ウクライナ戦争は、世界で最も工業化が進んだ、汚染された地域のひとつを舞台に繰り広げられている。ロシア軍の攻撃は、地域の人々が依存しているエコシステムに損害を与え、たとえ戦闘が終わったとしても、その影響は今後何世代にもわたって続く可能性があることが懸念されている。
仏ニュースサイト
『ヴォックスユーロップ』は、ロシアのウクライナ侵攻は、多数の民間人の犠牲者を出し、多くの人々に難民生活を強いていることに加え、ウクライナだけでなく、東ヨーロッパのより広い地域で、環境と公衆衛生に悲惨な結果をもたらすことが懸念されていると伝えている。戦争による環境破壊の影響は、生態系、肥沃な土壌、生活手段の喪失から、汚染や産業破壊まで、大規模かつ長期に渡る影響を及ぼすことが考えられる。
すでにドンバス戦争の時から、数多くのウクライナおよび国際的な環境団体が、地域環境と公衆衛生への影響を警告していた。約4500の鉱山、冶金、化学企業があるドンバス地域は以前から汚染されており、「ヨーロッパで最も重大な人為的環境負荷」をもたらしている地域と見なされてきた。
ドンバス戦争が始まって以来、放棄された炭鉱は、同地域に有毒物質、時には放射性物質を流し込んでいる。坑道は互いにつながっているため、1つの坑道から汚染された水が他の坑道へも流出する可能性がある。また、一部の鉱山には、放射性廃棄物が含まれていると見られている。こうした鉱山で洪水が発生した場合、汚染された水が地下水と混ざり合い、飲料水を汚染するのではないかという懸念が持たれている。
オランダの平和団体PAXやイギリスの紛争環境観測所など多くのNGOが、ロシアがウクライナ全土の原子力・水力発電所、燃料パイプラインや貯蔵庫、その他の産業インフラを攻撃していると報告している。こうした攻撃は、深刻な人的被害をもたらすだけでなく、都市環境を破壊し、劇的に汚染するため、この戦争の人的被害を長引かせ、深化させることになる。
現在、ウクライナでは、60億トンを超える有毒廃棄物を保管する465の貯蔵施設が、事故や意図的な火災による被害を受けるリスクにさらされている。多くの貯蔵施設は水域から数メートル離れた場所にあり、町の近くにもある。故障または破壊された場合は、ロシア、モルドバ、ベラルーシも流れるウクライナの主要河川の汚染につながる可能性が懸念される。
米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、ウクライナの戦争でロシア軍はすでに国内の自然保護地域の3分の1以上に立ち入り、軍事行動を行い、その生態系は脆弱になっていると伝えている。自然保護地域は、さまざまな希少種や絶滅危惧種さえ含む渡り鳥の生息地となっている。
同紙は、世界で最も重要な生態系に影響を与える「戦争は破壊行為である」と伝えている。1950年から2000年の間に、紛争の80%が生物多様性にとって大切な場所で起こった。ベトナムでは、森林を「間引く」ための枯葉剤の散布が長期的な被害をもたらしている。第一次世界大戦の主要な戦場であったベルギーでは、2011年の調査で土壌から高濃度の鉛と銅が検出されている。
また、戦争は経済的・食料的不安を引き起こし、人々は「生存のために天然資源に依存するようになる」という。モザンビークでは15年間の内戦で、シマウマ、ゾウ、バッファローなど大型草食動物9種の個体数の9割が姿を消した。
稀に人間の争いが自然を保護することもあるという。最も顕著な例は、北朝鮮と韓国の間の軍事境界線である。人間が立ち入ることができないため、希少な動植物の保護区となっている。しかし、このようなプラスの効果は一時的なものであることもある。ニカラグアの大西洋岸では、住民の逃亡により森林が回復したが、帰還後の森林伐採により、それまでの増加分の2倍の森林が破壊された。
専門家たちは、ウクライナでは、紛争終結直後から環境保全策を検討することが急務になると警告している。
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