2/4 「人体・神秘の巨大ネットワーク 第五回」「脳すごいぞ!ひらめきと記憶の正体」
今日のテーマは脳。
脳の神経細胞は、約1000億個あり、それがつながってネットワークを作っている。細胞と細胞の間には、少し隙間があり、電気信号がひとつの神経細胞の端にたどり着くと、「電気を発生させて」というメッセージ物質が大量に放出される。これが次の細胞に受け取られ、再び電気信号が生まれる。メッセージ物質の受け渡しにかかる時間は、1万分の1秒。脳は数十種類のメッセージ物質を用いることで、「一斉に電気を発生させて」など、電気信号の伝わり方にバリエーションを生み出している。...
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今日のテーマは脳。
脳の神経細胞は、約1000億個あり、それがつながってネットワークを作っている。細胞と細胞の間には、少し隙間があり、電気信号がひとつの神経細胞の端にたどり着くと、「電気を発生させて」というメッセージ物質が大量に放出される。これが次の細胞に受け取られ、再び電気信号が生まれる。メッセージ物質の受け渡しにかかる時間は、1万分の1秒。脳は数十種類のメッセージ物質を用いることで、「一斉に電気を発生させて」など、電気信号の伝わり方にバリエーションを生み出している。このメッセージ物質が「ひらめき」を生み出すカギになっているという。
脳の神経細胞は1000億個、メッセージ物質は数10~100個あり、ほぼ無限の組み合わせができる。さまざまな発見や科学技術の進歩は、メッセージ物質を使う脳の柔軟性のおかげともいえる。
米国・ドレクセル大学・ジョンクーニオス教授は何もしていないボーっとした状態が、ひらめきを生み出すと主張している。教授は「例えばあなたが何かに行きづまったと仮定しよう。だが、ある瞬間にその解決策が突然ひらめくことがある。それが起きるのは決まって全く関係ないことをしているときだ。朝目覚めてボーっとしているときなどにそれは起こりやすい。これはなんなのか。この状態をデフォルトモードネットワークと我々は呼ぶことにした」と話す。大雑把に言えば、何もしていない状態のとき、脳の電気信号が伸びる先は大脳皮質まで広がる。大脳皮質には、記憶の断片が保管されているのでそこから記憶の断片を引っ張り出し自由自在につなぎ合わせ、新しい発想を生み出すことができるということらしい。ひらめくためには、記憶の断片を蓄えておくことが必要なようだ。
デフォルトモードネットワークは、脳が使う全エネルギーの7割を消費しているとも言われる。古代ギリシャ時代、散歩をしながら思索を深めた哲学者グループがあったというがお笑いタレントで芥川賞作家の又吉は「先輩のネタを思いつくときを調査したが、散歩と風呂に入っている時が圧倒的に多かった」と語った。
次に脳の記憶力がどのように生み出されているのかについてみていこう。例えば人の顔を見ると、その情報は電気信号となり、脳の中にある海馬の中に存在する歯状回に伝わる。歯状回の細胞が電気を発生させ、歯状回の次の細胞へとリレーされていき、こうして電気信号のルートができる。このルートこそが記憶の正体だ。1つのルートに1つの記憶が対応すると考えられている。こうして作られた記憶は、数年のうちに大脳皮質に移され、生涯にわたり蓄えられていくとされている。米国・サンディエゴ・ソーク研究所のフレッドゲージ教授は、歯状回で新しい細胞が次々と生まれていることを突き止めた。ケージ教授は「生まれたばかりの細胞はとても敏感で、すぐに電気信号を発生させるため、わずかな刺激にも反応する。新しいルートを次々と作り出せる。生まれたばかりの細胞であればあるほど、私たちは記憶力を高めていける」と話す。
