既報どおり、米中間の対立は、貿易問題に留まらず、軍事面での露骨な対決姿勢が鮮明になってきている。そうした中、2年に1回開催される、米海軍太平洋艦隊主催の環太平洋合同演習(RIMPAC、注後記)について、前回2018年に続いて招待されなかった中国人民解放軍(PLA)が、その腹いせとばかりに、南シナ海の人工島に複数の軍艦・戦闘機を配備している。
8月4日付米
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース:「中国、南シナ海のスプラトリー諸島に軍艦・戦闘機配備」
直近の衛星写真並びに中国国営メディア報道によると、中国は領有権争いのある南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島に建設した複数の人工島に、複数の軍艦及び最新鋭戦闘機を配備しているという。
これは、米海軍太平洋艦隊主催で8月17~31日の間、ハワイ沖で大々的に催されるRIMPACを意識しての対応とみられる。
今年開催の第27回RIMPACには、前回(2018年第26回)と同様PLA海軍は招待されておらない代わり、日本・カナダ・オーストラリア・韓国等の主要参加国に加えて、南シナ海で中国と領有権問題を抱えるベトナム、ブルネイ、マレーシア、フィリピンの他、シンガポール、インドネシア等が参加することになっている。
米国主導による中国包囲網構築に神経を尖らせている中国は、RIMPACに参加する南シナ海周辺国に睨みを利かせようと考えてか、中国国営メディアによると、中国が岩礁上に建設した7つの人工島のうち、4つの最大級人工島のひとつであるスビ礁の軍事基地に、最新鋭戦闘機が配備されたという。
また、8月3日に撮影された衛星写真によると、中国海警局の艦船及び複数の武装船が停泊しているのが認められる。
スビ礁は、南シナ海南部海域にあって、ベトナム、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイも領有権を主張している。
また、同礁は、フィリピンが実効支配しているティトゥ島(フィリピン名パグアサ島)から僅か13海里(約24キロメートル)しか離れておらず、同島では最近、埠頭の接岸施設及び滑走路(全長1,400メートル)の整備が完工している。
ただ、スビ礁上の中国軍事施設は、フィリピンのものを遥かに凌いでおり、舗装滑走路は全長3,000メートル、レーダー及び通信設備に加えて、ミサイル発射台等も整備されている。
そこで、親中派とされるロドリゴ・ドゥテルテ大統領は先週、“中比間の軍事力の格差は決定的であることから、自身が大統領の間は中国に戦いを挑むことはない”とした上で、“従って、中国側が淡々と領有権を固めていくことに抗いようがない”と白旗を挙げている。
一方、PLA海軍は、同海域最大規模の人工島を建設したミスチーフ礁にも、2隻の軍艦を配備している。
8月2日撮影の衛星写真からは、タイプ054A型フリゲート(江凱型ミサイル駆逐艦)及びタイプ056型コルベット(江島型対潜護衛艦)と認められる。
なお、ミスチーフ礁については、マイク・ポンペオ国務長官が7月13日、“中国の南シナ海における領有権主張は国際法違反である”とした上で、“ミスチーフ礁及びセカンド・トーマス礁は、明らかにフィリピン領海内にある”と強調している。
この発言について、フィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防相は、ドゥテルテ大統領の見解と違って、ポンペオ長官の発言を歓迎するとした上で、RIMPAC参加のために同国最新鋭フリゲート“ホセ・リーザル”(今年7月10日就役)を派遣するとし、同艦は7月29日にハワイに向けて出港している。
同日付中国『環球時報』:「PLA戦闘機、南シナ海での10時間の最長対空時間記録達成」
PLA空軍所属のSu-30(ロシア製複座多用途戦闘機)が最近、本土から最も離れた南シナ海までの監視飛行に当たって、10時間に及ぶ最長対空時間記録を達成した。
海南省(ハイナン)の地元テレビが8月3日に報じたもので、軍事評論家によると、この記録達成は、技術的にもパイロットの肉体・精神上も大変な挑戦で見事なものだという。
なお、PLAは既に南シナ海の複数の人工島に、複数の戦闘機を配備しているが、最新鋭戦闘機のメインテナンスを南シナ海の人工島で実施することは困難であるため、中国本土と人工島間を直に往来することが重要であることから、今回の最長対空時間記録達成は意味がある。
(注)RIMPAC:米国・カナダ・オーストラリア・日本・韓国など環太平洋諸国の海軍が中心となって2年に1回実施される、世界最大規模の合同軍事演習。初めて開催されたのは1971年で、以降1974年まで毎年開催されたが、規模の拡大に伴い隔年実施に変更。日本の海上自衛隊が参加したのは1980年からであり、非英語圏からの参加は初。2014年からPLAが参加したが、2018年では、南シナ海の軍事拠点化での米中対立より、招待されず。2020年も同様で中国は仲間外れ。
閉じる