1月8~10日に初訪中したエマニュエル・マクロン仏大統領は、欧州旅客機メーカー・エアバス(注1後記)製旅客機184機の商談をまとめてご機嫌である。これは、昨年11月初めに初訪中したドナルド・トランプ米大統領が喧伝した、米ボーイング製旅客機300機の受注と同様、首脳訪問に対する中国側の手土産とみられる。ただ、ボーイング製旅客機が、2013年に締結済みの古い契約でカバーされるものとの米メディア報道があったと同様、エアバス製旅客機についても、新規成約はしても、中国民用航空局(CAAC、注2後記)の耐空証明(注3後記)が容易に取得できず、肝心の中国向け納入は大幅に遅延する恐れがある。これには、中国国産大型旅客機について、欧州委員会(EC)傘下の当局からの耐空証明が中々取得できないとの背景があるとの見方がある。
1月10日付フランス
『ラングドック・リビング』誌:「中国、エアバス製旅客機184機を発注」
フランス大統領府高官は1月10日、エマニュエル・マクロン大統領の訪中の成果として、中国側よりエアバス製A320旅客機184機の発注を受けたと発表した。
エアバス発表では、契約金額は150億ユーロ(約2兆円)に上り、2019~2020年にかけて納入する計画であるという。
なお、昨年11月のドナルド・トランプ大統領訪中時、エアバスと競合する米ボーイング製旅客機300機、契約金額310億ユーロ(370億ドル相当、約4兆1,400億円)が成約されたと発表されている。
ボーイングによれば、世界第2位の航空機市場である中国は、今後20年で7,240機もの旅客機の需要があるという。
一方、1月12日付米
『CNNニュース』:「エアバス、中国に納入用として昨年に多くの旅客機を製造したが、依然1機も納入できず」
エアバスは昨年、中国向けに成約済みのA320neo及びA321neo旅客機を、フランスとドイツの工場で10機余り製造したが、依然納入できないでいる。また、A350s旅客機6機も、エアバス本社のトゥールーズ工場で納入待ちという。
この背景には、CAACによる耐空証明が容易に発行されないとの事情がある。中国当局は明言していないが、航空業界専門家は、技術的というより政治的問題に起因しているとみている。
すなわち、中国は目下、中国商用飛機有限責任公司(COMAC)製大型旅客機C919の製造・販売に注力しているが、欧州向け商談に当り、EC及び欧州航空安全機関から中々耐空証明が取得できないという事情があるという。
ただ、EC報道官によると、中国側とEC間の昨年12月の協議がうまく運んだとのことなので、エアバス製旅客機に対するCAACの耐空証明の発行に進展がみられのではないかと期待されている。
(注1)エアバス:欧州連合(フランス・ドイツ・英国・スペイン4カ国)の航空宇宙機器開発製造の共同事業体。前身は1970年設立され、2001年に法人化されて現社名となる。米ボーイングと凌ぎを削る、世界最大の大型旅客機メーカー。本社はフランス南西部のトゥールーズ。
(注2)CAAC:中国国務院交通運輸部(省に相当)が管理する国家局のひとつであり、民間航空行政を管轄する機構。1949年設立。
(注3)耐空証明:航空機の強度・構造・性能が安全性及び環境保全の為の技術上の基準に適合するかどうかを検査し、その基準に適合していると認める証明。自動車で言えば車検に相当。
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