米トランプ大統領は就任後100日を迎える。ビジネス界出身でワシントン政界に無縁の新大統領が、閉塞感の広まる米国の政治に新風を吹き込むのではと期待されたが、ビジネスでは有効であったブラフ(はったり)を使う交渉術が、政治の世界では上手く機能せず、限界が見えてきているとの見方が出てきている。
4月27日付
『ニューヨークタイムズ』は、「ブラフ戦術:トランプ交渉戦略の限界」という見出しで論評記事を掲載している。
1987年に当時不動産デベロッパーであったトランプ氏は飛行機を購入するに当たり、ボーイング727の売り手が必至で売ろうとしているのを察知して先ず500万ドルという途方もない安値で価格を提示し、3,000万ドルの価値を持つ飛行機を最終的には800万ドルで購入出来たと、その著書「交渉術」(和訳本のタイトルはトランプ自伝)で自慢している。...
全部読む
4月27日付
『ニューヨークタイムズ』は、「ブラフ戦術:トランプ交渉戦略の限界」という見出しで論評記事を掲載している。
1987年に当時不動産デベロッパーであったトランプ氏は飛行機を購入するに当たり、ボーイング727の売り手が必至で売ろうとしているのを察知して先ず500万ドルという途方もない安値で価格を提示し、3,000万ドルの価値を持つ飛行機を最終的には800万ドルで購入出来たと、その著書「交渉術」(和訳本のタイトルはトランプ自伝)で自慢している。今週3,000万ドルの飛行機に対する500万ドルの買値呈示と同じような政策がなされている。トランプ政権は政府閉鎖をしないための取引として暫定予算に国境の壁の建設費用を盛り込むことを要求、何兆ドルという歳入減少をもたらす大幅法人税減税を提案、カナダ、メキシコとの改定交渉を有利にすすめるために、NAFTA(北米自由貿易協定)破棄を匂わせたことなどである。
これはトランプ氏がビジネスにおいてこれまで取って来たやり口そのものである。今後の交渉を有利に展開させるために先ず極端だとおもわせる提案を行うことである。当然この戦略が成功することもあるがリスクもある。そもそも50万ドルの価値のある家を売ろうとする人に対し、10万ドルで買いたいという提案があった場合、売り手はその買い手との交渉を即座に止めるかもしれない。特にトランプ政権が今週経験したとおり公共政策のような複雑な交渉においては限界もある。政治の世界のように世間に映る姿や信頼が重要な場合は難しくなる。民主党は国境の壁の建設費用を認めた場合、中間選挙での挽回は苦しくなるだろう。大幅な減税提案で民主党や財政赤字を嫌う共和党議員が交渉を避けることになれば、減税法案の成立は益々難しくなる。
極端な提案に加えて、若し相手がその提案を受け入れない場合についてブラフを使った場合、政治の世界では更に問題である。トランプ氏がそういう技を使ってくることを誰も知っているし、若し取引が成功しなかった場合、トランプ政権が被る損害が相手に容易にわかるからである。NAFTAを解消した場合政財界から猛烈な批判がトランプ政権に対して起こることはカナダ、メキシコとも承知済みである。万一政府閉鎖に陥った場合責任追及はトランプ政権に対してなされるだろうから、民主党は国境の壁の多額の費用を認めたがらないのである。極端な提案とブラフの組み合わせで成功するのは、相手が弱い立場にあって、且つブラフを信じてくれる場合に限られると結論付けている。
閉じる