食事をすると、すい臓からメッセージ物質であるインスリンが出てきて「記憶力をアップせよ」というメッセージを脳に伝える。また筋肉から出るメッセージ物質であるカテプシンBも同様に「記憶力をアップせよ」というメッセージを脳に伝える。バランスのとれた食生活ですい臓を健康に保つこと、体を動かして筋肉を鍛えることが、記憶力アップの秘訣となる。
次に脳の認知症についてみていく。脳のネットワークがむしばまれ、記憶などを失っていくのが認知症で、中でも最も大きな割合を占めるのが、アルツハイマー病だ。この病気はアミロイドベータというたんぱく質が、神経細胞を壊すこために起きると考えられている。これまでアミロイドベータを分解する薬は作られてきたものの、その成分は脳の神経細胞まで届けられなかった。それというのも脳の血管の壁には隙間がないため、薬が脳に入りこめないのだ。血液中を行きかうメッセージ物資が際限なく流れ込むと、脳は混乱してしまう。そのためメッセージ物質の中で、脳の血管の壁を突破できるのは、インスリンなどごく一部に限られる。
脳は関門のような仕組みを持ち、薬が入ってこようとするとブロックしてしまう。この機能は脳を守るためには役立つが、薬は届かないというデメリットにもなる。カリフォルニア大学ロサンゼルス校・ウィリアムパードリッジは、関門を通ることができるインスリンの動きに注目し他の薬と合体させ血管の突起にくっつく性質を持つ物質を作った。インスリンが血管の表面の突起にくっつくと、秘密の扉が開くように壁が陥没し、そしてカプセル状の膜に包まれ、脳の血管の壁を突破することができるのだ。薬を投与した8人の患者のうち7人に改善がみられ、パードリッジは「この戦略は多くの製薬会社から注目されている。間もなくたくさんの資金が集まり、臨床試験も盛んに行われるだろう。この方法でついにアルツハイマー病の治療へと乗り出すときがきた」と話した。
1000億の神経細胞が複雑に絡み合い、私たちの営みを支え続ける脳のネットワーク。スウェーデンのウプサラ大学では、脳の細胞を分析し、それがいつ生まれたのか割り出す検査をしている。健康な人の脳では、90歳近くまで歯状回で細胞が生まれているという。カロリンスカ研究所教授・ヨーナスフリゼンは「マウスでは年をとると、新しく生まれる細胞は急激に減っていくが、人間ではそれが起きていなかった。年をとっても高い認知機能を維持できるよう、人間の脳は進化しているのではないか」と話した。
このNHKスペシャルを見て、いまさらながら人間の身体はよくできていると思い知らされた。
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1/14「人体・神秘の巨大ネットワーク 第四回」「万病撃退!腸が免疫の鍵だった」
ダイエットや美肌、肥満解消などによいと「腸内フローラ(腸内細菌)」が大注目されているが、腸は人体の中の独立国家ともいうべき臓器。腸がインフルエンザや食中毒などあらゆる病気から我々を守る免疫力を司る働きをしていることも明らかになってきた。腸内細菌と免疫細胞をうまく使い全身の免疫力をコントロールしているのだ。今回は最先端の研究で見えてきた腸の驚くべき実像に迫る。
腸は食事から大量に栄養と水分を吸収し続けている。...
