米上院議会は12月16日、11ヵ月余り空席となっていた駐中国大使の任命を承認した。ジョー・バイデン大統領(79歳)が今年8月、元ベテラン外交官でハーバード・ケネディスクール(1936年設立のハーバード大公共政策大学院)のニコラス・バーンズ教授(65歳)の指名を公表して以来4ヵ月も経ってからである。更に、現状でも、世界200ヵ国余りの米国大使のうちの半分近くが依然空席のままとなっている。そこで、米大手紙が、共和党による民主党政権指名の大使候補の承認を遅延させる戦術は、世界で今や米国を凌ぐ勢いの中国を悪戯に利するだけだとして、国家安全保障問題を優先させるべきだと厳しく指摘している。
12月17日付
『ワシントン・ポスト』紙:「オピニオン:米国大使承認決議保留で安全保障を危うくすべきではない」
米上院議会は12月16日、米国の駐中国大使候補として指名されていた元外交官のニコラス・バーンズ氏の承認を決議した。
全会一致の決議だったとは言え、今や中国が世界で米国に厳しく対峙する存在となっていることを考えたら、同大使職が11ヵ月も空席のままだったことは異常としか言いようがない。
更に言えば、上記承認決議を入れても、米国が世界に派遣している200に近い国の大使が依然93も空席となっているという現実がある。
この遅延の理由のひとつには、上院議会の共和党重鎮テッド・クルーズ議員(50歳、テキサス州選出)及びマルコ・ルビオ議員(50歳、フロリダ州選出)が議会戦術として、米憲法下の“アドバイス&コンセント(注1後記)”を使ってジョー・バイデン大統領が指名した大使候補の承認決議を悪戯に妨害していることが挙げられる。
このため、バーンズ氏についても上院外交委員会が何ヵ月も前に承認していたにも拘らず、本会議での承認決議を悪戯に遅延させ、年末の議会閉会という段階になって漸く決議に移行したものである。
かかる不条理な行いは、追って発行されるハーバード大・中国研究グループによる「米中2ヵ国の外交問題」内で指摘されている多くの問題のひとつに挙げられている。
すなわち、中国が辿ってきた外交政策の変遷(抜粋)は以下と指摘されている。
・中国が2001年に世界貿易機関(WTO、1995年設立)に“途上国”の立場で正式加盟した際、当時の中国最高指導者の鄧小平主席(トン・シャオピン、1904~1997年、1978~1989年在任)は、“隠れて機会を待て”との方針の下、“目立つな”また“指導的役割も担うな”と徹底。
・現在、王毅外相(ワン・イー、68歳)がいろいろな場面で発言しているとおり、“米国と肩を並べる”大国となったとして、如何なる場合でも謝罪など不要で米国には“強硬姿勢で臨む”べきとの対応。
・半世紀前、中国は初めて国連に代表を送ったばかりであったが、2019年には、大使・総領事等の派遣先として、米国の273ヵ国を上回る276ヵ国と外交関係を構築。
・現在、国連案保障理事会常任理事国5ヵ国のうち、最多の職員を派遣し、また、米国に次ぐ分担金拠出(3位は日本)。
・四半世紀前、江沢民主席(チャン・ツェーミン、現95歳、1993~2003年在任)が会談した外国首脳は、ビル・クリントン第42代大統領(現75歳、1993~2001年在任)の半数。
・現在、習近平国家主席(シー・チンピン、現68歳、2013年就任)が2013~2020年の間に会談した外国首脳は、バラク・オバマ第44代大統領(現60歳、2009~2017年在任)及びドナルド・トランプ第45代大統領(現75歳、2017~2021年在任)合わせたものと同数。
・中国の外交上の壮大な戦略として、全ての主要国にとって不可欠な経済パートナーとなる方針。
・その結果、2001年以降でみると、日本、ドイツ等の130ヵ国との貿易高が米国を抜いてトップに君臨。
・更に、医療品、半導体、太陽光パネル、最先端技術に不可欠なレアアースの世界最大の供給元となり、不可欠な地位を確立。
一方、中国の驕り高ぶりを表す顕著な例として、自身を批判する国や要人を恫喝する“戦狼外交(注2後記)”が挙げられる。
この結果、中国に対する反発が高まり、2021年における調査では、米国、英国等民主主義国の市民の約75%が中国を“支持しない”と答える程悪化している。
従って、米国は今こそ絶好の機会と捉えて、中国の野心的な外交政策に歯止めをかける必要がある。
つまり、諸外国における重要な任務を負う大使を派遣せず、空席のままとしておくことは、中国を利する以外なにものでもない。
故周恩来首相(チョウ・エンライ、1898~1976年、1954~1976年在任)が初代外相(1949~1958年在任)を務めた際、外交は“別の形の戦争”だとして野心的に取り組んでおり、その姿勢は脈々と続いている。
すなわち、中国の野望を食い止めるためにも、共和党は、悪戯に米国大使承認手続きを党戦略のひとつとして推し進めるのではなく、今こそ国家安全保障の重大さに立ち返り、米国にとって最も相応しい対応を取るべきである。
(注1)アドバイス&コンセント:米憲法上で、上院議会に認められた、大統領の指名権や立法権を制限しうる権限。
