大会開催に固執する国際オリンピック委員会(IOC)幹部の不穏当な発言に、日本では反発の声が増している。そうした中、米国女子体操競技ホープは、大会が昨夏より1年延びたことを前向きに捉えて、高難度の技を習得し、大会が開催された場合の準備に余念がない。
5月24日付
『ザ・グリオ』(2009年設立のアフリカ系米国人向けオンラインニュース):「シモーネ・バイルズ選手、“自分はできる”と信じて高難度の技に挑戦して成功」
米国女子体操競技ホープのシモーネ・バイルズ選手(24歳、注1後記)は5月22日、インディアナポリス(米中央部インディアナ州)で開催された米体操競技大会の跳馬競技において、高難度のユルチェンコ跳び2回ひねり(注2後記)を女子で初めて成功させた。
同選手は、2019年にシュツットガルト(ドイツ)で開催された世界体操競技選手権で5度目の個人総合優勝を飾っている。
米スポーツ専門チャンネル『ESPN』(1979年設立のウォルト・ディズニー傘下のメディア)によると、同選手は、東京オリンピックが1年延期になったことを受けて、新しい高難度の技の習得に努めてきたという。
ただ、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、今回の審判団は6.6ポイントと、同選手が過去に叩き出したと同程度の得点しか出さなかったと批判的に報じた。
同選手は、減点される恐れもあることから今回も特に不満な表情を見せなかったが、高難度の技を見事やり切ったことで、同選手の精神力が益々強くなったとみられる。
同選手はインタビューで、東京大会に個人総合のディフェンディング・チャンピオンとして臨むことになるが、大会延期や新型コロナウィルス(COVID-19)感染未収束の困難かつ特異な環境下でも、“自分はできる”と信じて今後も努力していくとコメントした。
同選手は昨年3月、週刊誌『ピープル』(1974年創刊の有名人に関するニュース専門誌)の取材に答えて、“体操競技では新技を習得しようとするとケガのリスクが常に伴うが、成功した際の称賛も大きいので、それとの綱引きでチャレンジしていかなければならない”とも語っている。
『NBCスポーツ』(1939年設立)の解説によると、ユルチェンコ跳び2回ひねりは、踏み切り台に横転して入り、バク転して跳馬を飛び越えた後に更に宙返りして着地するという大技で、これまで男子選手しか成功していなかったという。
同選手は5月21日の練習ラウンドで同大技を成功させていたが、翌日の本番でも見事に着地した。
なお、同選手は競技後のインタビューで、“東京オリンピックでこの大技に挑むかどうか、リスクを伴うことでもあり難しい問題だ”としながらも、“挑戦したい気持ちが強く、個人総合決勝でチャレンジする価値は大いにあると思っている”と強調した。
一方、東京オリンピック開催の可能性であるが、日本におけるCOVID-19感染問題深刻化の中、混沌としている。
日本メディア報道によると、東京都医師会(1946年設立の公益社団法人、会員6千人超)が5月14日、菅義偉首相(72歳)に宛てて、“現下の情勢では大会開催が困難であるので、大会を中止するようIOCを説得して欲しい”との嘆願書を提出したという。
同会は、“現在でも医療体制がひっ迫しており、大会開催によって更に感染者が増大し、救える命が救えなくなる恐れがある”と訴えている。
(注1)シモーネ・バイルズ選手:2016年リオオリンピック女子体操競技個人総合・跳馬・ゆか・団体総合の金メダリスト。2013~2019年開催の世界体操競技選手権で個人世界最多の合計25個のメダルを獲得(うち金メダル19個も世界最多)。
(注2)ユルチェンコ跳び2回ひねり:ロシアの女子体操選手ナタリア・ユルチェンコ(1980年モスクワオリンピックの跳馬競技金メダリスト)が1982年に成功させた跳馬の技として命名されたユルチェンコ跳びを、更に1回ひねった技。男子選手では数人が成功させている。
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新型コロナウィルス(COVID-19)感染に関し、長らく都市封鎖等の措置を講じていた欧米各国で徐々に緩和が進みつつある。そこで、前回、影響を受けた世界のスポーツイベントについて報道して以来10日ほど経った現状について、下記通り報じたい。
5月11日付
『AP通信』他:「世界のスポーツイベントの現状」
<注目ニュース>
●米メジャーリーグ・ベースボール(MLB):独立記念日の7月4日頃に、無観客で開催することでオーナー側が一致し、選手会側と協議。
●英国:イングランド・カントリーとウェールズ・カントリーに跨るゴルフクラブ、外出自粛解禁と自粛継続という異なるカントリー自治政府判断に困惑、プレーは可能、それとも、自粛継続のカントリー内のホールでは不可?
