3月25日付
『ニューヨーク・タイムズ』紙:「中国首脳訪問の陰でフランス政府の慎重さ」
フランス政府は3月25日、習近平(シー・チンピン)国家主席をレッドカーペット及び儀仗兵で歓待した。
しかし、イタリアが先週、中国が推進するOBORへの参画に合意したのと違い、エマニュエル・マクロン大統領は、欧州連合(EU)としては中国覇権に与することは問題なしとしないことを明確にした。
もちろん、同大統領としては、中国向け輸出高が中国総輸入高の僅か1~2%と、EU同胞のドイツのほぼ5分の1であることを憂慮している。
そこで、今回の習国家主席来訪を捉えて、中国向けエアバス社製の航空機等300機の大型商談調印に漕ぎ着けられたことは大変評価している。
同大統領は、エリゼ宮(大統領官邸)で習国家主席を迎えて、1964年当時、シャルル・ド・ゴール大統領(当時)が西側先進国に先んじて共産主義政権下の中国を国家承認したこと(すなわち、米国に抗っての“選択”したこと)を引き合いに出して、“欧州と中国の関係は21世紀における大きな選択”だと演説した。
この背景には、ドナルド・トランプ大統領が、重要な多国間合意であるパリ協定(気象変動対応協定)やイラン核合意を拒絶していることから、もう一つの大国である中国との連携が重要だと考えていることにあるとみられる。
そこで同大統領は、国連安全保障理事会常任理事国として、中国とフランスは、多国間秩序が危機に瀕している現在、これにしっかり対応していく“責務”があると改めて強調した。
ただ、フランスメディアが最も注目した中国における人権問題について、同大統領は、商談が重要とばかりに、簡単に言及しただけであった。
しかし、中仏関係研究の専門家は3月25日、フランスは商談も投資も常に開放してきているのに、中国側はフランスの中国向け投資を自由にさせたことはないと問題提起した。
すなわち、中国資本はこれまで、フランスのワイナリー、ホテル、そしてミルクなどの食品生産会社に資本投下しており、2018年におけるEU内の中国総投資額の9%を占めるまでになっている。
特にワイナリーでは、ボルドー(注後記)における150余りのワイン製造所が中国資本によって買収されており、また、ボルドー・ワインの最多輸出先が中国となっている有様である。
伝統的なワイン生産地におけるかかる動きに対し、反発の声が上がっているが、未だ中国マネーの流入にストップがかけられない状況である。
一方、マクロン大統領としても、これまでフランスが先行してきたアフリカ大陸での事業活動について、中国によるOBOR戦略に伴って同地域が席巻されることを懸念していることもあって、OBOR参画へは踏み切らなかった。
ただ、同大統領は、習国家主席を前にして、“中国は大事なパートナー”であり、アフリカにおける“投資競争をする間柄ではない”と表明している。
(注)ボルドー:フランスの南西部に位置するワイン産地。フランスのAOCワイン(フランス原産地呼称統制基準を満たすワイン)の約4分の1にあたる膨大な量のワインの産地で、中級から最高級のものまで幅広く多彩な銘醸地。現在では仏経済を左右するワイン産業の一大拠点。
閉じる