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ダイエットや美肌、肥満解消などによいと「腸内フローラ(腸内細菌)」が大注目されているが、腸は人体の中の独立国家ともいうべき臓器。腸がインフルエンザや食中毒などあらゆる病気から我々を守る免疫力を司る働きをしていることも明らかになってきた。腸内細菌と免疫細胞をうまく使い全身の免疫力をコントロールしているのだ。今回は最先端の研究で見えてきた腸の驚くべき実像に迫る。
腸は食事から大量に栄養と水分を吸収し続けている。そのとき、病原菌やウイルスも一緒に入ってきてしまうが、それら外敵を抑える仕組みも備わっている。腸は免疫力を司る臓器という風にも考えられ始めている。
腸の表面はピンク色で、透明な粘液に覆われている。またびっしりと、1mmほどの突起(絨毛)が並んでいる。絨毛の内部には、毛細血管が走っている。食べ物の栄養は絨毛から吸収され、血液にのって全身に運ばれる。腸には
腸内細菌と
免疫細胞が住んでいる。腸内細菌は粘液の中に約100兆個存在する。免疫細胞は絨毛の壁のすぐ内側にある。全身には約2兆個の免疫細胞があるが、その7割が腸にある。腸に病原菌が入ってくると、腸の壁の内側にいる免疫細胞が異変を察知、攻撃メッセージを伝える物質を放出する。それを受け取った腸の壁が殺菌物質を出し、病原菌を撃退する。
腸には免疫細胞の訓練場の役割をもつ部分がある。そこに腸内細菌が入ってくると、運び役の細胞が捕まえて免疫細胞のもとに運ぶ。体に害のない細菌だと、免疫細胞に学ばせている。害のある細菌が入ってくると、これも運び役の細胞が捕まえ、免疫細胞に「敵」として学習させ、敵と味方を教えている。訓練を終えた免疫細胞は、血液の流れに乗って全身に派遣される。
免疫には外敵を倒す役割があるが、免疫が暴走するとアレルギーになったり、自分自身の細胞を攻撃して病気になる。なぜ免疫の暴走が起こるのかは、まだわかっていない。有力な仮説として、腸内細菌の異常があげられている。また特定の種類の菌が少ないと、多発性硬化症や重症のアレルギーを起こす可能性があると言われている。
大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文教授は、外敵を攻撃するのとは違う役割を持つ免疫細胞を発見、「
Tレグ(制御性T細胞)」と名付けられた。Tレグは暴走している免疫細胞を見つけると、興奮をしずめる物質を放出し、暴走を抑える役割を果たしていた。Tレグは腸で生み出されている。
クロストリジウム菌は腸内で「落ち着け」というメッセージ物質を出すが、これを腸内の免疫細胞が受け取ると、形が変わってTレグになるのだ。腸で訓練された免疫細胞と同様、Tレグは血液にのって全身に運ばれる。たどり着いた先で暴走した免疫細胞を見つけると、異常な興奮を鎮めて暴走を抑える。全身の免疫本部である腸の役割は免疫力を高めるだけにあらず。ブレーキ役も生み出して全身の免疫力を程よくコントロールする役割まで担っていた。Tレグを増やすクロストリジウム菌が少ないと、免疫疾患を発症してしまうとされている。クロストリジウム菌は、食物繊維をとることでTレグをたくさん生み出すという。
ちなみに人体の細胞は約数十兆個あるが、腸内細菌は約100兆個もある。腸内細菌の種類は、
ビフィズス菌(腸内の調子を整える)や
バクテロイデス菌(脂肪の吸収を抑え、肥満を防ぐ)など約1000種ある。クロストリジウム菌は約100種類あり、病気の原因になる菌や、免疫を制御する役割を持つ菌もある。
ところで日本人の腸には食物繊維を好む腸内細菌が多いといわれるがなぜか。それには日本人の食習慣が大きく関わっている。日本人は昔から、キノコや木の実、穀物、根菜、海藻など、食物繊維たっぷりの食材を多く食べてきた。そのため長い年月の間に、腸内細菌が免疫力をコントロールする物質を出す能力が、欧米など11か国の人と比べると、群を抜くようになった。いままでアレルギーは、皮膚や呼吸器で起こる問題と思われていた。最近の研究ではそこに、腸も関わっているとわかってきた。今、日本で、アレルギーなどの免疫の暴走による病が増え続けている原因は、私たちの急速な食生活の変化にあるのかもしれない。突然食生活が変わり、腸内細菌が変化についていけないことが考えられる。食生活を意識してもう一度見直すことが今の日本人に求められている。
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1/8「人体・神秘の巨大ネットワーク 第三回」「最新科学が明らかにする・骨の意外なパワー」
単なるカルシウムの塊だとみられていた骨。実は全身の臓器に特別なメッセージ物質を届け、記憶力や免疫力を高めて若さを生み出しているといることが最新の研究でわかってきた。骨からのメッセージ物質が脳に届くと記憶力がアップし、身体の免疫力を高め、私たちを病気から守ってくれる。骨からのメッセージが途絶えた時には記憶力や免疫力は逆に低下し老化現象は加速する。今回は人体の若さを司る門番である骨を特集する。
若さを生み出す骨のメッセージ、その1は「記憶力」。...
