9月17日付米
『AP通信』は、「ペロシ下院議長一行、一時停戦中のアルメニアを訪問」と題して、2020年以来最悪の戦闘を起こしたナゴルノ・カラバフ紛争(注1後記)の一方の当事国を電撃訪問したと報じている。
ナンシー・ペロシ下院議長率いる下院議員団が9月17日、9月12夜から勃発したナゴルノ・カラバフ紛争の一方の当事国であるアルメニアを電撃訪問した。
2日間にわたる戦闘で、アゼルバイジャン・アルメニア両当事国合計で200人余りの将兵が死亡したが、一時的停戦が3日目となった最中での訪問である。
在アルメニア米大使館は、同下院議長一行はニコル・パシニャン首相(47歳、2018年就任)他と会談する予定であるとしている。
同下院議長は9月16日、訪問前のベルリンでの記者会見で、“人権問題及び全ての人の尊厳が守られる状況を確認するための訪問だ”と説明した。
同下院議長に同行した民主党下院議員は、フランク・パローネ下院エネルギー・商業委員会委員長(70歳、2019年就任、1988年初当選、ニュージャージー州選出)、ジャッキー・スピアー議員(72歳、2008年初当選、カリフォルニア州選出)及びアンナ・エシュー議員(79歳、1993年初当選、カリフォルニア州選出)である。
今回の両国間軍事衝突は9月14日まで2日間続き、その後3日間一時停戦となっている。
アゼルバイジャン・アルメニア両国はお互いに相手方の砲撃を非難していて、アルメニア側がアゼルバイジャンによる謂れのない侵害行為を責めれば、アゼルバイジャン側は、アルメニアの攻撃に対抗したものだと主張している。
今回の戦闘で、アルメニアのパシニャン首相が135人の将兵が犠牲になったと言えば、アゼルバイジャン外務省は77人が死亡したと発表した。
なお、今回の戦場となったアゼルバイジャン領土内のナゴルノ・カラバフ地域では、両国が旧ソ連から1991年に独立する以前の1988年から紛争が続いていて、アルメニアの支援を受けた民族戦線が1994年に実質的勝利を収めて以降、実効支配していた。
そして、2020年9月下旬に6週間にわたる大規模の軍事衝突が再び発生し、双方で6,700人以上の犠牲者を出した。
その際、ロシアが約2千人の平和維持軍を派遣したことで停戦を迎えたが、実質的にはアゼルバイジャンが勝利し、多くの領土を奪い返していた。
同日付フランス『AFP通信』は、「ペロシ米下院議長、アゼルバイジャンとの紛争で一時停戦中のアルメニアを訪問」として、一時停戦が始まったばかりのアルメニアを訪問し、国際機関による停戦介入の実効性を確認しようとしていると報じた。
コーカサル地方のアゼルバイジャン・アルメニア国境付近で、9月12日に発生した軍事衝突は9月14日まで続き、双方合計で215人の将兵が犠牲になった。
国際機関の介入で、9月14日晩に一時停戦となっているが、双方が相手方の攻撃を非難し合っている。
このタイミングで、ペロシ米下院議長一行が9月17日から3日間アルメニアを訪問することになったが、アルメニアのアレン・シモニャン国民議会議長(42歳、2021年就任)によれば、同国を訪問する米国人政治家の中で最も位の高い同議長の訪問によって、“我が国の安全保障を確保する上で重要な役割を果たしてくれると期待する”としている。
同議長自身も、“米国として、アルメニアにおける平和的な民主主義が繫栄すること、また、コーカサス地方の安定が確実となるよう見届ける責任がある”と述べている。
なお、三十有余年続くアゼルバイジャン・アルメニア両国間の紛争については、欧州安全保障機構(OSCE、注2後記)の下で、米・フランス・ロシアが主導して紛争解決に関わってきていた。
しかし、2020年に続いての今回の軍事衝突によって、これまでの西側諸国が注力してきたコーカサス地方の安定確保の努力を蔑ろにするものである。
(注1)ナゴルノ・カラバフ紛争:2020年9月末に勃発した、コーカサス地方のアゼルバイジャンとアルメニアの係争地となっているアルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ共和国、NKR)をめぐる軍事衝突。1ヵ月半の戦闘行為と数回にわたる停戦合意を経て、アゼルバイジャンが事実上勝利。NKRは領土の大部分をアゼルバイジャンに返還し、実効支配地域は旧ナゴルノ・カラバフ自治州の領域のみとなったが、帰属の決定については将来に棚上げされた結果、2022年になって再び紛争が勃発。なお、アゼルバイジャン支持国はトルコ・アフガニスタン・パキスタン・イスラエルで、アルメニアはフランス・イラン・サウジアラビア・アラブ首長国連邦(UAE)が支持している。
(注2)OSCE:欧州、北米、中央アジアの57ヵ国が加盟する世界最大の地域安全保障機構。1973年設立で、協調的安全保障の枠組みにおいて早期警戒、紛争予防、危機管理、紛争後の復興を通じて、加盟国間の相違を橋渡しし、信頼醸成を行う国際機関。事務局所在地はオーストリアのウィーン。
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