先日日本のトヨタと業務提携を発表したウーバー社。同社は米国の企業で、自動車配車のウェブサイトやアプリを運営している。現在世界に急速に広まりつつある自動車の配車サービスだが、ウーバー社はこの分野の先駆者的な存在だ。この度、サウジアラビア政府系のファンド会社が、ウーバー社に35億ドル(約3826億円)を出資することが明らかになった。なぜ、サウジアラビアは巨額の投資をウーバー社に行うことにしたのか、背景となる事情について各メディアは以下のように報じている。
6月2日付
『BBC』(英)は今回の巨額の投資は、サウジアラビアの政府系ファンドである「パブリック・インベストメント・ファンド」(PIF)により行われ、ウーバー社の役員にPIFのアルルマヤン氏を迎え入れることが決定したと報じる。PIFはサウジアラビアの発展を目的として、国の石油により得られた潤沢な資金で設立されたものである。
サウジアラビアでは女性が車を運転することは禁止されており、ウーバー社はアプリの利用者の80%を女性が占めるだろうと予測している。...
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6月2日付
『BBC』(英)は今回の巨額の投資は、サウジアラビアの政府系ファンドである「パブリック・インベストメント・ファンド」(PIF)により行われ、ウーバー社の役員にPIFのアルルマヤン氏を迎え入れることが決定したと報じる。PIFはサウジアラビアの発展を目的として、国の石油により得られた潤沢な資金で設立されたものである。
サウジアラビアでは女性が車を運転することは禁止されており、ウーバー社はアプリの利用者の80%を女性が占めるだろうと予測している。
自動車配車サービスをめぐっては、運転手の質やサービス内容が明確でないことを理由に禁止している都市もあるが、世界全体でみると利用者は急速な伸びを見せている。このようなアプリを用いて配車サービスを依頼した場合、アプリに登録した最寄りの車が利用者を迎えに来るが、運転手は一般のドライバーである。この点が日本のタクシーの配車サービスと異なる。
急速な利用者の拡大に目を付けた投資家が、ウーバー社のような会社にこぞって資金提供を行っているのが現状だ。最近では冒頭で述べた通りトヨタがウーバー社との業務提携を行うことを発表したが、その前にはアップル社が中国の自動車配車サービス最大手であるディディ・チューシン社に10億ドル(約1093億円)の投資を行うことを発表している。また、今年3月には米国のリフト(Lyft)というウーバー社のライバル会社に対してゼネラルモーターズが5億ドル(約547億円)の資金提供をし、自動運転車による配車サービスの開発を行うことを発表している。
6月1日付
『CNNマネー』(米)によると、ウーバー社のCEOであるカラニック氏は、同社がサウジアラビア経済や社会改革に貢献できることに大変期待を寄せていると発表したという。サウジアラビア政府は2030年までに歳入の大部分を石油の輸出に頼ることを止め、失業率の改善や労働者間の不平等是正の達成を目標としている。ウーバー社は昨年11月に中東と北アフリカ地域で2億5000万ドル(約275億円)の投資を発表しており、同社はサウジアラビアの目標達成に貢献できるだろうとしている。現在ウーバー社は中東と北アフリカ9か国15都市で事業を展開している。中東地域だけでもウーバーの利用者は39万5000人、ドライバーは1万9000人に上り、この数字は前年比の4倍の伸びだという。
また、同記事によると、ウーバー社は進出の際、地域の慣習を取り入れることに積極的だという。例えば昨年は、サウジアラビアの都市であるジッダやリヤドなどで、現金払いのサービスを開始すると発表している。これはカード決済が主流の自動車配車サービスでは画期的ともいえる。
6月2日付
『ザ・ガーディアン』(英)は、今回の投資決定によりウーバー社の時価総額に変化はなく625億ドル(約6兆8000億円)であると報じる。これはフェデックスやゼネラルモーターズ、フォードモーターよりも高額だという。
前述の通り、サウジアラビアは「脱・石油」を掲げ、労働者の増員を図ろうとしている。そのためには女性の労働力確保が必要不可欠であり、女性の出勤の利便性向上のためにも自動車配車サービスが必要となる。サウジアラビアでは女性が車を運転してはいけないことは先にも触れたが、同国の女性は公共の場でタクシーを呼び止めることも通常しないのだという。このような行為は「恥じずかしいこと」と考えられているためだ。そのため、女性は自分の夫や家族に運転してもらうほかない。この不便を解消してくれるのがウーバー社の提供する自動車配車サービスなのだという。
サウジアラビア政府も2030年までに女性の労働者を現在の倍に増やし、30%にまで上げることを目標としている。
ウーバー社自身も、世界各地で現地の同業他社に追い上げられており、国際競争で勝利を収めることが同社の長期にわたる繁栄のために欠かせないと考えている。今後は資金獲得に向けて、熾烈な戦いがつづきそうだ。
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