トランプ大統領がデンマーク領グリーンランド購入を提案したことに対し、デンマークのフレデリクセン首相は「ばかげている」と一蹴した。それをうけてトランプ大統領は20日、9月上旬のデンマーク訪問を延期する意向を明らかにし、さらに21日には、フレデリクセン首相の対応を「不快だ」とし、米国に対する侮辱だ、と述べた。
このやりとりが外交上の波紋を広げているが、今回トランプ大統領がグリーンランドに関心を持つ以前から、グリーンランドの地政学的な重要性は明らかになってきていた。...
全部読む
トランプ大統領がデンマーク領グリーンランド購入を提案したことに対し、デンマークのフレデリクセン首相は「ばかげている」と一蹴した。それをうけてトランプ大統領は20日、9月上旬のデンマーク訪問を延期する意向を明らかにし、さらに21日には、フレデリクセン首相の対応を「不快だ」とし、米国に対する侮辱だ、と述べた。
このやりとりが外交上の波紋を広げているが、今回トランプ大統領がグリーンランドに関心を持つ以前から、グリーンランドの地政学的な重要性は明らかになってきていた。中国の関心も引き付けている。
グリーンランドの戦略的な価値が高まっていることは、北極域の海氷が小さくなり、北極海航路が使用可能になったことと密接に関連している。新たな航路は、パナマ運河やスエズ運河を周航する航路と比べて航海にかかる日数を大幅に減らすことができるからだ。
グリーンランドには現在5万8千人が暮らしており、世界で最大の島である。その80%は氷床や万年雪におおわれている。住民はデンマーク国籍を持っているが、1979年以来自治政府が置かれている。グリーンランドにおける最大の産業は漁業と観光業。しかし石炭、亜鉛、銅、鉄鉱石、そして希土類鉱物などの天然資源が豊富であるとみられているため、その点からも注目が高まりつつある。
中国は現在、米国との貿易紛争に巻き込まれているが、それ以前から、北極海航路を活用することにより「北極のシルクロード」の交易推進に関心を示していた。2018年には、最終的には提案を撤回したものの、新しい空港と鉱業施設を建設することを提案していた。ある専門家は、「多くの国々にとって戦略的に非常に重要な国に中国が相当の投資を行っていたら、中国が大きな影響力を持つようになっていただろう」と指摘した。
今年初め、米国の国防総省は報告書を作成し、その中で、中国がグリーンランドに関心を持っていることに対してデンマークが公式に懸念を表明した、と報告していた。また、同報告書の中では、「民間の調査からも、北極海で中国の軍事的プレゼンスが高まっていることが裏付けられる。核攻撃への抑止力として北極海に潜水艦を展開している可能性もある」と指摘されていた。
グリーンランドは現在、米軍の絶好の拠点となっている。米国とグリーンランドは第二次大戦以来、同島に米軍の施設を置くことで合意している。同島にある米軍のチューレ空軍基地では、弾道ミサイル早期警戒システムと人工衛星の追跡システムが設置され運用されている。
グリーンランド購入を打診したのはトランプ政権が初めてではない。1946年に米国のトルーマン大統領は1億米ドル相当の金で購入する意欲があると表明していた。そしてさらに時代をさかのぼれば、1867年にも購入するという案があった。
世界の強国が北極圏取り込みの先陣争いを仕掛けており、同地域への影響は極めて大きいと専門家は指摘する。専門家は、「北極圏には、グリーンランドと同様の経済的な機会が数多くある」と述べたが、「世界最大の鉄鉱石と亜鉛の鉱山がいくつかあるが、開発にはコストがかかる。環境対策のコストと、北極圏とグリーンランドに居住する人たちへの対策のコストだ」とも指摘している。
閉じる