仏メディアがみるパリ協定批准の舞台裏:投資家の圧力
中国の杭州で開催中のG20サミット直前に米中がパリ協定批准を発表し、COP21開催国フランスでも「歴史的前進」と大きく報じられた。COP21で195か国が署名するという快挙とはいえ、全世界の総排出量の40%以上を占める両国の批准は疑問視されていたからだ。中国は7割を石炭に依存し、米国議会では温暖化抑制措置に反対する共和党がいる。しかし今回は中国のG20成功と国力アピールの思惑だけでなく、投資家の圧力が大きく働いた。
『AFP通信』によると、米中両国の批准発表までは、パリ協定を批准したのは昨年12月に署名した195か国のうち24か国で世界排出量の1.08%に過ぎなかった。パリ協定発効には最低55か国の批准が必要で、世界総排出量の42%を占める両国次第だった。
しかし「AFP通信」は「歴史的躍進」と評価するも、「米中が化石燃料からクリーンエネルギーへ経済転換」という国連の評価には疑問を呈し、国際NGO団体の見解を引用する。...
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『AFP通信』によると、米中両国の批准発表までは、パリ協定を批准したのは昨年12月に署名した195か国のうち24か国で世界排出量の1.08%に過ぎなかった。パリ協定発効には最低55か国の批准が必要で、世界総排出量の42%を占める両国次第だった。
しかし「AFP通信」は「歴史的躍進」と評価するも、「米中が化石燃料からクリーンエネルギーへ経済転換」という国連の評価には疑問を呈し、国際NGO団体の見解を引用する。「中国は太陽光発電投資の第一人者だが、2015年に少なくとも150の新たな石炭系発電所建設を認可しただけでなく、G20会場の青空を確保するために2週間前から杭州周辺の工場を一時閉鎖」した。この矛盾の背後に「化石燃料業界への莫大な補助金」がある。「パリ協定を進める前に化石燃料への支援の実態を明らかにし」、「G20首脳は化石燃料への補助金削減のタイムテーブルを確立」する事を求める。また「AFP通信」は米中批准の背後で、洪水や海水面上昇など気候変動による金融リスク抑制のために投資家の圧力があった事を報じる。
仏経済紙
『レゼコー紙』は投資家の動きを報じ「投資家がG20にパリ協定を始動させる」と見出しを付ける。以前から働きかけていた130の国際的な機関投資家は、先週水曜日にG20加盟国宛に共同署名で書簡を送り、取るべき措置を具体的に記した。中でも「パリ協定の批准を今年中に着手」する事を強く求め、「対応が早いほど気候変動リスクに直面する分野の投資の安全性が増す」、「パリ協定署名国での年金基金、政府系ファンド、保険など運用中の資産額合計は13兆ドル」と強調した。実際に「この一年間AXAなど一部大口投資家は石炭関連に一切投資を行わなかった」。一方で「再生可能エネルギー分野では需要が生まれたが、脱炭素経済への資本の動きを各国が十分奨励していない」と指摘する。民間を主力とするエネルギー転換を「レゼコー紙」は奨励する。
「レゼコー紙」によると、書簡が送られた時点で、G20加盟国で批准したのはフランスのみで、フランスもEUの批准準備が整うまでは国連事務局に批准文書を提出(これにより批准完了)しないと見られる。実際には批准後にも抜け道はあるが、投資家は批准すら開始されない現状に業を煮やしたようだ。
『ルモンド紙』も米中の批准を「パリ協定が現実となる大きな前進」と評価するも、懸念を示す。オバマ大統領はパリ協定に大統領権限で参加しており、温暖化抑制措置に反対する共和党が牛耳る米国議会を覆す必要がある。また中国の他に急成長中のインドは石炭に大きく依存する。しかし最大の問題は前述の化石燃料業界への莫大な補助金の「透明性」と指摘する。IMFは化石燃料採掘企業が年間4兆ユーロ以上を受け取ると試算する。内訳は40%が中国、13%が米国で6%がEU向け。常に気候変動の議論で足かせになってきたようだ。
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仏メディア:仏企業の潜水艦情報大量流出
フランスの海軍系製造会社の半国営DCNS社が製造する潜水艦の機密情報が大量流出した。スクープしたのは豪州の
『オーストラリアン紙』だが、漏えいされたのは、インド海軍に販売されたスコルペヌ級潜水艦の戦闘能力の詳細を記載した22000ページ以上の文書である。フランスが最も懸念するのは、DCNS社が落札した豪州の次世代の潜水艦の大規模契約への影響である。仏国内でも波紋を呼んでいる。
『ルモンド紙』、
『フィガロ紙』、
『レゼコー紙』、
『AFP通信』などフランス各メディアは、漏えいの事実自体は重く受け止めるが、流出したデータは致命的な内容でないと報じる。「取り扱いには細心の注意が必要だが極秘レベルではない」(ルモンド紙)「フランス防衛省が定める5段階の機密レベルの第1段階にも当たらない」(フィガロ紙)「豪州メディアのサイトに掲載された文書は技術マニュアルの抜粋など商業目的の文書」で「フランスが公式に分類する防衛文書ではなく極秘の性質は持たない」(レゼコー紙)「部外秘に相当する“閲覧制限”が文書に記載されているだけ」(AFP通信)。...
