欧州連合(EU)は6月初め、ロシア産原油のEUへの輸入禁止を柱とする対ロシア制裁第6弾を発表した。その中には、ロシアから第三国への石油輸送に対しても、6ヵ月の猶予期間の後、EUの海運関連事業者が海上保険など輸送関連サービスを提供することを禁止する措置も含まれる。そうした中、エネルギー分野は自国の安全保障の重要性に鑑みて決定するとして、サハリン産原油・天然ガス開発プロジェクト等から撤退しないとする日本が、EU側に対して、サハリン産原油輸送船への海上付保を適用外とするよう嘆願している。
6月23日付
『S&Pグローバル・プラッツ』(1909年前身設立のエネルギー関連情報配信社)は、「日本、サハリン産原油輸送の海上保険付保禁止措置の“適用除外”を嘆願」と題して、日本政府がEUに対して、サハリン産原油輸送に関わる付保禁止措置を適用しないよう要請したと報じている。
経済産業省(METI)関係者が6月22日午後、本紙の取材に対して、サハリン産原油のEU外第三国向け輸送に関し、METIからEUに対して、EU内事業者による付保行為禁止措置を“適用除外”とするよう要請したことを明らかにした。
これに先立つ当日午前、石油連盟(1955年創設、石油精製・元売会社の業界団体)の奥田真弥専務理事(元METI官僚)が記者会見で、“METIがEUに対して、サハリン1(注1後記)及びサハリン2(注2後記)産原油輸送に関わる付保禁止措置の適用除外を要請している”と表明していた。
ただ、石油連盟の杉森務会長(66歳、2020年就任、ENEOS会長)は、“日本の石油精製企業は現在、ロシア産原油の輸入を停止していると了解している”とコメントしている。
同会長は、“ENEOSとしても、ウクライナ軍事侵攻非難の一環で、今年4月を最後に、ロシア産原油の輸入も発注も停止している”とも言及した。
日本政府のかかる動きは、EUが6月3日、EU向けのロシア産原油の輸入禁止を中心とする対ロシア制裁第6弾を決定したことが契機となっている。
何故なら、当該制裁の中に、ロシア産原油のEU外第三国向け輸送に関し、EU企業による海上保険付保等のサービス提供を禁止する条項も含まれているからである。
財務省の公開資料によれば、2021年の日本の原油輸入量は1日当たり248万バレルであるが、ロシア産は僅か4%で、ほとんどが中東産原油(全体の92%)である。
石油連盟トップが表明するとおり、日本最大の石油精製企業のENEOS及び出光興産はロシア産原油の輸入を停止している。
しかし、日本側関係者によれば、サハリン産原油については、長期契約ベースで第三国にも供給していることから、この輸送取引を停止することはできないとして、上記のような適用除外をEU側に要請したとしている。
日本政府はこれまでしばしば、エネルギー分野の長期安全保障の観点から、サハリン1及び2プロジェクトからの撤退はしないと表明してきている。
ただ、岸田文雄首相(64歳)は5月9日、主要7ヵ国(G-7)首脳会議での合意を受けて、日本は“原則”ロシア産原油輸入を禁止する旨発表している。
一方、ロシア産天然ガスの輸送事業に携わるシンガポール在LNG輸送船社によると、EU及びロシアは、天然ガス生産・供給事業が世界の合弁企業によって運営されていることに加えて、LNGの国際取引がウクライナ軍事侵攻の遥か前から長期契約として成立していることから、対ロシア制裁対象からはずすことで合意しているとする。
また、同LNG船社によれば、アジア諸国向けのロシア産天然ガスの輸送船はロシア企業が一切関わっていないこともあって、LNG輸送は問題なく継続されるとしている。
なお、日本側が参画しているサハリン1及び2で生産される天然ガスは、ほとんどが日本向けの輸入ソースとなっている。
(注1)サハリン1:ロシア極東サハリン州北東部沿岸の石油・天然ガス開発プロジェクト。2006年生産開始。ロシア国営石油企業のロスネフチ(1993年設立)、米エクソンモービル、サハリン石油ガス開発会社(政府・伊藤忠・丸紅の合弁)、インド企業との合弁事業体。
2022年2月末、エクソンモービルがロシアによるウクライナ軍事侵攻を受けて、本プロジェクトから撤退決定。
(注2)サハリン2:同じくサハリン州北東部沿岸の石油・天然ガス開発プロジェクト。1999年生産開始、2008年本格稼働。ロシア国営ガスプロム(1989年設立、世界最大の天然ガス生産・供給企業)50%、英蘭シェル(1907年設立)27.5%、三井物産12.5%、三菱商事10%の共同事業体。2022年2月末、シェルが撤退。
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