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単なるカルシウムの塊だとみられていた骨。実は全身の臓器に特別なメッセージ物質を届け、記憶力や免疫力を高めて若さを生み出しているといることが最新の研究でわかってきた。骨からのメッセージ物質が脳に届くと記憶力がアップし、身体の免疫力を高め、私たちを病気から守ってくれる。骨からのメッセージが途絶えた時には記憶力や免疫力は逆に低下し老化現象は加速する。今回は人体の若さを司る門番である骨を特集する。
若さを生み出す骨のメッセージ、その1は「記憶力」。コロンビア大学教授・ジェラールカーセンティは、骨が脳に発するメッセージ物質「
オステオカルシン」を発見した。オステオカルシンが出ないと、新たな記憶を蓄える脳の部位である海馬の働きが低下してしまう。カーセンティ教授は「骨が記憶力までコントロールしているというのは非常に驚きで、メッセージ物質を介して、臓器は互いに会話をしている。その内容を知ることで、骨の力をさらに解明できる」と話した。
若さを生み出す骨のメッセージ、その2は「免疫力」。免疫力の低下は、肺炎やがんの原因になる。ドイツ・ウルム大学教授・ハームットガイガーは、年老いたマウスは骨の出すメッセージ物質「
オステオポンチン」が少なくなることを発見した。オステオポンチンが出すのは「免疫力をアップせよ」というメッセージだ。
オステオポンチンは状況により働きが変わる可能性があり、今、研究が進められている。一方オステオカルシンには、記憶力をアップするだけでなく、筋肉のエネルギー効率を高める働きもある。また、男性ホルモン「
テストステロン」を増やす働きも持ち、オステオカルシンがないと精子の数が減るという研究もある。骨を強くするために、カルシウムをとることは大切だが、それだけではだめだという。
骨は毎日、作り替えを繰り返している。3~5年で全ての骨が入れ替わる。骨を作り替えるのは、疲労骨折を防ぐためと、カルシウムを体に放出するために必要な作業。ハーマンハメルズマは骨を作るのをやめようというメッセージを発する物質「
スクレロスチン」を発見した。この物質は骨の作り替えのブレーキ役を担っている。骨を作るアクセル役の物質とのバランスで、骨の量が決まってくる。アクセル役のメッセージ物質は骨を作る「
骨芽細胞」に働きかけ、「
破骨細胞」が壊した骨を修復していく。ここにブレーキ役の「スクレロスチン」が届くと、骨芽細胞は新たな骨を作るのを止めてしまう。
骨の作り替えが、どのように行われているのかを見ていこう。骨を壊す「破骨細胞」はアメーバのような形をしており、カルシウムを一旦取り込み、粉々にして噴き出す。「骨芽細胞」は骨の壊された部分に入って液体を出し、セメントで固めるようにして骨を作っていく。骨にメッセージ物質「スクレロスチン」が届くと、「骨を作るのをやめよう」と細胞に伝えられ、骨芽細胞の数が減り、骨が作られなくなる。
骨の内部にある「骨細胞」は、アクセル役とブレーキ役両方のメッセージ物質を出す、いわば建設現場の監督に相当する。全身に数百億個あり、大きさは0.02mm。骨を作る「骨芽細胞」は、筋力・免疫力・精力・記憶力をアップさせるメッセージ物質を出す役割も担っている。