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『ルモンド紙』、
『フィガロ紙』、
『レゼコー紙』、
『AFP通信』などフランス各メディアは、漏えいの事実自体は重く受け止めるが、流出したデータは致命的な内容でないと報じる。「取り扱いには細心の注意が必要だが極秘レベルではない」(ルモンド紙)「フランス防衛省が定める5段階の機密レベルの第1段階にも当たらない」(フィガロ紙)「豪州メディアのサイトに掲載された文書は技術マニュアルの抜粋など商業目的の文書」で「フランスが公式に分類する防衛文書ではなく極秘の性質は持たない」(レゼコー紙)「部外秘に相当する“閲覧制限”が文書に記載されているだけ」(AFP通信)。
しかし
『フィガロ紙』は「顧客の懸念を呼ぶこの流出はDCNS社には手痛い打撃」で特に4か月前に豪州から落札したバラクーダ級潜水艦のメガ級契約への影響を懸念する。流出経路は「スコルペヌ級潜水艦の販売先であるインド」の可能性を指摘し「軍需産業の競争激化によりあらゆる慣行が横行する」と報じる。インド当局も調査を開始した。
流出経路はまだ完全に特定されていないが、
『ルモンド紙』はインドの対応に焦点をあてる。
豪州メディアの報道の数時間後には既にインド政府はデータ流出の捜査を命じ、漏えい範囲と内容の把握を急ぐ。これを「インドは危険信号を察知した」と評する。インドの防衛大臣は「ハッキングにより漏えいされた」と示唆。「ルモンド紙」によると、インドはパキスタンに対抗しインド洋での中国の勢力拡大に備えるために30億ドルで6隻の潜水艦を発注した。今は1隻目がテスト段階だ。情報流出はインドとするDCNSに対し、インド防衛省は「インド国外で漏えいされ、2011年に元フランス海軍将校によって仏国外でデータが持ち出された」可能性を指摘した。
気になるのは豪州をはじめ他の顧客の反応だが、ターンブル豪首相はこの漏えいを深刻に受け止めない姿勢を示し、「4月に締結したバラクーダ級潜水艦計画には影響はないと表明」(ルモンド紙)、「インドも残りの5隻は建造継続と発表」(レゼコー紙)した。
一方20年間で345億ユーロという大型契約は「世紀の取引」と言われる快挙だが、実はまだ契約手続が完了していない。年末か2017年初めに完了する。
『レゼコー紙』は漏えい事件の被害程度を詳細に検証し、「影響は非常に限定的」との見通しを示した。機密レベルは低くとも火消の意向が働いた可能性もある。フランス海軍将校の関与の可能性も浮上しており、事実なら「DCNSを超えてフランスの評判が損なわれるため深刻」と懸念する。
『AFP通信』は仏国家安全保障当局がこれまでの調査結果を一切明かさないと報じる。漏えい経路の特定が待たれる。
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