北部にヒマラヤ山脈を抱えるネパール(1923年英国から独立、2008年王政廃止し連邦共和制移行)は、4月6日現在新型コロナウィルス(COVID-19)感染者27万8,210人、死者3,036人(致死率1.1%)と、人口当たりの感染者数はインド程ひどくなくとも、パキスタン・インドネシアよりは悪く、しかも依然新規感染者数が急増している。しかし同国政府はこの程、感染症のために大きく落ち込んだ景気を回復させるため、同国主要の山岳観光産業を救済するべく、エベレスト登山を解禁した。なお、具体的な感染症対策が整備できていないことから、同国は入山者に高額のCOVID-19保険付保(感染者発生の場合の緊急搬送等の追加費用補填)を義務付けている。
4月5日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙:「COVID-19感染問題未解決の中、エベレスト登山解禁で、これまで以上に危険な登頂に」
ネパール政府はこの程、COVID-19感染問題で疲弊した同国経済回復のため、同国主要の山岳観光産業を救済するべく、今年3月から5月の間のエベレスト山(8,848メートル)登頂を解禁した。
そして同政府は、エベレスト山登頂許可証を300人余りの登山家に交付した。...
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4月5日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙:「COVID-19感染問題未解決の中、エベレスト登山解禁で、これまで以上に危険な登頂に」
ネパール政府はこの程、COVID-19感染問題で疲弊した同国経済回復のため、同国主要の山岳観光産業を救済するべく、今年3月から5月の間のエベレスト山(8,848メートル)登頂を解禁した。
そして同政府は、エベレスト山登頂許可証を300人余りの登山家に交付した。
ただ、同国のCOVID-19新規感染者は依然急増していて、十分な感染症対策が整備できていない状況にある。
そこで同政府は、カトマンズ空港到着時に事前PCR検査による陰性証明、あるいはワクチン接種証明書携帯を義務付け、更に、マスク着用、ソーシャルディスタンシング確保の励行を求めている。
しかし、COVID-19感染流行以前の2019年においても、エベレスト山登頂に失敗しての死者11人を出していることから、COVID-19感染蔓延状況下での同山登頂は益々危険が増すと予想される。
そうした中、今回初登頂に挑もうとしているのが、1980年代に全米プロフットボール・リーグ(NFL)で活躍したマーク・パティソン元選手(59歳)である。
同氏は、2013年から七大陸最高峰(注後記)征服を目指していて、今春にエベレスト山登頂に成功すれば、元NFL選手初、かつ、最高齢での七大陸最高峰征服者となる。
ただ、COVID-19感染が蔓延中の登頂は更に危険を伴うことになるが、同氏は全く怯まず、“今春に何が何でも登頂したい”と述べている。
同氏は今週(4月5日の週)にエベレスト山ベースキャンプに入る予定で、その他、英国人女性登山家アドリアーナ・ブロウンリー氏(21歳)がバース大学(1966年設立の国立大学)を中退して同山登頂を目指す。
彼女は、COVID-19感染の観点では英国よりネパールの方が安全だとして、今回の登頂を決定したとしている。
なお、同国政府発表では、COVID-19蔓延に伴う景気後退によって、人口3千万人のうち少なくとも150万人が山岳観光停止措置による失職や収入大幅減少に遭っているという。
そこで、同国観光庁のルドラ・シン・タマング局長は、“山岳観光産業救済のため、登山解禁する他に選択肢はない”と吐露している。
同庁によれば、エベレスト山ベースキャンプには医療専門家を常駐させている他、入山者グループの感染防止対策徹底に加えて、通常必要とされる登山保険5万ドル(約550万円、遭難等の場合の救急隊派遣費用等をカバー)に加えて、追加のCOVID-19感染対策保険も付保するよう求めている。
一方、2年振りに解禁となったエベレスト山登頂許可証を申請・取得したのは、パティソン氏の他、名立たる登山家・探検家が名を連ねていて、バーレーンの王子や自国で最初の女性登頂者を目指すカタール人女性等が含まれている。
(注)七大陸最高峰:地球上にある7つの各大陸で最も標高が高い山。高さの順に、アジア大陸:エベレスト(中国・ネパール、8,848メートル)、南米大陸:アコンカグア(アルゼンチン、6,962メートル)、北米大陸:デナリ(米・アラスカ州、6,190メートル)、アフリカ大陸:キリマンジャロ(タンザニア、5,895メートル)、ヨーロッパ大陸:エルブルス山(ロシア、5,642メートル)、南極大陸:ヴィンソン・マシフ(南極半島付近、4,892メートル)、オーストラリア大陸:コジオスコ(オーストラリア、2,228メートル)。
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