<安倍首相の伊勢志摩サミット成果>
5月31日付【
時流:安倍首相の政治手腕】の中で触れられているとおり、安倍首相は、主要7ヵ国・地域首脳会議(G7サミット)を利用して、世界経済の悪化懸念による対策としてという理由付けにより、消費税増税の先送りを合理化しようとしており、誰もがおかしいと思いながら、
強い政治力で押し通そうとしている。
野党や一部メディアは、内政の失敗を国際会議の場での成果として糊塗しようとしている等と批判している。
しかし、ちょっと待ってもらいたい。
国のトップが、国際会議などの場を利用して、内政問題を議題に挙げたり、国際会議での討議結果を踏まえて、内政に活かそうとするのは、至極当たり前のことで、だいたいどこの国の首脳もやっていることである。
確かに、リーマンショック前の危機的状況と、金融専門家でなくともちょっと違うのではないかと思われる事態を各国首脳の前で述べたのは、説明不足とのそしりを免れないが、2年前から始まった原油暴落含めて、資源価格の一斉下落、それに伴い、これまで世界経済を牽引してきた中国、ロシア、ブラジル等の新興国が深刻な景気後退に喘いでいるのは紛れもない事実である。
更に、最近原油が50ドル台に戻ったと言っても、所詮絶頂期の半値でしかないし、第一に相場の乱高下は常に機関投資家の思惑で左右されており、このまま上昇を続け、かつてのレベルまで戻るのかどうかなど、確たることは一切不明である。
また、米国の景気が好調で、利上げムードが続いていると言っても、リーマン・ブラザース倒産の引き金になった“低所得者向け住宅手当用サブ・プライムローン”証券焦げ付き騒ぎに近似する事態は起こらないとは言えないのではなかろうか。
すなわち、ゼロ金利の時代に銀行が米市民低所得者向けに自動車ローン(自動車のサブ・プライムローン)として貸し込んでいる金額が約2,000億ドル(約22兆円、米連邦準備制度理事会(FRB)による3月実績報告)に達し、その多くが証券化されて国際金融・投資家に販売されているが、昨年末のFRBの利上げを契機に、自動車ローン返済の滞納率が急上昇し始めている。
従って、またぞろ“低所得者向け自動車手当て用サブ・プライムローン”証券焦げ付き騒ぎが発生するリスクは低くはなく、それこそG7首脳初め世界の指導者には、今回のG7サミットの共同声明を契機に、可及的速やかにリスク対応を始めて欲しいと願う。
なお、筆者としては、安倍首相のG7サミットでの手腕について、諸手を挙げて称賛する程納得してはいないが、上記の金融リスクの提案に加えて、下記の点を以て、安倍首相の伊勢志摩サミットは、まずまず良い成果を上げたものと評価したい。
・中国に対する東・南シナ海の海洋活動への牽制:そもそもアジア地域のローカルイシューについて、米国やフィリピンのしつこい反中政策で国際社会の注目度は上がりつつあるが、しかし欧州代表が過半数を占めるG7サミットにおいて、対ロシア制裁、難民問題と同様に共同声明に謳いこんだ成果は上々である。これは、中国外交部や国営メディアがしつこい位の反発声明・記事を掲載していることより、如何に効果があったかが明らかである。
・中国の鉄鋼業過剰生産能力問題:これも中国の内政問題(需要を無視した国内過剰生産問題)が世界鉄鋼業界に著しい悪影響を与えているとの現状について、G7サミットで突っ込んだテーマにしたことで、日本の鉄鋼業界にとっても朗報だと言える。
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