●カナダ:ナショナル銀行が、ランキング下位の同国テニス選手に支援金支給を決定。
●トルコ:バレーボール・リーグ、バスケットボール・リーグが今シーズンの中止を決定する中、長友佑都選手が所属するプロサッカー・リーグは6月12日から再開発表。
<米国/MLB>
・MLBオーナー会議は5月11日、無観客、試合総数82試合、両リーグに指名打者制採用等を条件として、独立記念日の7月4日頃(その週末)に開幕することで合意。
・5月12日に、この条件を基に大リーグ選手会側と協議予定。
・一方、米中東部ケンタッキー州本拠の老舗スポーツ用品メーカー、ヒラリック&ブラスビー社(1855年設立、同社のバットはMLB選手の60%以上が使用)は、同州の都市封鎖措置の一部解除方針を受けて、5月11日よりバット作り再開。
<英国/ゴルフ>
・ボリス・ジョンソン首相は、5月13日より都市封鎖措置の一部解除を決定し、英国東部のイングランド・カントリーにおいては、ツーサム(2人プレー)かつソーシャルディスタンスを保つ条件でのゴルフ・プレーを許可。
・一方、西端のウェールズ・カントリー自治政府は、外出自粛措置を継続すると発表。
・ラリーミネック・ゴルフクラブ(1933年開業、イングランド・ゴルフ協会所属)は、15ホールがウェールズ側、3ホールがイングランド側にあり、名物ホールのNo. 4では、“ウェールズでドライバー(ティーショットのこと)を打ち、イングランドでパッティング”との案内。
・そこで、クラブメンバーは、果たしてプレーをして良いのか、それとも、ウェールズ側にあるホールではプレーを中断しなければならないのか、困惑。
<カナダ/テニス>
・ナショナル銀行は5月11日、低収入に喘ぐ同国出身の23人のテニスプレーヤーに、1万~2万カナダドル(7千~1万4千ドル、約7万5千~15万円)の支援金支給を発表。
・対象は、世界ランキング100~750位のシングルプレーヤー、同25~100位のダブルスプレーヤー、ジュニアランキング100位以内のプロ予備軍の選手、及びランキング50位以内の車いすプレーヤー。
・女子テニス協会(WTA)及び男子プロテニス協会(ATP)とも、7月中旬まで全ての競技会を中止。
・カナダにおいては、8月末まで競技中止とされているが、ロジャーズ・カップ(注1後記)の男子大会のみ8月開催予定。
<トルコ>
・バスケットボール連盟のヒダイェット・ターコグル会長は5月11日、今シーズンの全試合を中止とすることで全チームが合意したと発表。
・バレーボール連盟のマーメット・アキフ・ウツンダグ会長も同日、今シーズンの全試合を中止することとし、優勝チーム決定戦も下位リーグとの入れ替え戦も実施しないと発表。
・一方、プロサッカー・リーグは先週、3月20日から中断している試合を6月12日から再開すること、また、8月にイスタンブールで予定されている欧州チャンピオンズリーグ(欧州クラブチームによる大陸選手権大会)決勝戦も開催すると発表。
<日本/プロ野球>
・日本野球機構の斉藤惇コミッショナーは5月11日、日にちは未定としながらも、6月に無観客での試合開催を検討していると発表。但し、7月下旬予定のオールスター・ゲームは、開始70年で初の中止とすることが決定。
・東北医科薬科大学(1939年創立の私立大学)感染症研究所の賀来満夫教授は、政府による緊急事態宣言が5月末まで延長されている最中、いつ頃開幕できるか等誰も判断できないとコメント。
・一方、台湾と韓国のプロ野球は、無観客ながら既に開幕済み。
<米国/ドローン・レーシング・リーグ>
・ドローン・レーシング・リーグ(2015年設立)のレイチェル・ジェイコブソン会長は5月11日、チャリティー目的(COVID-19医療従事者用防護服等の支援)でのバーチャル形式のリーグ戦を5月16日より開始すると発表。
・競技には、米国、カナダ、英国、スイス等の代表が参戦し、同会長によれば、全員がダイレクト・リリーフ(DR、注2後記)への寄付に同意済み。
・『NBCスポーツ』が5月16日開幕戦から放送予定。
<ドイツ/サッカー・リーグ>
・アンゲラ・メルケル首相は先週、COVID-19感染防止の厳格対策を講じる条件で、都市封鎖措置の一部解除を発表。
・これを受けて、サッカー連盟のフリッツ・ケラー会長は、3月13日から中断しているサッカーについて、5月16日に男子ブンデスリーガ(1963年創立のドイツ・プロサッカー・リーグ)の試合を再開すると発表。
・女子ブンデスリーガは5月29日再開。但し、いずれも当分無観客前提。
(注1)ロジャーズ・カップ(旧カナディアン・オープン):7月から8月にかけて開催されるカナダで開かれる男女共催の国際テニス競技大会。男子はATPマスターズ1000、女子はWTAプレミアトーナメントに規格されており、世界ランキング上位選手に出場義務が課せられている。大会は隔年ごとにトロント市とモントリオール市で開催され、男子トーナメントがトロントで開催される場合、女子トーナメントはモントリオールで行われる。翌年には、男女の開催地を入れ替えて行われる。
(注2)DR:1948年にカリフォルニア州で設立された非営利団体。ミッションは、貧困や緊急事態に苦しむ人々の健康と生活を支えるため、欠かすことができない医薬品などを提供すること。米経済誌『フォーブス』において、7 年連続で「効率 100% の資金調達を実現している数少ない団体」のひとつつとして掲載。
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