フロランジュ法の攻防 ゴーン氏前代未聞の民間の勝利(2015/12/25)
長期保有の株主の二倍議決権を課すフロランジュ法制定後、ルノーの筆頭株主の仏政府は持ち株比率を引き上げた。それ以来ルノーと日産の両社のCEOを務めるゴーン氏との間で対立状態が続いていたが、仏政府が日産の経営不干渉を受入れる形で決着がついた。仏経済紙「トリビューン紙」によると「日産の経営におけるルノーの不干渉の取り決めに違反した場合、日産はルノー株式を制限なく買い増す権利を有する」事が含まれる。
フランス各メディアはこれまで、「マクロン経済相は非生産的で無用な緊張状態をつくるような戦略に出た」(
『ルモンド紙』)「ルノーの利益は日産が寄与しているのに、権限はルノーと仏財務省が握る事に対する日本の苛立ちはよくわかる」(
『トリビューン紙』)と、マクロン経済相に否定的な見方を示した。中でも、マクロンVSゴーンの「力比べ」を継続して追った経済紙「レゼコー紙」は「部分的でも国有企業において、企業トップが後見ともいうべき株主である国の大臣にたてついたやり方は、フランスでは前例がなかった」と報じ、ゴーン氏の勝利を「前代未聞」「フランス資本主義の歴史で初」と大きく取り上げた。...
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フランス各メディアはこれまで、「マクロン経済相は非生産的で無用な緊張状態をつくるような戦略に出た」(
『ルモンド紙』)「ルノーの利益は日産が寄与しているのに、権限はルノーと仏財務省が握る事に対する日本の苛立ちはよくわかる」(
『トリビューン紙』)と、マクロン経済相に否定的な見方を示した。中でも、マクロンVSゴーンの「力比べ」を継続して追った経済紙「レゼコー紙」は「部分的でも国有企業において、企業トップが後見ともいうべき株主である国の大臣にたてついたやり方は、フランスでは前例がなかった」と報じ、ゴーン氏の勝利を「前代未聞」「フランス資本主義の歴史で初」と大きく取り上げた。ゴーン氏はフランス産業界でも特異な存在である事がわかる。
『レゼコー紙』は「1999年の日産の破綻危機を救ったのはルノー」という過去から、「今の日産の販売台数は、ルノーの二倍以上で、利益はルノーの1.6倍」である現在へ移行すべきと社説で提言する。「レゼコー紙」は、
『日経新聞』が「寄生虫となりはてたルノーグループが、仏政府の奨励の下で、日産の成功を吸い取っている」と指摘した事に触れ、「仏政府の植民地化」に対して何故ゴーン氏が断固戦わなければならなったかの理由とする。
「レゼコー紙」は一貫してゴーン氏に軍配を上げてきたが、「何よりも、仏政府が実際にフランスの利益に反する役割をした」と国益の観点からも痛烈に今回の仏政府の対応を批判する。「マクロン経済大臣の直接的行動主義は、今までなかった緊張の火に油を注いだ」。その結果「ルノーVS日産、フランスVS日本、ゴーンVS仏政府において、これ程摩擦が大きくなった事はなかった」として「高い代償を払いかけた」と指摘する。
「レゼコー紙」は自動車業界自体の動向も考慮する。「自動車業界は今後数年で合併や買収によって生き残れると理解しており」、「グローバル化が進む自動車業界では、新興勢力と衰退する勢力の間で資本の再分配が起こる」との見方を示す。自動車業界の再編は今後も世界中で続く状況の中で、「ルノー株の評価は政府の介入主義に苦しみ、投資家の気をそいだ」、「フランスの利益はルノーが強くなる事にあり、ルノー内で政府の力が強くなる事ではない」と、政府の行き過ぎた介入に苦言を呈する。
また「競合相手より収益率を高めるだけでなく、証券取引所での価値を高める事を同時に行う必要がある」と指摘するように、公社型の資本主義からの脱却をせまる声が国内であがる事は興味深い。ルノー社もドゴール政権下で大戦中に公社となって戦後出発した。民間のCの政府に対する勝利はフランスの変化の始まりを象徴するのかもしれない。
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フランスメディアが見る日本経済新聞のファイナンシャル・タイムズの買収(2015/08/04)
『レゼコー紙』は、「日経新聞は影響力拡大の必要性を感じている」と見出しをつけて、日経新聞側の理由を説明する。日経新聞は「利益率が高く」、購読者数380万の
『ウォールストリートジャーナル』に次いで世界第二の購読者数(約300万)を抱え、「日本の経済政策立案者や政界全体に読者層を持つ」にも関わらず、「傲慢さが殆どない」と、フランスの日経新聞にあたるレゼコー紙は日経新聞を、高品質と商業的成功の両方を有する優良メディア企業と認識する。...
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『レゼコー紙』は、「日経新聞は影響力拡大の必要性を感じている」と見出しをつけて、日経新聞側の理由を説明する。日経新聞は「利益率が高く」、購読者数380万の
『ウォールストリートジャーナル』に次いで世界第二の購読者数(約300万)を抱え、「日本の経済政策立案者や政界全体に読者層を持つ」にも関わらず、「傲慢さが殆どない」と、フランスの日経新聞にあたるレゼコー紙は日経新聞を、高品質と商業的成功の両方を有する優良メディア企業と認識する。その日経新聞がファイナンシャル・タイムズに求めたのは「欠如している国際的認知度」と伝える。アジア最大のメディアグループ日経の欧米での認知度が、世界第二の購読者数に比例しない理由の一つは、「日経のデジタル化の遅れ」と
『ルモンド紙』は指摘する。
またレゼコー紙は「デジタル化の遅れは国内の読者の必然的浸食を呼ぶ」と評し、「月額4300円の高い購読料を納得している日本国内の購読者は高齢化している」一方で、「ネットで情報を収集する事になれている若手世代の中でも、若手サラリーマンに価値を認めさせる事に日経新聞は苦心している」事に触れる。「デジタル戦略のパイオニアとして、世界に先駆けてデジタル化を進めたファイナンシャル・タイムズ紙との提携は日経にとって必要不可欠」と
『ルモンド紙』は報じる。
『日経アジアレビュー』、イギリス
『モノクル』との業務提携など、ここ数年日経グループは新たな成長市場開拓と海外での認知度向上への投資を続けており、ファイナンシャル・タイムズ買収はその仕上げのようだ。「日経新聞の認知度と国際的な影響力の増加」が見込めるとレゼコー紙は認識している。「日経新聞が同意した買収額が、アマゾンのCEOがワシントンポスト買収時に支払った額の5倍にあたる」(ルモンド紙)ことからも、日経新聞のデジタル化の遅れへの危機感の強さが伺える。それが「本来の事業である教育関連出版と教育サービスに業務を集中させたい」ピアソンの利害と一致した。
また「新聞とメディア業界のグローバル化の動きは、ピアソングループの日経へのファイナンシャル・タイムズ売却で劇的に進んだ」とルモンド紙が評する通り、単なる一メディア企業の買収劇ではなく、現在の新聞とメディア業界全体を象徴する国際的な傾向である事を改めて示した。
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