米国大統領選で民主、共和党以外の第三党から新たな候補者が浮上。リバタリアン党のゲーリー・ジョンソン氏(元ニューメキシコ州知事)が党の大統領候補に指名された。リバタリアン党(自由主義者党)はこれまで上下院の議席獲得もなく、ジョンソン氏は前回2012年に出馬するも得票率1%のみ。元共和党員のジョンソン氏は知事経験が長く、拒否権行使の多用、マリファナ解禁支持で知られた。同党から、副大統領候補にはウィリアム・ウェルド氏(元マサチューセッツ州知事)が指名された。元共和党員のウェルド氏は人工中絶、同性婚支持で中道右派だが政策によってはリバタリアンと一線を課す。リバタリアン党は、トランプ氏を受け入れ難い有権者に新たな選択肢を与えることになるのだろうか。
5月30日付
『ウォールストリートジャーナル』(ロイター通信引用)は「リバタリアン党、ゲーリー・ジョンソンとウィリアム・ウェルドを党候補に指名」との見出しで以下のように報道している。
・リバタリアン党は党大会で、元共和党で元ニュー・メキシコ知事ゲーリー・ジョンソン氏を大統領候補に、元マサチューセッツ州知事ウィリアム・ウェルド氏を副大統領に指名。元共和党員の両氏を指名することで、リバタリアン党は共和党指名候補ドナルド・トランプ氏と民主党最有力候補ヒラリー・クリントン氏への有力な対抗馬とするねらい。
・100年の歴史をもつリバタリアン党だが、大統領選挙で1%以上の得票率を得たことはなく、連邦議会で議席を得たことが無い。
・ジョンソン氏は2期共和党から知事、拒否権の多用、ドラッグ使用合法化支持で知られ、2012年共和党から大統領選に立候補し本選で約130万票獲得。同氏は、「米国人の半分は現在無党派で、リバタリアン党の出番だ。米国の市民はその自覚がないが、殆どはリバタリアン(自由主義者)だ」とする。
・一方、ウェルド氏は民主党一色のマサチューセッツ州で、人工中絶、ゲイ市民権では、中道右派寄り共和党員として2期知事を務めた。銃規制、自由貿易、外交政策への観念からリバタリアンとしてやや弱い。
・今年の大統領選の世論調査でかつてないほど第三の候補が求められている現状。これまで、第三の党から大統領になった人はなく、両氏は大注目を浴びる。クリントン、トランプ氏と争った場合、ジョンソンが1割の支持との調査も僅かだがある。
5月29日付英
『デイリーメール』は以下のように報道している。
・ゲーリー・ジョンソン氏は日曜フロリダのオーランドで開かれた党大会で2回とも過半数を獲得。
ジョンソン氏は演説で、「(同氏の)フランクな手法が有権者に受け入れられ、長期間少数派だったリバタリアン党の躍進につながる。」と述べた。
・ジョンソン氏は、ウェルド氏を「お手本」とし、ウェルド氏と協調しなければ大統領選で戦えないと思うとラブコールを述べたが、リバタリアン派からやや隔たりをもったウェルド氏に対する党内の代議員からの反応は冷ややかなものだった。
5月31日付米
『NBCニュース』は「ドナルド・トランプは第三の候補を警戒するべきか?」との見出しで、以下のように報道している。
・世論調査でトランプがヒラリーを猛追する中、先週末、トランプ候補に疎外感を抱く社会保守主義者、タカ派、経済保守派共和党員を取り込みを狙い第三党の新顔が浮上。
・リバタリアン党ゲーリー・ジョンソンとウィリアム・ウェルド両氏の同性婚、中絶支持、麻薬合法賛成の右派思想への見方は厳しく、トランプ氏に反対(婚姻複数回)の立場の社会保守派なら支持しないだろう。
・民主共和候補両氏の人気の勢いなさが第三候補に票を許すかと思われるが、支持層がきれいに分かれており、第三党候補の出番はほぼなく、名が知れていない保守派候補が5ヶ月で全米でキャンペーンを繰り広げ、候補者討論会への参加に必要な(世論調査での)15%の支持を得るのも至難の業。
・しかし有利な点は、32の州で候補者となっており、全50州とコロンビア特別区でも準備が整っている。反トランプ派は39州で候補者名簿の用意ができ、またテキサス州で無党派が立候補する際の厳しい規制等の改正を求める訴訟を起こす可能性もあるとする。
