バイデン米大統領が提唱する「IPEF」とは何か(5月21日)
バイデン大統領が22日から訪日する。IPEF(インド太平洋経済フレームワーク)の設立を日本で発表することが今回の来日の目玉であるが、このプロジェクトの立ち上げがインドアジア太平洋、世界の行く末を左右するものとなるかも知れない。
米国が想定している枠組みは中国やロシアのような専制国家に好き勝手にさせないために、「貿易」「供給網」「インフラ、脱炭素」「税、反汚職」の4つを軸に、各国が連携しつつ、半導体やハイテクを中心とした経済枠組みをインド太平洋アジア地域に作ろうというものである。...
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バイデン大統領が22日から訪日する。IPEF(インド太平洋経済フレームワーク)の設立を日本で発表することが今回の来日の目玉であるが、このプロジェクトの立ち上げがインドアジア太平洋、世界の行く末を左右するものとなるかも知れない。
米国が想定している枠組みは中国やロシアのような専制国家に好き勝手にさせないために、「貿易」「供給網」「インフラ、脱炭素」「税、反汚職」の4つを軸に、各国が連携しつつ、半導体やハイテクを中心とした経済枠組みをインド太平洋アジア地域に作ろうというものである。
より具体的に言えば、世界シェア15%の日本と11%の米国、23%の韓国が一緒に組めば世界の半導体におけるシェアが49%になり、世界のほぼ半分を占めることになる。ここに21%のシェアを持つ台湾が加われば70%に達する。このサプライチェーンをASEAN有志国の中に構築し半導体・電池・希少金属・サプライチェーン分野を押さえて兵器開発から宇宙開発まで中国やロシアを抑えてリードしていきたい考えであると見える。
現段階では米国・日本・豪州・韓国・ニュージーランド・シンガポール・マレーシア・フィリピンが参加を表明しているが、中国と経済関係が密接な国は、IPEFへの参加に消極的だという。その意味で対中依存度の高い韓国がIPEFに加わることは非常に大きな意味を持っていて、バイデン大統領が韓国・サムスン電子に視察に行ったのは、その象徴的な動きであった。
中国側はIPEFをサプライチェーンや半導体における中国外しと認識しており、黙ってこの動きを見ていることはないだろう。参加国への圧力、一帯一路、BRICSや上海協力機構などの枠組みを駆使して足を引っ張ってくる可能性は高い。バイデン大統領がIPEFの立ち上げを日本で発表した場合、何らかの強いリアクションに出てくる可能性もある。
また、習近平国家主席は米国が経済安保の側面から台湾をIPEFに取り込もうとしていることに気付いており、武力による台湾併合の動きを早めてくる可能性もある。その動きは2022年の共産党大会で3期目を確実にした後が考えられる。経済的な相互依存を深めても必ずしも安全保障につながらないことが今回、ロシアのウクライナ侵攻で明らかになった今、意外性を感じる向きもあると思うが、じっくり考えると、世界の将来はIPEFのような新型協定への取り組みにその行方がかかってくるとも言える。
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米中高官会談・中国・台湾めぐり米国を批判(5月20日)
18日、ホワイトハウスで安全保障対策を担当するサリバン大統領補佐官と、中国・楊潔チ政治局委員が電話会談を行った。
楊政治局委員は台湾をめぐり、“米国は独立の動きを支持しないと繰り返すが、実際の行動は大きく異なっている”と批判した。
中国側は来月日本を訪れるバイデン大統領が、中国への対抗を念頭にした経済枠組み「IPEF」立ち上げを表明するのを前に、米国を牽制する狙いがあるとみられる。
米国・ASEANとの関係強化の難しさ(5月16日)
米国とASEAN(東南アジア諸国連合)の特別首脳会談がワシントンで行われ、連携強化の姿勢を打ち出した。米政府は各国の海上警備能力に合わせ日本円にして約190億円の支援策をASEANに対して行うことも発表した。
米国の狙いは地域で影響力を拡大させる中国を念頭にASEANへの関与を深めていくことである。首脳会議後に発表された共同声明では、双方の関係について今年11月に開かれる首脳会議で「包括的戦略パートナーシップ」に格上げする方針が示された。...
