アメリカの医療センターが、豚の腎臓を脳死状態のヒトへ移植する実験に初めて成功した。拒否反応を抑えるよう遺伝子組み換えされた豚が使用されたという。異種移植はあくまで臓器提供不足を補う目的で、末期患者への移植が今後数年で実現される可能性が高まったという。
10月20日付
『ロイター通信』は「アメリカで豚からヒトへの腎臓移植実験に成功」との見出しで以下のように報道している。
豚の腎臓を拒否反応なしでヒトへ移植することに初めて成功し、人の臓器提供不足緩和に向け一歩前進した。ニューヨーク市のNYUランゴーンヘルス(医療センター)で行われた移植実験では、拒否反応を引き起こすとされる組織細胞を遺伝子的に変異させた豚が使用された。
移植を受けたのは腎不全となり脳死状態の患者で、家族が生命維持装置を外す前に実験に同意した。...
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10月20日付
『ロイター通信』は「アメリカで豚からヒトへの腎臓移植実験に成功」との見出しで以下のように報道している。
豚の腎臓を拒否反応なしでヒトへ移植することに初めて成功し、人の臓器提供不足緩和に向け一歩前進した。ニューヨーク市のNYUランゴーンヘルス(医療センター)で行われた移植実験では、拒否反応を引き起こすとされる組織細胞を遺伝子的に変異させた豚が使用された。
移植を受けたのは腎不全となり脳死状態の患者で、家族が生命維持装置を外す前に実験に同意した。移植された腎臓は3日間にわたり患者の血管に繋がれた状態を保ったという。研究を行ったモントゴメリー医師は、腎臓の機能に関する実験では、「非常に正常」な結果が得られ、ヒトの腎臓のような量の尿を作り出すことに成功し、
大きな拒否反応も確認されなかったという。
臓器ネットワークによると、米国では臓器移植希望者は約10.7万人。腎臓移植を待つ人は9万人ほどで、移植待機期間は平均3~5年となっている。動物の臓器移植は数十年に渡り研究され、ヒトの免疫反応抑制が課題となってきた。バイオテク企業ユナイテッド・セラピューティクスは遺伝子組み換え豚「GalSafe」を開発し2020年、肉アレルギーの人向けの食品や治療法としてFDAに承認された。
今回の移植実験成功により、ヒトの臓器提供が充足するまでの短期的な解決法として、腎不全の末期患者への移植が今後1,2年で実現されるとの期待が高まっている。一方、今後別の課題が発生する可能性もあり、ヒトの臓器提供を受ける可能性の低い患者への移植に利用されるとみられる。
同日付『AP通信』は「最新実験で豚からヒトへの臓器移植実現間近に」との見出しで以下のように報道している。
移植実験で、豚の腎臓をヒトの体へ一時的に繋げ正常に機能させることに成功した。これにより動物の臓器でヒトの命を救う移植が実現間近となった。臓器不足解消を目的とし豚の臓器に注目が集まっているが、問題は人間の体にはない細胞内の糖の存在により拒否反応が生じてしまうこと。実験では糖を除き、免疫システムへの攻撃をしない遺伝子組み換え豚が使われた。
異種移植(動物からヒトへの臓器移植)の歴史は輸血に動物の血液が使われた17世紀に遡る。20世紀には、ヒヒの心臓のヒトへ移植が試みられた。乳児「ベイビー・フェイ」がヒヒの心臓移植を受け、移植後21日間生存した。
豚はサルより利点がある。ヒトの食料になり臓器として利用するのに倫理的ハードルも低い。胎児が大きく、 妊娠期間が短く、ヒトに似た臓器を持つ。心臓弁もヒトに移植されている。抗凝血剤へパインは豚の腸から取られ、皮膚はやけど患者に、中国では豚の角膜が視力回復に使われている。
現在、7つのバイオテク企業が豚からヒトへの移植研究を行っている。米国には9万人の待機者がいるが、待機中に一日12人死亡している。専門家は異種間移植実験成功は、今後数年以内の初の豚腎臓や心臓移植への重要なステップとなったとする。移植目的で豚を飼育することに抵抗を感じる人もいるかもしれないが、アニマルウェルフェア(動物福祉)が向上すれば受け入れが進むとみられる。
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