骨に衝撃がかかると、骨細胞がそれを感知し「骨を作るのをやめよう」というブレーキ役のメッセージの量を減らし、「骨を作って」というアクセル役のメッセージを発することで「骨芽細胞」を増やす。骨は私たちが活動的に動いている限り、骨芽細胞からメッセージ物質を出し、全身を若く保ってくれる。コロンビア大学教授・ジェラールカーセンティは骨が衝撃を感知する役割と、臓器の若さを保つという2つの役割を担った理由について「進化の過程で活動的な個体を生き残らせるため」と説明した上で「狩りをする筋力と記憶力、子孫を残す精力、このすべてが人間にとって必要ものだ。骨は私たちの活動状態を見張り、若さを保つ判断をする。いわば人体の若さの門番にあたる」と話した。
自転車をこぐのは非常に良い運動で、心肺機能アップやメタボ予防、筋力アップにつながるが、骨を刺激するという意味では、あまり効果がない。結論から言えば、骨のためには歩くことが非常に良い。ただし高齢者は膝が悪かったりするので、無理をして走ったり歩いたりすべきでははない。そういう方は水中ウォーキングやストレッチ、ヨガがお勧めだ。
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12/17「激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃」
自国の経済に不利だとして、パリ協定からの脱退を表明した米国・トランプ大統領。日本も過去に温暖化対策の議長国の経験があるにも関わらず、温暖化対策にあまり積極的とはいえない。しかし2年前のパリ協定をきっかけにして世界ではビジネスと一体となった「脱炭素」の流れがうねりのように起きており、その動きは誰にも止められない。
アラブ首長国連邦では、広大な砂漠地帯を利用した世界最大の太陽光発電所の建設が進んでいる。...
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自国の経済に不利だとして、パリ協定からの脱退を表明した米国・トランプ大統領。日本も過去に温暖化対策の議長国の経験があるにも関わらず、温暖化対策にあまり積極的とはいえない。しかし2年前のパリ協定をきっかけにして世界ではビジネスと一体となった「脱炭素」の流れがうねりのように起きており、その動きは誰にも止められない。
アラブ首長国連邦では、広大な砂漠地帯を利用した世界最大の太陽光発電所の建設が進んでいる。広大な砂漠にびっしりと太陽光パネルが敷き詰められ圧倒的な光景が広がっている。ここでは原発1基分に相当する電気が発電でき、価格はなんと2.6円/キロワットアワー。アブダビ水電力省・アデルサイードアルサイーディは「火力発電より、この太陽光発電所の電力の方が安い。経済的に合理性がある」と話した。それにしても産油国が再生可能エネルギーにシフトしようとしているのは驚きだ。
さらに、世界最大の二酸化炭素排出国であり、大気汚染で悪評高い中国でも新たな動きが出ている。習近平国家主席は10月に開かれた共産党大会で、「世界のエコ文明を築くリーダーになる」と話すなど中国は政策転換を図っている。その背景には、深刻な大気汚染がある。広い敷地に敷き詰められ上から見るとパンダの形に並べられている巨大な太陽光発電所が登場する一方で、老朽化した石炭火力発電所を停止し、100基の火力発電所建設計画もストップさせた。ガソリン車の禁止も視野に入れ、電気自動車の普及を猛スピードで推進させ脱炭素に国をあげてシフトしている。太陽光と風力の導入量は、ここ数年急増し再生可能エネルギーの導入量は、この5年で4倍近くに上り、世界最大となっている。
