メルケル首相は現在64歳。最初に症状が見られたのは、6月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領の歓迎式典の最中だった。首相はその際には、「水を飲んだら気分は良くなった」と語っていた。6月27日にドイツのシュタインマイヤー大統領との公務中にも震えの症状が見られた。しかし報道官は、首相は健康だと語り、その後28日からの大阪で行われたG20に予定通り出席した。当時、政府のある関係者は
『ロイター』に、むしろ精神的な問題だ、と語っていた。日本でのG20の後、メルケル首相はすぐ、ブリュッセルで行われたECB総裁や欧州委員長など決める会議に出席した。この会議は各国間の複雑な調整を必要とするものだった。さらに、7月10日のフィンランドのリンネ首相の歓迎式典の最中に、身体が震える発作を再発させた。リンネ首相との会談後の会見では「健康状態は良い」と語り、「ウクライナ大統領訪問時に起こった問題について対処している」とし、「この症状が治まっていないのは確かだが、改善している。しばらくこの症状と付き合っていくしかないが、調子はいいので、皆さん心配しないでください」と述べた。
11日のデンマークのフレデリクセン首相の歓迎式典には、両首相とも座って参加した。このような式典には起立して出席するのが外交儀礼上通例とされる。この日の式典では震えの症状は見られず、笑顔を見せていた。当日の会見で健康問題を問われて、詳細は語らなかったものの、「責任の重さは理解している。健康については適切に対応し、気を付けている」と語った。
メルケル首相の周囲はこの問題について説明しておらず、ドイツメディアの中で原因についての各種の観測がささやかれている。メルケル首相は2005年から現職にあり、これまで深刻な健康上の問題は見られていなかった。2016年11月には、「健康が許すなら」続投を目指す、と語っている。しかし昨年12月には、CDUの党首の座をカレンバウアー氏に譲っており、これは権力継承の始まりとみなされている。なお、過去をさかのぼれば、1998年には「半死半生の難破船のような状態になるまで政治の世界にいたいとは思わない」と語っている。
万一メルケル首相が健康上の理由で首相を続けられなくなった場合、議会が新しい首相を選ぶまでの間、シュタインマイヤー大統領が代理として首相をつとめることとなる。
しかし、メルケル首相側の複数の関係筋によれば、メルケル首相もCDU党首のカレンバウアー氏も、2021年の継承の前倒しは望んでいないという。もし万一メルケル首相の降板が早まれば、選挙の時期も早まる可能性があるからだ。また情報筋は、SPDとの関係も難しい問題になってくる、とも語っている。
ドイツの世論調査機関フォルザのトップは、メルケル首相は透明性を高めるべきだ、と語る。「メルケル首相は安定の要だ。多くの人が任期の最後まで首相を続けてほしいと思っている。“問題に対応している”と語るだけでは不十分だ。これは重要な問題に思える。何が問題なのかきちんと示すべきだ。」と『ロイター』に語った。また、医療関係者によれば、震えの原因としては多様な原因が考えられるという。
米国では、大統領の健康診断結果はその一部が毎年公表される。しかしドイツでは、政治指導者の健康問題はプライバシーの問題として扱われると考えられている。特にメルケル首相はプライバシーを大切にすることで有名で、夫と公式の場に登場することもほとんどない。
メルケル首相は、職務に対する強い倫理観で知られ、EUの他のリーダーよりも多くの任期を経験しており、複雑な議論の細かな内容でも議論できることで知られている。過去、メルケル首相は冗談で、自身を「眠るラクダ」と評していた。週末に十分に眠れば、数日間は2~3時間の睡眠で仕事ができる、という。首相は今夏の終わりに休暇を取ることになっている。
メルケル首相は2005年の就任以来、欧州で大きな役割をはたしてきた。EU危機への対応、2015年の中東からの移民の受け入れなどだ。だが、欧州もドイツ自身も、それらの対応について分断されたままの状態だ。
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