・自信に満ちて勝利を豪語するトランプ氏も警戒しているようで、共和党内では第三候補の登場で、クリントンが勝利を治める事を懸念する声がある。共和党内は急速にトランプ支持に団結しており、主流派からも予測された反対がそれほど起きていない。
・先週の「FOXニュース」の調査では、トランプ氏42%、クリントン氏39%に対しジョンソンは10%の支持につけたが、クリントン票がジョンソン氏に流れた事を意味する。ジョンソン氏が脅威となるほどでなくとも、道義的、小さな政府推進派からの批判が増すだろう。トランプは「ニューヨークタイムズ紙」で、ウェルド氏を「アルコール中毒」だと攻撃。ウェルド氏は穏やかに反撃、「言わせておく」とした。
6月1日付
『ヤフーニュース』は「世論調査、予備選と政治が崩壊していると米国民」との見出しで、以下のように報道している。
・最新の調査によると、今回の予測不能で、不安定で風変りとなった大統領選挙予備選を総括し、多くの米国人は国の政治システムに失望と怒りを抱いている。3人に2人は党派に関わらず、選挙に「不満」を持つ。
・政府機関について1060人を調査した、「AP通信」とNORCセンターによる調査によると、65%が「選挙戦に関心がある」、選挙の方法については、23%は「楽しい(excited)」、13%が「誇りに思う(pround)」。1割のみが政治システムに「満足」。政府部門のうち、過半数が満足と答えたのは「軍」のみ。「国会」は4%のみ満足。有権者は民主、共和党両党の主流派にも不満で、党が新しい思想や有権者の意見を取り入れていると回答したのは2割のみ。」
・不満は今回の大統領選に反映された。国民の半数はサンダース氏の参戦が民主党にとって良かったと回答(トランプの参戦は33%)。予備選挙の方法は閉ざされたシステムで、州による相違、党名のみを記入するのは無党派を受け付けない、予備選挙と党員集会の差異などに批判が多い。7割近くが公平でオープンな予備選を望むとし、8割強が「予備選(プライマリー)」が「党員集会(コーカス)」と比較してより公平であると答えた。両党の選挙システムの改正は今回の選挙後となりそうだが、夏の党大会の議題となりそうである。
閉じる
中東などの産油国でつくる石油輸出国機構(OPEC、注後記)は、1970年代には世界の原油生産の5割を超え、世界の石油市場を席巻していたが、米国、ロシア、イギリス、メキシコなどの非OPEC諸国の産油量増大に伴い、シェアも4割弱となり影響力は減少した。そして、米国のシェール革命(シェールオイル生産増大に伴う石油供給ソースの大変革)に伴う原油生産増と、中国などの新興国の石油需要減退に伴い、2014年6月をピークに原油価格は暴落し、未だ低迷が続いている。そこで、石油市場における影響力復権を狙って、OPECが世界の原油生産シェアの増大を狙うべく、大胆な将来計画を発表したと各国メディアが伝えた。中には、石油代替エネルギーを過小評価しているとの厳しいコメントを掲載するメディアもある。
12月23日付中国
『グローバル・タイムズ(人民日報英語版)』(
『新華社通信』記事引用)は、「OPEC、2020年には原油価格が70ドルまで上昇と予見」と題して、「OPECが12月23日に公表した“世界石油見通し報告”によると、目下低迷している原油価格は、2020年には1バレル(約159リットル)当り70ドルまで、また、2040年には95ドルまで再び上昇するという。但し、この予想価格は、2014年6月に記録した114ドルには遥かに及ばない。なお、同報告によると、2020年には世界の原油需要量が日量9,740万バレル、そして2040年には1億1,000万バレルまで増え、依然世界のエネルギー需要の中で石油の締める割合は最大を維持するとしている。」と報じた。
同日付米
『NBCニュース』は、「OPEC、電気自動車の将来に警鐘」と題して、「OPEC発表の報告では、2040年においても、世界におけるガソリン車は94%を占めるという。OPECによれば、電気自動車や水素電池自動車、また、天然ガスなどの代替エネルギーによる車は価格が高止まりで、また、エネルギー補充ステーションの整備が進まず、結局今のガソリン車の優位は変わらないとする。そして、2040年までも、世界の石油需要の40%は、ハイブリッドも含めたガソリン車からのもので大きな変化はないという。」と伝えた。