19世紀後半、石油採掘により巨万の富を得たロックフェラー一族も既に「脱炭素」に舵を切っており、中国に目をつけている。ロックフェラー兄弟ファンドのマイケルノースロップは、中国の環境ビジネスの企業と面談を繰り返している。5代目のジャスティンロックフェラーは「私たちは、埋蔵されている全ての化石燃料が採掘可能で、燃やすことができるとは考えていない。化石燃料関連の会社からの投資撤退は、長期的に見ればとても良い決断で、気候変動と戦うだけでなく、利益ももたらしてくれる」と話している。JPモルガンチェース関係者は「22兆円を環境ビジネスに投資する。脱炭素のマーケットは予想以上のスピードでその規模を拡大し続けている」と話した。
こうした動きの中、日本は、世界の潮流から取り残されようとしている。50兆円を運用する英国の保険会社・アビバインベスターズは、二酸化炭素を大量に出す企業からの投資撤退に踏み出した。彼らの撤退会社リストには国内外で約20基の石炭火力発電所を運営する日本企業の名前も入っていた。アビバの最高責任者・スティーブウェイグッドは「我々は数年前から、気候変動の問題について電源開発と話し合いを続けてきたが、期待していた答えは得られなかった。よって電源開発から投資を撤退した。(温暖化による)気候変動は、我々保険会社にとって存続に関わるリスクとなっている。もし気温が4度上昇すれば、大混乱に陥り、保険事業そのものが続けられなくなるという危機感がある」と話した。富士通・田中達也社長は「環境対策はやったほうがいいというレベルから企業として取り組まなければ、もはや生き残れない段階にきている」と話し、LIXILの部長・川上敏弘は「炭素を出す会社には投資をしないと、言われている。自分たちの事業を脱炭素にしないと、資金が呼び込めなくなり、事業ができなくなる」、積水ハウスの常務執行役員・石田建一は「日本は後進国と言われているようなもの」と話した。
米国ファーストを掲げるトランプ大統領は自国の経済に不利だとして、パリ協定からの脱退を表明したが、先月6日、ドイツで温暖化対策について話し合う国連の会議「COP23」で投資家たちが向かったのは、意外なことに米国企業が作った巨大パビリオンだった。会場は、ゴア元副大統領など政財界の大物が集結するなど、熱気に包まれていた。企業の活動を後押しするカリフォルニア州ブラウン知事は「米国はパリ協定にとどまる。我々は逃げない。忍耐強く脱炭素した未来を目指し突き進んでいく」と演説した。パリ協定への支持を表明した米国の企業や自治体は、コカ・コーラやマイクロソフトなど2500を超え、それは国内の排出量の35%を占める。
世界の企業が「脱炭素」に大きく舵を切ったのには、パリ協定に加え、ここ最近相次いで起きている自然災害によって考えが変わったことが大きい。世界最大のスーパーマーケット「ウォルマート」は、巨大ハリケーンにより店舗が浸水するなど、年間22億円の損害が出ている。上級副社長・キャスリーンマクラフリンは「気候変動を食い止めるのは、ビジネスの最優先事項で、今年起きた2つの巨大ハリケーンは、私たちの顧客・店舗・社員に壊滅的で甚大な被害を与え、事業にとっても大きなコストになっている」と話した。損害を防ぐには、自ら率先して脱炭素化に取り組むしかないと判断したウォルマートは店舗の屋上に太陽光パネルを設置、店舗で使う電気を全てまかなった。今やウォルマートは太陽光発電による発電量で、米国の事業者の中で第2位となっている。また、配送トラックのドライバー8000人にエコドライブを徹底し、冷蔵設備を効率的なものにするなど、様々な対策を進め、結果的にエネルギーコストが劇的に下がり、巨額の利益につながった。環境本部長・キャサリンニーブは「ビジネスとしても非常に多くのビジネスチャンスがある。我々は65万トンの二酸化炭素を削減し、その結果1000億円以上も節約できた」と話した。
