既報どおり、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題で、米中間のつばぜり合いがヒートアップしている。そして、中国に対峙するトランプ政権を後押しするかのように、米メディアが中国批判の報道を行っている。すなわち、ウィルス禍の中、中東、南米、アフリカ、アジアにおける内戦中の反政府勢力まで、人道主義的観点からCOVID-19対策を優先すべく、停戦に応諾しているにも拘らず、中国のみが、COVID-19収束見通しが立ったことを良いことに、東・南シナ海で近隣諸国に対する軍事・経済的圧力を増強している、と批判している。
5月5日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「中国、COVID-19初期対応の失敗から眼を逸らさせるべく、マスク外交という“見せかけの善意”に注力」
COVID-19流行抑え込みにほぼ成功したとしている中国は、財力に物を言わせて、COVID-19対策で困窮している欧州、中東、アフリカ、アジアの100余りの国に対して、数千万枚のマスク、数百万の検査キット、及び人工呼吸器(ニューヨーク向けの1千台含めて)を提供している。
これは正に、COVID-19発症地の中国が、初期対応に誤った過去について、国際社会の眼を逸らさせるべく、マスク外交とでも呼べる“チャーム・オフェンシブ(見せかけの善意、注後記)”以外の何物でもない。
経済的にも軍事力でも劣る多くの国にとって、COVID-19対策での中国支援に感謝しているとしても、大国となった中国のこれまでの外交姿勢(札束で頬を打つやり方)から判断して、中国から、どういった内容で借りを返すよう迫ってくるのか、心穏やかでないはずである。
他国がCOVID-19で忙殺されている隙に、中国が傍若無人に振舞っている行いには、次のようなものがある。
・南シナ海/スプラトリー(南沙)諸島のファイアリークロス礁及びスビ礁上に建設した人工島に、資源探査研究所を設置して、同海域の天然資源探査を独占する体制整備。
・2月中旬~3月中旬にかけて、同海域の海底から世界最大規模での天然ガス塊回収。
・ファイアリークロス礁に戦闘機を配備する等、軍事拠点化を推進。
・南シナ海/パラセル(西沙)諸島の中国実効支配の島嶼海域で操業していたベトナム漁船に中国海警艦が体当たりして沈没。
・台湾付近に、空母や戦艦を配備して実戦訓練を繰り返し、台湾独立派に対して、武力での圧迫を増大。
・東シナ海の尖閣諸島(日本領土とされているが中国も領有権主張)領海内に何度も中国公船が進入、特に今年1~3月の頻度は異常。
中国外交部(省に相当)の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官は、COVID-19感染問題を隠れ蓑にしての活動との非難を真っ向から否定し、“中国がCOVID-19感染問題で得た知見を、各国に積極的に提供している”と表明した。
しかし、2016年当時、劉振民(リウ・チェンミン)外交部次官が、マレーシアから“札束で頬を叩かれた”とのクレームに対して、“中国は、財力に物を言わせる外交は行っていない”と全面否定していたが、今もこの姿勢が変わっていないことが覗える。
一方、COVID-19感染問題に対応している諸外国をみてみると、中国の対応と全く逆で、次の例のように、内戦中の反政府勢力までが、人道主義の観点から一時的停戦に応じている。
<中東>
・イエメン;同国イスラム教シーア派の武装組織フーシと戦闘状態にあるスンナ派のサウジアラビアとアラブ首長国連合が、同国のCOVID-19感染拡大を慮って、一方的に停戦表明。
・リビア;新政府に対抗する、カダフィ前政権支持者グループを含めて複数の勢力が反駁し合っているが、目下、一時停戦に合意。
<南米>
・コロンビア;反政府武装組織“民族解放軍(ELN)”が、人道主義を最優先するとして一方的に停戦表明。
<アフリカ>
・カメルーン;南部カメルーン防衛組織の民兵が、一時的停戦を表明。
<アジア>
・フィリピン;ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、共産主義武装勢力との一時的停戦を発表。
・タイ;イスラム系武装組織“国民革命戦線(BRN)”が、組織立ち上げ後初めてとなる停戦を一方的に宣言。
(注)チャーム・オフェンシブ:直訳は“魅力攻勢”。国の場合は、政治や外交の場面で、目標を達成するために、意図的にお世辞や自身の魅力を利用すること。または、政治家が、支持者等相手の心をつかむために,意識的に親切に温かく接すること。
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4月10日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「新型コロナウィルス感染流行中でも止まらないもの、それは中国による南シナ海制海権拡充」
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、新型コロナウィルス感染問題を“人類の戦争”だと称して、率先して戦いを挑む姿勢を表しているが、それと同時進行で、中国の軍艦等を南シナ海に派遣して同海域の制海権拡充を着々と進めている。
具体例を挙げると以下のとおりである;
●先月下旬、中国人民解放軍(PLA)は南シナ海において、駆逐艦、潜水艦、戦闘機等を大動員して実弾訓練を実施。...