(注2)戦狼外交:21世紀に中国の外交官が採用したとされる攻撃的な外交スタイルのこと。この用語は、中国のランボー風のアクション映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」からの造語。論争を避け、協力的なレトリックを重視していた以前の外交慣行とは対照的に、より好戦的となり、ソーシャルメディアやインタビューにおける中国への批判に対して、しばしば声高に反論や反駁をしている。
閉じる
中国の通信大手ファーウェイは、中国国内の個人に関する情報収集において中国政府と積極的に提携していないと一貫して主張してきたが、同社が監視技術を中国当局に販売していたことを裏付ける内部メモを入手したとして米ワシントン・ポスト紙が報道した。
仏
『BFMTV』によると、ワシントン・ポスト紙が伝えた内部文書は、中国国内の特定の人口を追跡する上で、同社と中国政府とのつながりを明らかにしているという。ファーウェイは、「機密事項」とされた3千ページを超えるパワーポイントのプレゼンテーション資料の中で、政府が個人をよりよく追跡、特定することを目的とした最先端技術について紹介している。資料は、短期間ファーウェイのウェブサイト上で公開されたが、すぐに削除されたという。
この資料は、一般的な音声認識や顔認識の処理について紹介しているだけでなく、特定の反体制の政治家の監視、「思想的再教育」の管理、「労働キャンプの物流最適化」についても紹介している。こうした方法は、世界の多くの国が公認しているイスラム系少数民族ウイグル人に対する中国政府の弾圧行動を彷彿とさせる。また、この資料の中で強調されている技術の1つは、新疆ウイグル自治区を対象としたものとなっている。そこでウイグル人を組織的に識別するために使用される機器とプロセスが説明されている。
ワシントン・ポストが公開した資料によると、こうした監視技術は2017年から現地で活用されているという。この情報は、2020年に、ファーウェイが顔認識技術を通じて中国政府がウイグル族を特定することに協力しているとして非難されていたことと一致する。当時、ワシントン・ポスト紙に掲載された記事で、監視カメラがウイグル人を確認すると、すぐに中国の警察に通知がいく「ウイグル人アラート」が存在することが暴露された。この問題で、ファーウェイの幹部が一人辞任することになった。また、2017年は、中国が数十万人のウイグル人の収容所への抑留を開始した年とも重なる。
米国営放送『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』によると、VOAに提供された声明の中で、ファーウェイの広報担当者は、「ファーウェイはワシントン・ポストの報道で言及されたプロジェクトについて何も把握していない。ファーウェイは他の大手サービスプロバイダーと同様に、一般的な業界基準に準拠したクラウドプラットフォームサービスを提供している。特定のグループを対象としたシステムの開発、販売は行っておらず、パートナーには適用されるすべての法律、規制、ビジネス倫理の遵守を要求している。プライバシー保護は当社の最優先事項であり、当社の事業のすべてにおいて、事業を行う国や地域で適用されるすべての法律と規制を遵守することを求めている。」と反論している。
しかし、ワシントン・ポスト紙は、パワーポイントの資料にファーウェイのロゴが表示されており、いくつかのページには「Huawei Technologies Co. Ltd.」の著作権マークが表記されていると指摘している。
専門家たちは、ファーウェイと中国政府のつながりは、驚くべきことではないと述べている。戦略・国際問題研究所のジム・ルイス氏は、「ファーウェイは当初から中国治安当局と密接な関係にあった」と語っている。ルイス氏によると、ファーウェイに対する警告はジョージ・W・ブッシュ大統領時代からアメリカ政府関係者が指摘していたが、中国が世界の舞台でより積極的に自己主張するようになったここ数年までは、真剣に受け止められていなかったという。
ファーウェイの主張とは裏腹に、米国当局は、同社が中国の国家安全保障機関と密接な関係を持ち、同社の電気通信製品が中国の競合相手の情報収集や活動妨害に利用される可能性があると考えてきた。また、政府関係者は、国家安全保障に重要とみなされるデータの収集において、民間企業に政府機関への協力を義務付ける中国の法律を指摘してきた。
2019年から2020年にかけて、米国はファーウェイに対してさまざまな面で積極的に動き始めた。トランプ政権は、5Gの展開に必要なネットワーク機器を販売する同社の取り組みに対抗した。トランプ政権は、ファーウェイに自国の通信インフラの重要な部分を供給させている同盟国との情報共有を停止することなどを宣言し、ファーウェイはセキュリティリスクが高すぎると警告の声を上げてきた。その結果、多くの国が5Gシステムから同社の技術を禁止し、英国を含む他の国も、すでに設置されていたファーウェイの機器を撤去するという費用の掛かるプロセスを開始した。
閉じる