サウジアラビア政府は16日、同国のモバイル端末用アプリ「アブシャー(Absher)」に男性ユーザーが女性親族らの現在位置を追跡できる機能があることについて、人権団体や米議員などから批判が出ていることに対し、これに反論する声明を発表した。
『ロイター通信』『AFP通信』『CNN』などの報道によると、アブシャーは、サウジ政府が国民のために提供、運用するスマートフォン用の無料ポータルアプリで、米アップルのモバイル用基本ソフト「iOS」、米グーグルの「アンドロイド」に対応している。
同国内務省は、アブシャーは、女性、高齢者、介助を要する人々を含む全国民に対し、巡礼や旅券・査証の更新、健康保険などに関する様々な電子化された政府サービスを提供するものと説明している。同国の法律では、女性は就職や婚姻の他、旅券の更新や出国などの際には、夫など男性親族の後見人の同意を得なければならないが、同アプリには後見人が女性親族の海外渡航の可否の判断や、女性の現在位置を追跡できるなどの機能があり、これらが乱用され、人権侵害となる恐れがあるとして人権団体などから批判が出ていた。
米上院財政委員会の民主党トップであるロン・ワイデン上院議員は、アブシャーは女性に対する権利侵害の慣行を助長するとツイッターで批判し、アップル・グーグル両社に対し書簡を送り、同アプリをプラットフォーム上から削除するよう要請した。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は先週、米公共ラジオ放送でアプシャーについて尋ねられ、聞いたことはないが、調査してみると語っていた。
サウジ内務省は16日、これらの批判に対し、「アプリによるサービス提供の目的を問題化するための組織的な活動」であると反論し、ユーザーの正当な権利である機器の使用を「政治化する企て」を拒否するとの声明を発表した。
サウジアラビアは昨年10月、米国を拠点に活動していた同国人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が、トルコ・イスタンブールのサウジ領事館内で殺害されたことなどにより、国際社会から人権状況に関する厳しい批判を受けている。
短期間で事実上の最高権力者まで上り詰めたムハンマド皇太子は、その社会・経済的改革により世界の注目を集めたが、カショギ氏の殺害事件に関わっていたという疑惑の渦中にある。同皇太子はまた、国家の安全保障を脅かしているとして、多くの女性を含む人権活動家らを拘束している。彼らの所在や現状については、殆ど公表されていない。
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