北朝鮮は、長い間の国連制裁で国内経済は疲弊している。そして、今回の新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題に加えて夏季の集中豪雨の被災で、青息吐息となっているとみられる。そこで、金正恩(キム・ジョンウン)委員長としては、国連制裁を骨抜きにして中国からの支援を是非とも仰ぎたいところであろう。しかし、ある米メディアは、かかる状況下であっても北朝鮮は、自国の核開発を投げ出して中国の核の傘に収まろうとする程、中国を信用してはいないと論評している。
8月25日付
『フォリン・ポリシー』オンラインニュース(1970年創刊の国際政治・外交専門紙):「北朝鮮は中国が守ってくれると信じておらず」
金正恩委員長と習近平(シー・チンピン)国家主席は2018年3月、初めて首脳会談を持ち、公式発表では、平和、非核化、産業、経済開発、両国間関係強化について協議した。
もちろん、同盟関係にある両国ゆえ、上記の話題は容易に想像できる。
しかし、実際のところ、両国はそれ以上に張りつめた関係にあると言える。
すなわち、北朝鮮は当然中国が自国側に立ってくれることを歓迎しているが、だからと言って、安全保障問題まで中国に依拠しようとは考えていない。
従って、彼らには非核化など全く頭にないことである。
米国は、長い間の戦略で、韓国及び台湾の核保有の可能性を潰してきた。
また、日本に対しては、日米安全保障条約という確たる約束の下、米国の核の傘に収まることを了承させてきた。
かかる例からすると、北朝鮮が大国となった中国の核の傘に収まることも十分考えられるが、唯一、北朝鮮そのものがこの考えに賛同することはない。
確かに、朝鮮戦争(1950~1953年)の間に、血の同盟を結んだ中国の参戦を得て北朝鮮は助かった。
しかし、米国と日本・韓国との同盟関係と、中国と北朝鮮の同盟関係は明らかに違う。
それは、“主体思想(注1後記)”及び核抑止力保持という基本的理念が根底にあるからである。
主体思想は、北朝鮮を建国した金日成(キム・イルソン)国家主席(1912~1994年)が、1960年代の自国が置かれた苦しい状況から、自主性維持が基本的理念として重要であるとして生み出したものである。
そして、この理念を受け継いだ金正日(キム・ジョンイル)総書記(1941~2011年)が、内政、外交、経済開発、更には国防においても自主性維持を貫き、発展させてきた。
中国は、かつての王国がしばしば朝鮮半島を制圧しており、近代においても影響力を行使してきた。
確かに中国は、朝鮮戦争の際は北朝鮮を支援したが、文化大革命(1966~1976年、注2後記)の時代には、北朝鮮に攻め入っている。
また、現代においても、中国は国連の対北朝鮮制裁を支持している。
かかる背景より、北朝鮮にとって、中国は主体思想の例外とは到底考えられず、従って、どんなに経済連携が強化されようとも、それとは逆説的に、北朝鮮は中国の核の傘に収まることに強く抵抗しよう。
金正恩委員長は、“並進路線(ビュンジン路線)”という、経済開発と軍事力強化を並行して取り組む方針を掲げている。
従って、経済不況に陥って、中国への依存度が高まったからと言って、軍事面でも中国に依拠しようということにはならず、むしろ逆に、より軍事的自立が必要と考えているようにみえる。
具体的事例は以下の三つ。
●韓国政府が2016年、中国の反対を押し切って米国製終末高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備に合意。これに反発した中国政府は、同システム配備場所を提供したロッテ・グループの中国国内商業活動を徹底的に妨害して、撤退させただけでなく、官民を挙げて韓国製品ボイコット、韓国旅行の制限等、意趣返しのオンパレード。この結果、韓国の国内総生産(GDP)は▼0.5%減。
●COVID-19感染流行が囁かれ始めた1月、北朝鮮は、いの一番に同感染症発症地の中国との国境封鎖を決定。この結果、3月時点での対中国貿易高は前年比▼91.3%急落となり、経済不況を益々促進。
●金正日総書記が推進した核兵器開発を金正恩委員長も継続し、国連常任理事国5ヵ国及びインド・パキスタン・イスラエルの核保有国から成る核クラブの一員となる。その結果、経済規模が世界120位前後の小国(米国の1千分の1以下)が、米国、中国、ロシア、日本、韓国等先進国からも一目置かれて外交交渉が可能な国に格上げ。
以上より、北朝鮮にとって生死に関わる程重要と位置付けられる核抑止力を放棄して、信用に足るとは思われない中国の核の傘に収まることなど決してあり得ないと考えられる。
(注1)主体思想(チュチェ思想):北朝鮮及び朝鮮労働党の政治思想。この思想は、中ソ対立のはざまで、自国の自主性維持に腐心する金日成が、「我々式の社会主義」に言及する中で登場し、1972年の憲法で「マルクス・レーニン主義を我が国の現実に創造的に適用した朝鮮労働党の主体思想」と記載されるに至っている。
(注2)文化大革命:中国共産党中央委員会主席毛沢東(マオ・ツォートン)主導による文化運動。名目は「封建的文化、資本主義文化を批判し、新しく社会主義文化を創生しよう」という文化の改革運動だったが、実際は、大躍進政策の失敗によって国家主席の地位を劉少奇(リウ・シャオチー)党副主席に譲った毛主席が自身の復権を画策し、紅衛兵と呼ばれた学生運動や大衆を扇動して政敵を攻撃させ、失脚に追い込むための官製暴動であり、中国共産党内部での権力闘争だった。
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