習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)は、事ある毎に“武力を駆使しても台湾統一”を表明していて、それに呼応するように人民解放軍(PLA)の軍艦・戦闘機が繰り返し台湾海峡等で武力を誇示している。そうした中、米シンクタンクが、もし中国が台湾封鎖に踏み切ると、台湾が半ば牛耳る世界の半導体市場に大打撃となり、結果として世界経済にとって2兆ドル超の損失が発生すると試算している。
1月5日付
『Foxニュース』は、「米シンクタンク、中国がもし台湾封鎖すると世界経済は2兆ドル超の損失と試算」と報じている。
中国と台湾間の緊張は、過去数十年の中で昨年が最高レベルになっている。
そうした中、米シンクタンクが、中国がもし台湾封鎖に踏み切ると、世界経済にとって2兆ドル(約268兆円)超の損失を被る恐れがあると試算した。
中国は台湾を勝手に離脱した中国の一省だと主張しているが、1949年に22年間も続いた内戦に勝利した中国共産党が中国大陸を治めることになって以降も、台湾は民主独立の国として存続してきた。...
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1月5日付
『Foxニュース』は、「米シンクタンク、中国がもし台湾封鎖すると世界経済は2兆ドル超の損失と試算」と報じている。
中国と台湾間の緊張は、過去数十年の中で昨年が最高レベルになっている。
そうした中、米シンクタンクが、中国がもし台湾封鎖に踏み切ると、世界経済にとって2兆ドル(約268兆円)超の損失を被る恐れがあると試算した。
中国は台湾を勝手に離脱した中国の一省だと主張しているが、1949年に22年間も続いた内戦に勝利した中国共産党が中国大陸を治めることになって以降も、台湾は民主独立の国として存続してきた。
しかし、習近平国家主席やその他多くの共産党幹部は揃って、“台湾統一”のために武力行使は厭わないと強硬姿勢を示している。
かかる背景より、米シンクタンクのロジウムグループ(RG、ニューヨーク本拠の世界政治経済分析や中国問題専門の研究所)がこの程、中台間で軍事衝突が発生した場合の世界経済への影響度について分析した結果を公表した。
RG研究員によると、“当然”のことながら、台湾海峡が封鎖された場合の世界経済活動への影響は膨大となるとの結論であり、それは2兆ドル超にも上ると試算されるという。
RG試算でまず言及されているのは、半導体のサプライチェーンの要となっている台湾との貿易が遮断されることに伴う損失である。
台湾は、世界最先端のコンピューターチップ生産の92%を、また然程高度でないチップの3分の1から半分の市場を占めていることから、車・スマートフォン・パソコン等の生産にすぐ支障をきたすことになる。
RGによれば、“台湾封鎖が発生すると、台湾製半導体に頼る多くの世界企業が、少なく見積もっても総額1兆6千億ドル(約214兆4千億円)の減収を被ることになると見込まれる”という。
台湾製半導体に頼るその他二次産業も被害を受けることになるので、“最終的に半導体不足に伴う社会的・経済的損失がどれ程になるのか数値で表すのは難しいが、ともかく壊滅的であることは紛れもない”と言及している。
また、RGレポートでは、世界の金融機関が、銀行団中国との国際貿易に関わっている多くの企業に対して、台湾封鎖中の貸し付け躊躇することになろう故、中国との貿易額が2,700億ドル(約36兆1,800億円)余り落ち込むと試算されている。
更にRGは、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の際に発生したように、台湾封鎖に伴い米国証券取引所に上場されている中国企業株式を保有する機関投資家が一斉に売却に走るとみている。
すなわち、2022年9月現在の中国企業株式総額は7,750億ドル(約103兆8,500億円)に上るが、この多くが売りに出されることに伴い、今度は中国政府が、2022年のロシアの例に倣って、一斉に中国における外国資本を国有化することになろうとみている。
なお、RGは、台湾の1,270億ドル(約17兆180億円)相当の直接投資、また、中国1,000億ドル(約13兆4千億円)相当の直接投資分も大きく減失することになるとする。
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12月15日付米
『Foxニュース』は、「ベトナム、米武器メーカーと折衝の背景に南シナ海で領有権を争う諸島の前哨基地拡充」と題して、長い間南シナ海の領有権問題で対立しているベトナムが、実効支配を強化すべく、南沙諸島(スプラトリー諸島)の複数の環礁を埋め立てて前哨基地を設営しており、これが俄かに米武器メーカーと折衝を進める背景とみられると報じている。