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米国とASEAN(東南アジア諸国連合)の特別首脳会談がワシントンで行われ、連携強化の姿勢を打ち出した。米政府は各国の海上警備能力に合わせ日本円にして約190億円の支援策をASEANに対して行うことも発表した。
米国の狙いは地域で影響力を拡大させる中国を念頭にASEANへの関与を深めていくことである。首脳会議後に発表された共同声明では、双方の関係について今年11月に開かれる首脳会議で「包括的戦略パートナーシップ」に格上げする方針が示された。米国の狙いはもうひとつあり、それは今月下旬に発足させる新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」にASEANの国々を引き込むことである。
バランス外交が持ち味のASEANは各国ごとに立ち位置が異なり、ばらつきがあることが難点である。例えばASEAN10か国の中で中国およびロシア寄りかを見ていくと、ほとんどの国が中国やロシアに対して少なくとも敵対的ではない。米国がプーチンを参加させないよう強く迫ったにも関わらず、インドネシア、タイはそろってプーチンのG20参加とAPEC参加を許可した。ただし両国はウクライナ侵攻に関してはロシアを名指しせずに懸念を示すとの立場である。
南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンであるが、マルコス新政権は親中姿勢である。カンボジア、ミャンマー、マレーシア、ブルネイは元々親中で知られた国々であり、ウクライナ侵攻についてミャンマーはロシア支持の姿勢を示している。ベトナム、ラオスは国連総会で対ロ非難決議を棄権した国である。ASEANの中ではシンガポールは最もバランスがとれている。シンガポールはロシアに経済制裁を行っている唯一の国である。中国については南シナ海問題については懸念を示しているものの、中国とは良好な関係を保っている。
ASEAN諸国は陸続きである大国・中国と昔から時には反目しつつ駆け引きしながらうまく付き合ってきた。米国主導の中国包囲網に中国とうまく付き合うノウハウを持っている彼らが簡単に米国の戦略に乗るようにも思えない。ASEANは経済で動くことはあっても政治では動かない傾向がある。
日本にとってASEANを味方につけることは望ましいが、ASEANに影響力を与えることはなかなか難しい。
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ウクライナ侵攻の裏で米国離れが進んでいる(5月2日)
米国・ミリー統合参謀本部議長は2日、「ウクライナ侵攻でロシアが何の罰も受けずに済んでしまえば、国際秩序は破綻するだろう」「そうなれば、我々は深刻な、不安定さの増した時代に突入することになる」と世界に向けて訴えた。
国際秩序を書き換えようとしているロシアに対して世界が一枚岩になって制裁していくというのが米国の青写真であり、日本国民も「当然世界はそのように動いていくだろう」と思っていたが、現実はそう簡単な話ではないようだ。...
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米国・ミリー統合参謀本部議長は2日、「ウクライナ侵攻でロシアが何の罰も受けずに済んでしまえば、国際秩序は破綻するだろう」「そうなれば、我々は深刻な、不安定さの増した時代に突入することになる」と世界に向けて訴えた。
国際秩序を書き換えようとしているロシアに対して世界が一枚岩になって制裁していくというのが米国の青写真であり、日本国民も「当然世界はそのように動いていくだろう」と思っていたが、現実はそう簡単な話ではないようだ。
特に東南アジア、中東の米国離れはここ数年顕著なものになってきている。そもそも彼らは欧米と同じ価値観の国々ではなく、仕方がない側面もあるが、少なくともこれまでは米国の言うことに耳を傾けていた。それが今は耳を傾けようともしなくなっているのである。
まずは中東について、言えば、米国はアフガニスタン・リビア・シリア・イラン・イラクなど、中東の紛争に世界の警察官としてかなりの期間にわたって軍事介入してきた。ところが結果的に、これらの国を民主化できずに撤退した。「結局、米国は自らの理想のためでなく利権を守るために介入していたのだ」ということが後になって明らかになりはじめた。米国が自国でシェールガス・オイルが産出するようになってから中東とすぐに距離を取りはじめたことはそのことをよく表しているとも言える。
かつては米国企業と組んで石油利権を築きあげた中東湾岸諸国にとって米国は大事な顧客だったが、その親密な関係は今では失われている。米国は欧州勢と結託して脱化石燃料を推し進める一方、自らのシェールガスやオイルを売りさばく現実的な競争相手となっている。この流れの中で今、中東諸国の中では、ロシア擁護の動きさえ出ている。
東南アジアでも米国は遠い存在になっている。距離の近い中国からは経済的な恩恵を数多く受ける一方、TPPやRCEPなどの経済連携でも米国と顔を合わせることも少なくなった。その結果、米国の東南アジアにおける存在感は確実に低下している。ミャンマーや香港でも民主主義に立ち上がった学生たちを米国は助けずに見殺しにした。これらのことが米国に対する悪印象につながっている。
信用をなくしている米国がいまさら「民主主義を守るために団結せよ」と叫んでみても彼らには白々しく聞こるだけとなっている。日本に対しても厳しい目線が向けられており、日本は自らの置かれている立ち位置をよく把握し、これまで以上にバランスを考えながら外交を行わなければ、中国が台頭するアジアの中で苦しい立場が待っている。
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セルビア・中国の地対空ミサイル購入(5月2日)
ヨーロッパ南東部のバルカン半島にあるセルビアが中国から購入した地対空ミサイルを披露した。セルビアの兵器のほとんどがロシア製か中国製。セルビアはEUへの加盟を正式に申請しているが米国からは中国のミサイルを購入しないよう警告されていた。
セルビア・ブチッチ大統領は「新たな軍用品は誰の脅威にもならない。攻撃しようとする者に対する強力な抑止力となるだけだ」とした上で「セルビアは誰かにサンドバッグのように扱われることを金輪際許さない」と述べた。...
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ヨーロッパ南東部のバルカン半島にあるセルビアが中国から購入した地対空ミサイルを披露した。セルビアの兵器のほとんどがロシア製か中国製。セルビアはEUへの加盟を正式に申請しているが米国からは中国のミサイルを購入しないよう警告されていた。
セルビア・ブチッチ大統領は「新たな軍用品は誰の脅威にもならない。攻撃しようとする者に対する強力な抑止力となるだけだ」とした上で「セルビアは誰かにサンドバッグのように扱われることを金輪際許さない」と述べた。
これは1999年、セルビアがコソボ独立を求めるアルバニア人を厳しく弾圧したことを受けNATO(北大西洋条約機構)が行った78日間の空爆に言及したものとみられる。
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