脱炭素の取り組みは、金を生み出す。ウォルマートをはじめ、いま世界の企業が、再生可能エネルギーだけで事業を運営することを目指し走り出している。この動きを加速させているのはマネーの流れの変化だ。投資家の意識が大きく変わった。COP23の会場にはバンクオブアメリカメリルリンチ、JPモルガンチェース、シティグループなど、金融界の大物たちも顔をそろえた。脱炭素を掲げる企業に、こぞって大量の資金を振り向け始めた。パリ協定が企業に対する評価を一変させた。協定では今後世界で排出できる二酸化炭素の量に、事実上の上限を設けた。試算では、現在のペースで化石燃料を使い続ければ、約25年後に上限に達する。このため地中の化石燃料の3分の2は、掘り出しても使えなくなる。つまりその価値はないのに等しい。化石燃料への依存度が、企業の価値をはかる新たな物差しとなった。
一度建設すれば通常30年以上稼働し、二酸化炭素を出し続ける石炭火力発電所。脱炭素を求める投資家たちは、受け入れられないという。しかし日本企業にとって、再生可能エネルギーへの転換は容易ではない。風力発電を手がけてきた戸田建設は、将来のビジネスの柱の1つに育てようと、10年前から洋上風力発電に取り組んできた。海に浮かべるタイプの「浮体式」なら、水深の深い海でも設置できる。佐藤郁部長は、プロジェクトを立ち上げたメンバーの1人で環境省や大学と実証事業を行ってきた。実用化に成功したのは、世界でも2社しかないという。だが日本で稼働しているのは1基だけ。佐藤部長は「10年経っているが、1円も儲かっていない」と話した。
日本で再生可能エネルギーが普及しない理由の1つは、発電コストが高いことで、設置に適した広い土地が少なく、人件費や設備の費用も下がっていない。もう1つの理由は、作った電気を自由に売れないことだ。日本に戻ったリコーの加藤茂夫は、企業の環境対策の担当者や投資家の前で講演を行い「全世界で脱炭素が動き始めている。日本だけが一歩も進んでいない。ぜひ一緒にやっていきたい」と訴えた。洋上風力発電に取り組む戸田建設の佐藤郁は、投資家が大きな関心を示してくれたことを報告し、「台風という非常に強烈な気象環境のなかでできている実績があるので、アジア地域ではそのまま展開していけるしニーズもある」と提言した。さらに佐藤は、洋上風力発電をともに開発する大手メーカーと協議し、「次の技術をどんどん開発していかないと、目標を達成できない。今ならまだ間に合う」と話した。脱炭素革命には巨額なマネーが流れ込み、新たなビジネスチャンスが広がっている。日本もこの流れに乗り遅れてはならない。
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11/5「人体・神秘の巨大ネットワーク 第二回」「驚きのパワー!脂肪と筋肉が命を守る」
今回のテーマは「脂肪と筋肉」。これまで脂肪と筋肉は人体の臓器とさえ見なされず、軽く扱われてきたが、最近の研究で身体の中で重要な役割を果たしている臓器であることが明らかになってきた。実は脂肪は全身に情報を伝える特別なメッセージ物質を出している臓器である(番組では細胞から細胞へメッセージを伝える物質を、「メッセージ物質」と呼んでいる)。
これが脳に働きかけて欲望を操ったり、免疫の働きを左右したりしている。...
