豪公共放送局
『SBS』によると、ニューサウスウェールズ州では24時間で、15414人の新規感染者と15名の死亡者が報告された。現在1639人がコロナで入院しており、72人が集中治療室(ICU)に入っている。ビクトリア州では、新規感染者が10628人、死亡者が14名新たに報告された。ビクトリア州の病院では、コロナ患者が437人おり、そのうち34人がICUに入院している。
こうした中、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州では大幅な規制緩和が発表された。ビクトリア州のマーティン・フォーリー保健相は、オミクロン株の第2波のピークが過ぎたとして、22日の午後11時59分から多くの規制が緩和されると説明した。
米『エポックタイムズ』によると、23日より、ワクチンパスポートの提示義務や追跡アプリの使用義務が無くなり、小学校、幼児教育、接客業、小売業、そしてすべてのイベント会場で、マスクの着用義務がなくなるという。
病院では、マスクの着用義務は残るものの、訪問者の制限などその他すべての制限が撤廃される。ただし、医療機関では、それぞれの状況に応じて、独自のルールを設けることは許可される。また、公共交通機関、空港、医療、高齢者介護、裁判所などでは、依然としてマスクの着用が必要となる。
コロナに感染した場合、職場と濃厚接触者に通知することが義務付けられるが、職場は、濃厚接触者への通知は必要がなくなる。ただし、濃厚接触者は、屋内でマスクを着用し、病院や老人ホームなどを避けることが要求される。また、7日間の隔離期間が無くなる代わりに、迅速抗原検査で5回以上陰性となることが要求される。産業界は、パンデミックから回復しようとする企業の人材不足を緩和するために、7日間の隔離ルールの終了を要求していた。
『オーストラリア放送協会』によると、ビクトリア州のフォーリー保健相は、「このオミクロン株の亜種BA・2の波は、横ばい状態がしばらく続き、減少しても感染はすぐにはなくならないことが分かっている。しかし、ピークを過ぎたことは確認できている」と述べた。そして、「2シーズンにわたりインフルエンザはほぼゼロであった。この冬はインフルエンザの流行が予想される。」と寒さが厳しくなるにつれて、従来の病気にも油断ができなくなると警告した。
一方、疫学者の間では、規制緩和の決定に対して意見が分かれており、変更を正当化するにはまだ患者数が多すぎるという懸念が持たれている。メルボルン大学の疫学者ナンシー・バクスターはオーストラリア放送協会の番組に出演し、「これらの規制が緩和されることは、コロナが終了したという合図を送ることになるので政治的には好都合です。問題は、コロナのほうが、コロナが終了したというメッセージを受けとっていないことです。」と述べた。同教授は、オーストラリアは現在、1日当たりの新規感染者数が世界で最も多い国の一つであり、規制を緩和しても1日当たりの感染者数を減らすことはできないだろうと述べた。「もし、すべての規制を緩和した場合、多くの入院患者、多くの死亡者、長期の横ばい状態につながるでしょう。」と述べた。
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11月10日付米
『AP通信』:「豪州政府、温室効果ガス削減政策のために7億3,800万ドル投資すると宣言」
豪州のスコット・モリソン首相は11月10日、二酸化炭素回収貯留技術開発含めた温室効果ガス削減政策に10億豪州ドル(7億3,800万ドル、約834億円)を投じると高らかに宣言した。
政府が出資するのは5億豪州ドル(3億6,900万ドル、約417億円)で、残りは民間からの支援に期待していると付言した。...
