バイデン政権も、前政権に倣って、中国の南シナ海における一方的海洋進出を非難し続け、同国が主権を主張する島嶼近海で“航行の自由作戦(FONOP)”をしばしば実施している。そしてこの程、同海域のパラセル諸島(中国語で西沙諸島、注1後記)近海でもFONOPを実行した。
1月20日付
『CNNニュース』:「米海軍軍艦、南シナ海の中国主権と主張する島嶼近海を無断航行」
米海軍は1月20日、南シナ海において中国が一方的に主権を主張するのは国際法に違反しているのみならず、“公海における航行の自由への深刻な脅威”であることから、これを牽制する目的で、同海域においてミサイル駆逐艦にFONOPを実行させたと発表した。
米海軍第7艦隊報道官のマーク・ランフォード大尉は、ミサイル駆逐艦“ベンフォールド(1996年就役)”が南シナ海のパラセル諸島近海でFONOPを実施したと言及した。
同諸島は、同海域の北西部にあり、130余りのサンゴ礁と岩礁で構成されている。
「CIAファクトブック(注2後記)」によると、先住民は一人も居住しておらず、ただ、中国人民解放軍(PLA)駐屯兵が1,400人近く常駐しているという。
同諸島については、ベトナム及び台湾も領有を主張しているが、中国PLAによって46年前から実効支配されている。
従って、米海軍の声明では、当該3ヵ国の主権主張に対抗してFONOPを実施したものだとしている。
すなわち、“当該3ヵ国は、軍艦含めて如何なる船舶も同諸島近海を航行する場合に事前通知・許可取得を要求しているが、国際法上、領海(基線から最大12海里までの範囲で主権が及ぶ水域)を「無害通航(注3後記)」する場合、軍艦であっても事前通知等は必要とされていない”と言及している。
これに対して、中国が、米軍艦“ベンフォールド”が同諸島の領海内を無断航行したことに猛反発した。
国防部(省に相当)は、“PLA南部戦区(広州・香港・マカオ・貴州省・雲南省軍区管掌)が空・海両面で米軍艦を追尾した上、速やかに退去するよう警告を発した”と発表した。
同部は、“米国の行為は中国主権・安全保障を脅かす深刻な事態であるばかりか、南シナ海におけるかつての制海権を一方的に誇示するものであり、同海域の平和と安定を打ち壊す「最悪の存在」だ”と強調している。
一方、ランフォード報道官は、今回の“ベンフォールド”のFONOPは1月18日にスプラトリー諸島(中国語で南沙諸島)近海での実施に続いて、今年2回目の作戦実行だとした。
その上で、“米軍は1世紀以上もの間、南シナ海の航行の安全を監視してきており、現在も日々それを実行するのみである”とも言及した。
同日付『ロイター通信』:「中国が米軍艦に対して南シナ海領海からの即時退去を警告したとするも、米海軍は否定」
中国国防部は1月20日、米軍艦が南シナ海のパラセル諸島の中国領海内に侵入したとして、追尾の上で即刻退去するよう警告したと発表した。
PLA南部戦区の声明によると、米軍艦“ベンフォールド”がパラセル諸島の中国領海内を無断航行するという“違法行為”を行い、中国主権を脅かしたことから、PLA軍艦及び戦闘機が同軍艦を追尾した、という。
その上で、“米国は、かかる挑発的行為を直ちに止めるよう警告する”とし、“さもなければ、不測の事態が発生した場合の結果責任を負うことになる”と警告したとする。
しかし、米海軍は如何なる警告も受けていないとした上で、信条とする自由航行の維持を確保するための作戦を実行したものだと表明した。
第7艦隊のランフォード報道官は、“中国の声明は嘘である”とした上で、同艦は“国際法に基づき”FONOPを実施しており、今後も“公海上での通常航行を続ける”とした。
更に、“米海軍は国際法が許す公海において、全ての国の飛行・航行等の自由が守られるよう努めており、その一環で同艦が作戦を実行した”とし、“もし中国が警告したとするなら、当然(当該作戦を)阻止しようとしてきただろうが、そのようなことは一切なかった”と明言している。
(注1)西沙諸島:ベトナムの東約240キロメートル、中国・海南島の南東約300キロメートルに位置し、150近いサンゴ礁の島と岩礁で構成されている諸島群。1974年1月、PLAが当時駐留していた南ベトナム軍を一掃して以来、全ての島嶼を中国が実効支配しているが、ベトナムと台湾も領有権を主張。
(注2)CIAファクトブック:世界各国に関する情報を年鑑形式でまとめた米国中央情報局(CIA)の年次刊行物。別名「ザ・ワールド・ファクトブック」。初版発行は1962年。この書籍は、世界中のあわせて268の国家・属領・その他の地域について、人口統計・地理・通信・政治・経済・軍事の2、3ページの要約を提供。
(注3)無害通航:沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件として、沿岸国に対して事前通告をすることなく沿岸国の領海を外国船舶が通航すること。このような通航を保護するための当然の権利として、国際海洋法においては、内陸国を含め全ての国の船舶は、他国の領海において無害通航権を有するものとされる。
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