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今回のテーマは「脂肪と筋肉」。これまで脂肪と筋肉は人体の臓器とさえ見なされず、軽く扱われてきたが、最近の研究で身体の中で重要な役割を果たしている臓器であることが明らかになってきた。実は脂肪は全身に情報を伝える特別なメッセージ物質を出している臓器である(番組では細胞から細胞へメッセージを伝える物質を、「メッセージ物質」と呼んでいる)。
これが脳に働きかけて欲望を操ったり、免疫の働きを左右したりしている。筋肉もまた情報を伝えるメッセージ物質を出し、がんの増殖を抑えたり、記憶力をアップさせたりしている。番組では脂肪と筋肉の最新情報を紹介する。
皮下脂肪や内臓脂肪の正体は、実はひとつの大きさが0.1mmの脂肪細胞の塊であり、脂肪細胞は人間の食欲を抑える物質「レプチン」を出している。この物質を発見したロックフェラー大学教授・ジェフリーフリードマンは「脂肪が出す物質は、食欲のコントロールを担うとても重要なもの」と述べた。
食事でとった糖分や脂は、この脂肪細胞の袋にため込まれる。たまった脂が増えるにつれ、メッセージ物質・レプチンが細胞の外に押し出される形で放出される。レプチンは血管に入り、血流にのって「エネルギーは十分たまっている」というメッセージを脳の視床下部にある神経細胞に伝える。この神経細胞の表面には、レプチンだけを受け取る特別な装置がある。レプチンを受け取ると、脳は「もう食べなくていい」と判断し、食欲が収まることになる。脂肪はレプチンのほかにも、栄養や酸素が欲しいときに血管を作るメッセージ物質や細菌やウイルスをやっつけろというメッセージ物質など、約600種類のメッセージ物質を出しているという。
一方、人間の体には、全部で400種類の筋肉がある。筋肉の細胞は、長いものでは10cm以上もあり、トレーニングをするとこの細胞が成長し、太くなっていく。最新の研究で、筋肉細胞も様々なメッセージ物質を出していることがわかってきた。筋肉の出すメッセージ物質の中には「がんの増殖を抑える」「うつ症状を改善する効果がある」というものもある。筋肉の細胞から出るメッセージ物質の中のひとつである「カテプシンB」は、記憶を司る海馬の神経細胞を増やし、人間の記憶力を高める働きをしている可能性がある。
ここで一つの疑問が出てくる。本来「レプチン」が正常に機能していればコントロールできるはずの食欲がなぜ「メタボリックシンドローム」に陥った人はコントロールできなくなるだろうか。メタボの人の身体の中を特殊なカメラで見てみる。内臓脂肪の周囲を見ていくと、煙のように糖分や脂が漂っている。脂肪細胞の表面にこの脂の粒がぶつかると、脂肪細胞が細菌などの敵だと勘違いし、「敵がいるぞ」という誤ったメッセージ物質を出してしまう。このメッセージ物質は血管にのって全身に流れ、免疫細胞を活性化させてしまう。免疫細胞は次々と分裂し、「敵がいるぞ」というメッセージを次々と拡散させていく。この免疫細胞の暴走こそ、メタボを引き起こす元凶だ。暴走した免疫細胞は血管の壁の内部に入り込み、溢れた脂を「排除すべき異物」と判断して次々と取り込んでいく。膨れ上がった免疫細胞はやがて破裂し、有毒物質をまき散らし、これが原因でメタボ特有の病気すなわち心筋梗塞や脳梗塞、腎臓病、糖尿病などを引き起こすのだ。
実はこれを防ぐのに筋肉が出すメッセージ物質が鍵を握っている。免疫の暴走を抑えるメッセージ物質を、筋肉の細胞が出してくれるのだ。コペンハーゲン大学教授・ベンテペダーセンは、足の筋肉を動かしたときにどんなメッセージ物質が出るか、詳しく分析し、その結果、メッセージ物質「IL-6」が大量に見つかったという。8人の被験者に、運動後に出るのと同じくらいの量のIL-6を注射すると、「敵がいるぞ」というメッセージ物質の量が半分以下に減ったという。IL-6を受け取るのは、暴走している免疫細胞。このIL-6が伝えるのは「戦うのはやめて」というメッセージ。これを受け免疫細胞の戦闘モードは解除され、免疫の暴走が収まるという。ペダーセンは「私たちの体は動くことを前提に作られている。だから動かずにいれば、筋肉からの大切なメッセージ物質が出なくなり、病気に陥る。とにかく筋肉を動かせば命が守れる」と語る。筋肉を活性化させることで「IL-6」を出すことが重要なのだ。
ちなみにメッセージ物質「IL-6」は日本人が発見したもので、従来はむしろ免疫を活性化するメッセージ物質として知られていた。「IL-6」は状況によって働き方が変わるという報告が多数あり、現在、詳細な研究が続けられているという。
これまでは臓器とさえ思われていなかった「脂肪と筋肉」。その未知のパワーはまだ解明され始めたばかりだ。今この瞬間も身体の中でメッセージ物質を出し続けている。
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