1.はじめに
2015年は、原油価格低迷が続いた上に、欧米を大寒波が襲い、大変な幕開けとなった。景気の下降が心配されたが、米国の景気回復の勢いは衰えを見せず、中国経済の成長率鈍化、夏の中国株大暴落によって世界経済にきしみが出ても、米国ひとりがしっかり世界経済を牽引した。翻って日本では、アベノミクスに続く景気昂揚も力強くはないものの、円安の後押しを受けた輸出産業の好調さ及び株価の上昇もあって、概ね良好と言える一年であったと評価される。
では、2016年の世界及び日本の展望はどうなるのかについて、大きなリスクのひとつである中国及び原油リスクを中心にみていきたい。
2.中国リスクと原油安リスク
昨年は、中国の経済成長率鈍化に誰もが怯え、株価暴落がそれに輪をかけたが、中国による政策効果もあり、鉱工業生産や住宅販売も緩やかに持ち直している。株価も安定を取り戻し、上海総合指数は2014年末比+13%と、日経平均株価の+8%を上回る好成績となっている。更に、中国の軍事的脅威も、昨秋に日本の安保法制が成立したこともあり、必要以上にその陰に怯えることもなくなりつつある。また、中国の経済成長率も5~6%台へ下がっていくと予想されるも、依然先進国の1~3%成長に比べたら十分高い成長率であり、他アジア新興国の勢いと併せて、日本としても魅力的な投資機会と言えよう。
一方、原油安のリスクであるが、高コストの原油採掘をしている国や企業は更なる苦境に陥るかも知れないが、世界中にリスクが伝染する可能性は低いと言える。何故なら、2008年の世界金融危機の震源となったサブプライム・ローン商品(信用の低い人向けの住宅ローン)とは違い、原油関連の複雑な金融商品を世界中の投資家が大量に購入しているといった状況ではないからである。ただ、ロシア等、原油輸出に頼る国の景気や財政に与える影響は少なくないと言える。昨年、景気後退(マイナス成長)に陥ったロシアが、プーチン大統領の緊縮政策等によって、最悪の財政破綻は避けられるのかが大いに注目されよう。
3.世界の景気と外交
今年11月に大統領選が行われる米国では、反移民など過激な主張への支持が高まる一方である。このことから、誰が大統領になっても、米国は「内向き」になっていくと思われる。
欧州圏では、ギリシャの財政危機はひとまず落ち着いたが、パリ同時多発テロに代表されるテロの脅威や、EU各国で大きな意見の隔たりを見せるシリア等からの難民受け入れ問題で試練の時を迎えている。これによって、偏狭なナショナリズムが広がる恐れがあり、最悪、EUの分断にまで事態が悪化しないとも限らない。
従って、米欧圏では、景気回復の実感が広がらず、益々不満や怒りが移民や自国の政府に向けられていくことになると思われる。
4.日本の景気と外交
日本においては、昨年の夏から秋にかけての安保法制化に関わり、政治不信が高まっている。その不満を逸らそうとしたのが、民意に副ったとして断行した、新国立競技場建設計画の白紙撤回であり、また、アベノミクスの第2ステージの「新3本の矢」政策である。これは説得力に欠ける、実現性に疑問が残るバラ撒き政策と批判されても止むを得ない施策であろう。しかし、今夏の参議院選挙(または衆参同日選)を睨んだ、消費税再増税対策とみられかねないものの、消費税再増税の影響は軽微と懸命にアピールし、与党独裁の盤石体制作りに邁進している。従って、選挙結果にもよるが、景気後退は何としても回避し、米国には及ばずとも、EUの成長率を上回る程度のプラス成長には導いてくれるものと、期待を込めて予想したい。
外交面について言えば、慰安婦問題に関する日韓合意で少なからず日本のステータスは高まろう。これは例えれば、喉に引っ掛かった魚の小骨を無理に飲食物で押し流すのではなく、丁寧に取り除く手段を講じたからである。魚の小骨も70年も突き刺さったままでいれば、身体に与える影響は少なくなく、抜いた後の処置含めて、慎重に術後措置(これは、中国・台湾から出されている慰安婦問題解決要求含めて)を施す必要がある。これによって、これまで中韓などにつけ入る隙を与えていた理由がひとつ消去された訳であるから、今後は、日米同盟を旗印に、しっかりアジア及び世界で発言力を高めることができようし、国連等の国際機関を通じても、積極的にリーダーシップを果たしていくことが求められよう。
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