7月12日付Globali「トランプ大統領のプーチン大統領会談に米国内外で物議を醸すも、プーチン氏にとって米ロ首脳会談は追い風?」で触れたとおり、7月16日に開催された米ロ首脳会談について、欧米諸国からの経済制裁でかなりダメージを受けているプーチン大統領にとって、(中身はなくとも)トランプ大統領と会談するという事実だけで追い風となると踏んでいる模様である。そしてその思惑どおり、欧州の米同盟国や米国内の与党・共和党の一部からも酷評されたトランプ大統領に対して、敵対する北大西洋条約機構(NATO)から米国を引き離し、かつ、米大統領選ロシア不当介入疑惑を米大統領に否定させることに成功したプーチン大統領は、サッカー・ワールドカップ風に言えば、1:0の勝利で首脳会談を終えられたと言えよう。これを踏まえて、米メディアの中には、表向きは中国と連携する態度を見せるも、本音では中国に対して忸怩たる思いを抱いているプーチン大統領としては、この首脳会談を契機に、軍事・経済両面で中国に対抗すべく、米ロ同盟を形成するのではないかとみるところもある。
7月16日付
『ジ・アメリカン・コンサーバティブ(注後記)』:「近い将来、米ロによる対中同盟形成か」
今回の米ロ首脳会談自体には、大した成果がなかったと言われている。しかし、これを契機に、トランプ・プーチン両大統領が、将来の共通の敵である“中国”に対峙するため、連携していく可能性が考えられる。
すなわち、かつていがみ合った米ロ両国とは言え、軍事的にも経済的にもすさまじい勢いで力を付けてきている中国に対して、本音として恐れを抱いているとみられる。
まず、米国としては、中国に対する膨大な貿易不均衡問題もさることながら、特に、知的財産や国防機密等が中国のサイバー攻撃によって盗み出されていることに辟易している。
また、これまでは米国が国際社会システムで中心をなしてきたのに、今や中国に取って代わられようとしている危惧がある。
特に、インド太平洋地域で変わらず影響力を維持したいと考える米国にとって、中国の躍進は脅威以外の何ものでもない。
一方、建前上親中路線をとっているロシアにとっても、成長著しい中国は目の上のたんこぶと言えなくもない。
例えば、欧米からの経済制裁に喘ぐロシアにとって、今のところはエネルギー買い付けや投資呼び込み等で中国を頼りにしているとは言え、中国指導部が牽引する「一帯一路経済圏構想(OBOR)」は、両刃の刃と言える。
すなわち、ロシアとしては、自国も含めた広域経済発展が遂げられることは良しとしても、結果として、かつての旧ソ連同胞が、近くて遠い中国傘下の国々に変貌していくことに複雑な思いをするのは必至であろう。
更に、かつて多くのロシア製武器や防衛システムを提供してきているが、(日本やドイツの高速度鉄道でやらかしているとおり)中国がやがて自前の技術開発だと主張して、ロシアの販売先であるアジアやアフリカ・南米諸国にそれらの武器・防衛システムを売り込み始め、結果としてロシア市場を荒らすことになりかねないと危惧している。
また、領土問題についても同様である。
すなわち、中国が東・南シナ海で領有権を主張しているが、今のところロシアとして、クリミア併合で中国から支持を得ていることもあって、表立って反対は表明していない。しかし、中国の長年の構想は、かつて欧米列強に騙し取られた中国固有の領土を取り返すというものであるため、沖縄諸島はかつての中国の領土だと主張するのと同様、極東ロシアのウラジオストックも中国の領土だとして返還を迫ってくることも十分考えられる。
従って、米ロ間で捉え方は多少違ったとしても、軍事的にも経済的にも、もし中国が米ロ両国を遥かに凌駕する程まで強大化すると、米ロそれぞれにとって不利益となる様々な事態が起こりかねないと懸念するのは十分想像がつく。
以上より、将来の共通の敵として、米ロ両国が“対中同盟”を形成することは十分有り得ることだと考えられる。
(注)『ジ・アメリカン・コンサーバティブ』:無党派の非営利法人である米国思想研究所が2002年より隔月で発行している政治専門誌。
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