければならないなんて」。
11月9日付
『ハフィントンポスト』はイエール大学の現役学生の記事を掲載し、今回問題になっている人種差別について考察を加えている。
まず同記事は、今回の人種差別騒動はハロウィーンパーティーへのSAEメンバーによる参加拒否により火が付いた格好になっているが、根本的な問題はそこにはないとしている。イエール大学に入学した学生は、パンフレットで謳われている内容と学内の状況の食い違いを毎日経験しているという。大学側はイエールが全ての文化的背景を持つ学生に開かれているとするが、実際はそうではない。この問題は学内で長いこと放置されてきた人種差別が原因だというのである。
学内での人種差別を訴える声は以前からあったにもかかわらず、それらはないがしろにされてきたという。慢性的にはびこる人種差別は人目を引くニュースにもならない。人種差別を訴えたところで何も変わらないと、皆主張することを諦めてしまうのだという。
学内で差別を受けるのは主に、いわゆる有色人種の女性だという。彼女たちは学内では物理的にも心理的にも安全な立場に置かれていない。
また、同記事は今回の人種差別騒動に対して大学側が正式な対応に出るまでに一週間もかかっていると、対応の鈍さを指摘している。先週の月曜日から学生側からの声は上がっていたというのに、木曜日に至るまで大学長は沈黙したままだったという。学部長は火曜日には調査を開始し、相当な時間を割いて差別を受けてきたと主張する学生らから話を聞いている間も学部長は沈黙したままであった。そして木曜日に学内に集まった学生らを前にして学長は突然泣き出したというのである。それから一時間経たないうちに学生らにEメールを送り、学外の調査機関による調査を開始すると発表したという。
学外からはイエール大学は「特権階級の行くところ」として別格扱いしようとする見方もあるという。しかしながら、いわゆる名門大学でこのような問題が起きているのであれば、人種差別はアメリカのいたるところで起きているはずと同記事は指摘する。今回問題になった、「適切な衣装選び」の件や、SAEでの問題は些細なきっかけにすぎず、根本にある組織的な人種差別に目を向けるべきだとする。
日本も近年多数の外国人留学生を受け入れるようになってきている。露骨な形ではないかもしれないが、同様の問題は起こりうる。対岸の火事とは言えまい。
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