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11月10日付米
『AP通信』:「豪州政府、温室効果ガス削減政策のために7億3,800万ドル投資すると宣言」
豪州のスコット・モリソン首相は11月10日、二酸化炭素回収貯留技術開発含めた温室効果ガス削減政策に10億豪州ドル(7億3,800万ドル、約834億円)を投じると高らかに宣言した。
政府が出資するのは5億豪州ドル(3億6,900万ドル、約417億円)で、残りは民間からの支援に期待していると付言した。
これに先立つ11月初め、グラスゴー(スコットランド)で開催されたCOP26において、モリソン首相が発表した2030年までの温室効果ガス削減目標値が不十分だとして、参加国から厳しい批評を受けていた。
そこで上記声明は多分に、来年5月までに予定されている総選挙で与党・保守連合の信任を得るためと考えられる。
政府側の基金の母体となるのは、国営のグリーンバンク(クリーン・エネルギーに投資を行う金融機関)のクリーン・エネルギー・ファイナンス社(CEFC、2012年設立)であるが、適用法を改定する必要がある。
何故なら、現行法ではCEFCが投資できるのは風力・太陽光発電等短期間で結果のでる技術開発に限られており、二酸化炭素回収貯留等の長期新技術開発への投資は許容されていないからである。
産業・エネルギー・排出削減担当のアンガス・テイラー大臣(55歳)は、2050年までにカーボンニュートラル(注後記)を達成するため、当該法を改定して新規投資に取り組んでいくことが必要だと訴えた。
同大臣は豪州メディア『ABCニュース』のインタビューに答えて、“気候変動問題に関し、多くの人が産業を締め出せばよいと安易に考えがちである”とした上で、“しかし、豪州政府は、(産業を締め出すのではなく)温室効果ガスを削減する新技術を開発することから始める考えである”と言及している。
これに対して、中道左派の野党・労働党は、政府が、新規の投資であって、かつ、クリーン・エネルギー開発以外には支出しないと約束するならば、上院での当該法改定に賛同することも検討すると表明した。
労働党の気候変動・エネルギー問題担当のクリス・ボーウェン下院議員(48歳)は、“当該資金が真に新たに創出されるものだとするなら、与党の改定法案詳細を検討してもよい”とコメントしている。
なお、モリソン首相は前日の11月9日、2030年までに豪州国内で販売される電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車を全体の30%までに引き上げるとの目標達成のために2億5千万豪州ドル(1億8,500万ドル、約209億円)を投じるとも宣言していた。
ただ、豪州は、世界最大の石炭・天然ガス輸出国であることもあって、同国内における電気自動車の比率は僅か2%にも満たない。
更に、豪州は、人口1人当りの温室効果ガス排出量が先進国中上位に位置する程環境問題が深刻な国である。
(編注;人口1人当りの温室効果ガス排出量先進国ランキングは、①米国15.1トン、②豪州14.5トン、③韓国11.7トン、④ロシア11.0トン、⑤日本8.5トン、⑥ドイツ8.4トン、⑦中国6.8トン)
一方、二酸化炭素回収貯留技術では豪州が先行していて、ウェスターンオーストラリア州北西部のバロー島にあるシェブロン・ゴーゴン天然ガスプロジェクト施設(2017年完成)は世界最大規模の二酸化炭素回収貯留施設である。
同施設では、2019年の操業開始以来回収された二酸化炭素が500万メトリックトン(米方式で550万ショートトン)に上っている。
しかし、同プロジェクト最大株主兼運営会社のシェブロン(1879年設立の国際石油資本最大手)が今年7月、直近1年間では目標値に対して80%程度の約400万メトリックトン(米方式440万ショートトン)しか、同施設で発生した二酸化炭素を回収・貯留できなかったと発表している。
同日付豪州『SBSニュース』(1975年開業の公共放送局):「専門家、スコット・モリソン首相に対して“未確認の”二酸化炭素回収貯留技術に頼り過ぎないようにと警告」
モリソン首相は11月10日、温室効果ガス削減政策の一環で、民間からの支援金含めて合計10億豪州ドルを二酸化炭素回収貯留技術等の開発に充てると発表した。
しかし、豪州国立大学(1946年設立の唯一の国立大)傘下の気候変動問題研究学院長のマーク・ハウデン教授は、当該二酸化炭素回収貯留の大規模運用はまだ効果が立証されていないことから、“巨額費用がかかり”かつ“長期的な研究開発が必要な”当該技術への投資は慎重になるべきだと主張した。
同教授は『SBSニュース』のインタビューに答えて、“二酸化炭素回収貯留技術開発の歴史はまだ浅いこともあって、豪州における当該プロジェクトが他国での失敗例を如何に改善できているのか等、十分納得がいくものでなければならないので、(そこに巨額投資することが)果たして価値があるのか等厳しくみていく必要がある”と警告している。
(注)カーボンニュートラル:環境化学の用語の一つ。何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。個人・企業・政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、「排出権クレジット」を購入すること、または他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせること。
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