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4月10日付
『ロスアンゼルス・タイムズ』紙:「新型コロナウィルス感染流行中でも止まらないもの、それは中国による南シナ海制海権拡充」
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、新型コロナウィルス感染問題を“人類の戦争”だと称して、率先して戦いを挑む姿勢を表しているが、それと同時進行で、中国の軍艦等を南シナ海に派遣して同海域の制海権拡充を着々と進めている。
具体例を挙げると以下のとおりである;
●先月下旬、中国人民解放軍(PLA)は南シナ海において、駆逐艦、潜水艦、戦闘機等を大動員して実弾訓練を実施。中国側は、先月に米軍艦が3度も南シナ海の中国主権領海内に無断進入したことに対抗して、主権擁護のための訓練だと主張。
●同海域周辺国の天然資源探査活動や漁船操業を妨害すべく、数多くの中国海警艦や武装漁船を派遣。4月初めには、パラセル諸島(西沙諸島、中国実効支配)内で操業中のベトナム漁船が海警艦と衝突して沈没。
●マレーシア国営企業のペトロナスが、スプラトリー諸島(南沙諸島)内で天然ガス・石油掘削を行っている海域に中国軍艦が何か月も張り付き、無言の圧力。一方で、ウィルス禍に喘ぐ同国に、医療用N95マスク、防護服及び人工呼吸器200台を進呈し、同国を懐柔。
●3月20日、中国国営メディアが一斉に、イタリア・エチオピア・韓国等向けに医療品・検査キット・防護服を進呈したと挙って報道。しかし、同日に、南シナ海の人工島ファイアリークロス礁及びスビ礁(既に滑走路・ミサイル発射台・レーダー塔・兵舎設営済み)に、同海域の環境調査用民間研究所設営と報道。しかし、多分に同海域天然資源調査用であることは明らか。
以上の中国活動に関し、シンガポールの南洋理工大学(1981年設立の国立大学)海洋安全保障問題専門家のコリン・コー氏は、“新型コロナウィルス感染問題など無関係で、PLAにしても中国海警艦にしても、南シナ海における活動は通常どおり”だと分析している。
また、米民間シンクタンク戦略国際問題研究所アジア海洋問題透明性調査部門責任者のグレゴリー・ポーリング氏は、トランプ政権が目下、新型コロナウィルス感染問題で手一杯でアジアに注力できない状況下、“中国が米国に代わってウィルス禍対応救済の手を差し伸べていることから、アジアの米同盟国もその他の国々も、中国支援を断れない状況となっている”とコメントしている。
更に、別の保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート主任研究員のザック・クーパー氏は、“マレーシアの例のように、領有権問題でささやかな睨み合いをする一方、遥かに膨大な経済・外交支援を行うことで南シナ海周辺国を懐柔するという長期的戦略を講じている”とし、“米国からの強力な後ろ盾がなければ、かかる弱小国は中国とまともに対峙することは不可能だ”としている。
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