同日付米
『ワシントン・ポスト』紙は、「オバマ政権の外交戦略の勝利は、原油価格低迷のお蔭」と題して、「1年半以上続く原油価格低迷により、米国内でも一部収入減にはなるものの、オバマ政権にとっては、原油輸出収入に大きく頼るロシア(政敵のプーチン大統領)やベネズエラ(反米急先鋒のマドゥロ大統領)に大打撃を与えられると歓迎している。更に、欧州、日本、そして米国自身も、原油価格低迷によって景気回復につながっているとする。」とし、「原油価格低迷が続く最大の原因は、中国などの原油需要減退にも拘らず、サウジアラビアが減産するどころか、最高記録に近い原油生産を継続しているところにある。同国の狙いは、高コストの北極海油田、カナダのオイルサンド、ブラジル沖深海油田、更に、米国のシェールオイルに打撃を与えることだけでなく、長年のライバルであるイラクやイランに対して、同国の産油量最大シェアを堅持する意向とみられる。」と報じた。
一方、同日付英
『テレグラフ』紙は、「OPECにとって電気自動車は致命的な脅威」と題して、「OPECの報告は主要な点で間違った見方をしている。2040年でも、石油等化石燃料が世界のエネルギーの78%を占めるとか、電気自動車や水素電池車が金ばかりかかる代物だとか、更に、今年の国連気候変動枠組み条約締約国会議COP21の合意事項は石油業界に何ら影響を与えないとか等々である。その中でも最たるものは、今後25年の間、4億台と世界で最も多くの自動車王国となる中国含めて、94%はガソリンやディーゼル車が占めるということである。しかし、アップルやグーグルが新たに電気自動車産業に進出しているだけでなく、先行しているテスラ社は2017年には3万5千ドル(約420万円)で売り出そうとしているし、トヨタの水素電池車、フォルクスワーゲンやフォードも電気自動車やハイブリッド車を販売しようとしており、2030年代にかけて世の中の趨勢は電気自動車等、非ガソリン車、もしくはガソリン消費が僅かな車にシフトしていくとみられる。」とし、「15年前に本紙がサウジアラビアのヤマニ石油相(当時)にインタビューした際、彼は、今後30年後には原油生産量が最大になっても、原油を必要とする国がなくなるような時代が来るかも知れない、と懸念を表明していたが、未だに彼の予言に耳を傾けようとしていない。」と伝えた。
なお、OPEC報告では、2040年には日量4,070万バレルと、現在より3割以上の大幅増となり、非OPEC諸国の日量3,950万バレルを上回り、OPECが復権するとしている。現在は石油収入で潤い、それのみに依存している中東諸国が、脱石油・他産業育成に努めているカタールを除き、15年後には産業が荒廃し、新たなテロリスト集団を生み出すような国にならないよう望むばかりである。
(注)OPEC:1960年9月設立の世界最大のカルテルで本部はウィーン(オーストリア)。現参加国はサウジアラビア、イラン、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、ベネズエラなど12ヵ国。1970年代は、世界石油資本(7シスターズと呼ばれる石油メジャー)に対抗して、世界の石油市場を席巻し、我が世の春を満喫したが、後に各国の石油備蓄の拡大、代替エネルギーへの促進、北海油田やメキシコなどの非OPEC諸国の産油量の増大などで、石油価格は長らく低迷し、1980年代~1990年代はその影響力を失墜させた。しかし、1999年にOPEC全加盟国が強調して生産調整に踏み切ったことや、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれる新興国の石油需要増大で、再び石油価格は上昇して高値が続き、これに伴い、2000年代にかけてOPECの影響力は増した。
閉じる