インドのデリー首都圏政府は3日、首都の治安向上の取り組みの一環として、約85万人の女性の公共交通機関利用を無料化する方針を発表した。治安や環境の改善につながるとしているが、その効果や実現性を疑問視する専門家なども多く、論議を呼んでいる。
『AFP通信』、
『BBC』や地元紙
『タイムズ・オブ・インディア』などのメディアが報じた公共交通機関無料化の措置は、約85万人の女性を対象とする。実施のためにインド中央政府の承認が必要となる可能性があり、施行は2~3カ月後の見通しだという。
デリーでは2012年、女子学生がバスの中で集団による性的暴行を受けて殺害される事件が発生し、激しい抗議デモが起きた。それ以来同市は、女性の安全について悪名高い都市となっている。2000万人近くの人口を抱える同市は、国連によると、世界で最も環境汚染が進んだ都市の1つだ。また、デリーの公共交通機関は老朽化している上、ここ数カ月の間、一部の地下鉄の運賃が2倍に上昇し、多くの人が利用できない状況となっていた。
デリー首都圏のアルビンド・ケジリワル首相は、女性の公共交通機関の無料化を実現するためには、毎年約1億1500万ドル(約124億円)が必要となるが、これによって治安が向上し、交通機関による環境汚染の状況も改善すると説明した。
ケジリワル首相は、「安全な移動の経験をしてもらうため、女性は無料で交通機関に乗ることができる。」と記者会見で述べた。首相はまた、首都圏政府は今年、15万台の防犯カメラを市内各地に設置する計画であることも明らかにした。
ケジリワル氏は、少数政党の庶民党(アーム・アードミ党、AAP)の党首であり、今回の無料化の政策は、来年1月に実施が予定されている州議会選挙対策であると批判する評論家らもいる。ソーシャルメディア上でも、効果や実現性をめぐり賛否両論がある。
AAPは2015年の州議会選で、飲料水の無料化、電気代の補助、貧困層のための医療や教育制度の提供などを政策に掲げて大勝した。2012年の女子学生の暴行殺人事件以降は、女性の安全の向上を約束している。しかし、今年4~5月に実施されたインド総選挙では、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)がデリー地区などで圧勝し、AAPは躍進を遂げることができなかった。同党は、次の州議会選でも、BJPの攻勢に苦戦することが予想されている。
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