ベトナムは1月下旬、5年に一度のベトナム共産党大会を開催し、次の5年を託す新指導部を選出する。中国と同様、党中央委員会の中で予め候補が選出されるので、大きな変更はない模様であるが、領有権問題で中国と対峙し、また、米国からは為替操作国との非難を浴びていることから、新指導部によるこれら大国との対応策が注目される。
1月5日付
『ブルームバーグ』オンラインニュース:「ベトナムの新指導部、緊張高まる中国、米国にどう対応?」
ベトナム(1945年フランスから独立、1976年南北統一)は、世界でただ5ヵ国存在する共産党一党独裁国家のひとつである(他に、中国、キューバ、ラオス、北朝鮮)。
そのベトナムが1月下旬、5年に一度開催されるベトナム共産党大会において、次の5年を託す新指導部を選出する。
同国は目下、南シナ海領有権問題で中国と対峙し、一方、米国から為替操作国と指定され、今後の米国・ベトナム間貿易に影響が出る恐れとなっていることから、新指導部がこれら大国とどう渡り合っていくのか注目されている。
1. 指導体制
指導部は、“4柱”と呼ばれる、党中央委員会書記長(最高指導者)・国家主席(国家元首)・首相(政府の長)・国会議長(立法府の長)による集団指導体制を敷いている。
これらの代表は、17から19名から成る党中央政治局(共産党の上級機関)と協議しながら政治運営をしている。
ただ、チャン・ダイ・クアン国家主席(1956~2018年)が急逝した際、グエン・フー・チョン書記長(76歳)が国家主席を兼務することとなったため、現行3人の指導体制となっている。
2. 選出システム
13期目となる共産党大会は、1月25日から2月2日の間に開催される。
全国から集まった約1,600人の共産党員が、約200名の党中央委員会委員を投票によって選出し、その中から党中央政治局員が選ばれ、互選で書記長が選出される。
そして、同政治局が首相及び閣僚候補を選出し、今年半ばの国会での批准を経て正式に承認される。
3. 候補者
グエン・スアン・フック首相(66歳)は、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行蔓延を防いだことで称賛を浴びており、新書記長候補と言われている。
最大のライバルとなるのは、チャン・クオック・ブオン党中央官房長官(67歳)で、チョン書記長が主導した反汚職キャンペーンの陣頭指揮を執った実績が認められている。
首相候補としては、ブオン・ディン・フエ党中央経済委員会主席(63歳)の名前が挙がっている。
また、国家主席には、ファム・ビン・ミン副首相兼外相(61歳)が選出される可能性がある。同氏は、米タフツ大(1852年設立のマサチューセッツ州私立大学)の修士号を保有している。
一方、国会議長には、チュオン・ティ・マイ党中央委員(62歳)が候補となっており、彼女が選出されれば、グエン・ティ・キム・ガン現議長(66歳)に続き2番目の女性議長となる。
4. 新指導部への課題
COVID-19に伴う世界的景気後退に即して、輸出依存型のベトナム経済をどう立て直し成長させるか、という第一の課題がある。
次に、昨年10月、米政府から通貨操作の嫌疑より、ベトナム産自動車・トラックタイヤに対して関税賦課が通告され、また、12月には、米財務省から“為替操作国”と指定されてしまったことから、両国間の貿易交渉で緊張が高まる恐れがある。
更に、2020年の対米黒字が前年の560億ドル(約5兆8,240億円)出超から更に増える可能性があることから、対米輸出に影響が出る恐れがあり、これへの対応も迫られることになろう。
5. COVID-19の影響
ベトナムは、感染症死者が非常に少ない国のひとつであるが、世界的景気後退の影響から、2020年経済成長率は+2.91%まで下落している。
特に、ベトナムの主要輸出品であるスマートフォン、ワイシャツ等の大衆消費物の需要が大きく減少してしまっている。
そこで、目下のところ2021年経済成長率は、2019年の+7.02%から減退した+6%前後と見込まれている。
6. 超大国との関係
ベトナムは、自国産の工業製品生産のために中国に主要材料・機器を依存している。
一方で、両国間で1979年に中越戦争が発生していて、現在でも南シナ海において領有権問題を抱えている。
そして、米政権による中国制海権対抗政策もあって、ベトナムとしては経済・軍事両面で米国頼みとなりつつある。
そこで、バイデン新政権誕生もあって、更に関係緊密化が予想される。
7. ベトナムが抱える問題
米ニールセン(1923年設立)調査によれば、ベトナムは世界でも最も楽観的な国の部類に入るという。
しかし、人権擁護団体からは、政治参加や一般市民の自由度がかなり制限されていると批判されている。
特に、豪州ニューサウスウェールズ大学(1949年設立の公立大学)のカール・サイヤー名誉教授によれば、2019年にサイバーセキュリティ法が制定されて以降、汚職等の問題を公然と表明したベトナム人が多く逮捕され、裁判にかけられているとする。
8. 海外企業への対応
ベトナムは、COVID-19防疫で成功を収めており、また、これまでと同様、インフラが整備され、外資導入に積極的で、政権が安定していること、かつ教育程度が高いが低賃金の若年労働者が集めやすいという環境より、海外企業にとって魅力ある国に映る。
今後は、米アップル(1979年設立のカリフォルニア州法人)のような世界的巨大企業向けの先端技術製品製造・輸出元になっていくことによって、更なる経済成長が期待される。
ただ、前述した、米政府による関税賦課問題等で対米輸出に影響が出ないか、外資も懸念するところではある。
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