香港メディア『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』紙は12月15日、防衛・国家安全保障問題研究のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS、1962年設立、本部ワシントンDC)が取り組んでいる「アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI、注後記)」プロジェクトが調査した報告を掲載した。
それによると、ベトナムが2022年後半、領有権問題となっている南シナ海の南沙諸島の複数の環礁を埋め立てて、計170ヘクタール(1,700平方キロメートル)の人工島を建設したという。
埋め立て工事を済ませたのは4つの小島・環礁で、ベトナムが実効支配しているナムイエット島・ピアソン礁・サンド礁・テネント礁である。
特に、最初の2つに造られた人工島は、39ヘクタール(390平方キロメートル)にも広げられていて、大型船が停泊できる港湾設備の建設が可能となっている。
また、ベトナムはその他5つの環礁の埋め立て工事にも着手しているとする。
そのうち、バーク・カナダ礁は既に23ヘクタール(230平方キロメートル)も広げられており、まもなく大掛かりな工事が始められるようになっているという。
かかる建設工事は、ベトナムによる南シナ海領有権問題に関わる大胆な活動と言えるが、中国が2013から2016年の間に実施した、のべ1,295ヘクタール(1万2,950平方キロメートル)に及ぶ人工島建設と比べると見劣りがする。
中国は更に、これら人工島を軍事拠点化して、既に対地・対空ミサイル、電子妨害装置のみならず、軍用機離発着が可能な滑走路まで設営している。
中国はこれらを用いて、米国等が実施している“航行の自由作戦”への強烈な対抗措置を講じたりして、同海域ほとんど全てにおける領有権主張を強靭なものにしつつある。
英国メディア『ザ・ガーディアン』紙は、ベトナムが使用しているのはグラブ型浚渫機であり、“環礁を浅く掘って埋め立てを行っていることから、中国が行った浚渫・埋め立て工事より環礁の破壊度合は少ない”と報じている。
以上より、CSISのAMTI調査報告では、“ベトナムが2022年に実施した小島・環礁埋め立て工事は、南シナ海における領有権主張をより鮮明に表す意図がある”と結論付けられているが、“(この活動に対して)中国や他の領有権主張国がどういう対応を見せるのか、注目していく必要がある”としている。
なお、同海域で他に領有権を主張しているのは、台湾・フィリピン・ブルネイ・マレーシアで、ベトナムと同様中国の一方的な領有権主張に懸念を示しているが、ベトナムが主張するような、どの小島・環礁がどの国に帰属しているかとの見解には賛同していない。
一方、『ロイター通信』は12月15日、米武器メーカーのロッキードマーティン・ボーイング・レイセオン・テクストロン等がベトナム政府と折衝していて、ヘリコプターや無人攻撃機の供給について協議していると報じた。
同報道によると、これらのメーカー代表が、ベトナムが初めて開催した兵器・装備品国際展示会への参加を契機にベトナムを訪問して、軍事装備品提供の交渉を行ったという。
なお、対象品目の無人攻撃機については、今回ベトナムが南沙諸島内に築いた小規模の人工島において、周辺哨戒や対艦攻撃を想定した場合、有力な武器となるとみられる。
同日付欧米『ロイター通信』は、「米シンクタンク、ベトナムが南シナ海領有権主張で実力行使との調査報告」として詳報している。
CSIS調査報告によると、ベトナムが2022年に南沙諸島内に計420エーカー(170ヘクタール)の埋め立て工事を行った結果、同国が直近10年で実施してきた工事と併せて、のべ540エーカー(220ヘクタール、2,200平方キロメートル)にも達したという。
この結果、同国は4つの人工島を建設した上、更に他にも5つの小島・環礁で浚渫工事を展開しているとする。
ただ、“中国が、2013から2016年にかけて実施した広大な埋め立て工事面積の3,200エーカー(1,300ヘクタール、1万3千平方キロメートル)より遥かに狭い”としている。
しかし、“これまで中国が一方的に領有権を主張し、実力行動に出てきていたことに対して、今回のベトナムによる実力行使は、同海域における領有権問題で同国の主張をより強く示すことになる”とし、“今後の中国や他の領有権主張国の行動が注目される”と結んでいる。
(注)AMTI:南シナ海を航行する船舶の船籍を特定したり、中国が進める人工島の建設の様子を追ったりして、分析をウェブサイトで公開する調査プロジェクト。
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