仏メディアがみるノーベル医学生理学賞(2015/10/07)
月曜日の医学生理学賞に始まり金曜日の平和賞に続くノーベル賞ウィークがやってきた。日本の大村教授も共同受賞者の一人である2015年ノーベル医学生理学賞を「政治的影響のある受賞」(
『ルモンド紙』)として、フランスメディアは注目する。
ルモンド紙は「2015年のノーベル医学生理学賞は科学だけでなく政治的」意味あいがあるとして注目し、「選考機関であるスウェーデンのカロリンスカ研究所は、ノーベル賞授与によって、長年顧みられなかった熱帯の寄生虫疾患にスポットライトを当てた」と、その意義を語る。
『レゼコー紙』、
『リベラシオン紙』によると、3人の共同受賞者のうち、中国のト・ユーユー氏はマラリアに対する新たな治療法の発見によって受賞した。...
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ルモンド紙は「2015年のノーベル医学生理学賞は科学だけでなく政治的」意味あいがあるとして注目し、「選考機関であるスウェーデンのカロリンスカ研究所は、ノーベル賞授与によって、長年顧みられなかった熱帯の寄生虫疾患にスポットライトを当てた」と、その意義を語る。
『レゼコー紙』、
『リベラシオン紙』によると、3人の共同受賞者のうち、中国のト・ユーユー氏はマラリアに対する新たな治療法の発見によって受賞した。ト・ユーユー氏は伝統的な中国漢方と欧米の医学との狭間で成功した点で特異で、「ブレンドの象徴」と形容される。ヨモギ科のクソニンジンからの抽出物で、マラリアの治療の発見者として受賞した。またキャンベル氏と大村氏が発見した新薬アベルメクチンによって、河川盲目症とフィラリア症の発症が減少した事で受賞した。
大村氏が土壌から抽出したアベルメクチンの誘導体であるイヴェルメクチンは世界保健機関(以下WHO)の必須医薬品リストに載っている。ルモンド紙は新薬発見だけでなく、共同開発した米メルク社が失明を引き起こす河川盲目症撲滅のために無料で薬を提供した事にも触れる。WHOは「前例のない寄付」とたたえ、「治療の大規模キャンペーンのお蔭で寄生虫疾患の大部分を制御できた」と功績を評価する。重要な選考基準である「人類への貢献」度はこの点でも大きいようだ。特に国境なき医師団(MSF)の執行ディレクターは「最も顧みられることのない途上国の農村部で何百万という命を救った」点で「この10年で様々な実績を塗り替えた」点で「大きな価値を持つ」と評価する。
ルモンド紙は「今回の受賞は南国を打ちのめす感染症の惨状への取組みを刺激するに違いない」と期待を寄せ「ノーベル賞を審査するカロリンスカ研究所はアフリカなど南国がおかれる状況について強力なメッセージを送った」とパリのビジャ病院の熱帯感染症の教授達の見解を共有する。「現在の研究開発は、高収益市場における高価格のシステムに基づいているため、病気治療の供給になっていない」と指摘し、「2008年にノーベル賞を受賞したHIV感染の医薬と違い、寄生虫による疾患研究は資金不足」である現実に触れる。「今回の受賞を、発展途上国で無視されてきた患者のニーズに応じる研究開発を優先するための措置と持続可能な資金提供の形を喚起するもの」として受け止めるべきと提言する。現在でもマラリア感染者の50万人以上が死に至り、2013年の感染者数は2億人と見積もられ、アフリカの主な死亡原因のままで子供の死亡原因の9割を占める。
ルモンド紙がこの受賞を「非常に政治的影響がある医学賞」と形容する通り、社会を動かす力を持つ発見と受賞は「人類への貢献」が重視されるノーベル賞の真髄といえるのではないだろうか。
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豪州ターンブル新首相の人物像(2015/09/18)
オーストラリア(以下豪州)保守派与党の自由党党首選挙で、アボット前首相を破りマルコム・ターンブル氏が新首相に選出された。 党内でも最も保守的で親米派のアボット氏は安倍首相とも良好な関係だったが、中国重視のリベラル派ターンブル氏就任で、日本にも経済だけでなく安全保障面に影響が出る可能性がある。首相交代を報じる仏メディアは、ターンブル氏の人物像と今後の豪州を読み解く。
『リベラシオン紙』は「ターンブル氏の人物像」と題し、シドニー大学卒でパリ政治学院のカムルー教授の見解を報じる。カムルー教授によると「ターンブル氏は中産階級の夢を体現する立身出世の人物」で「アボット氏がスローガンで猛進する闘犬タイプなのに対し、ビジョンを持つ億万長者」。敏腕実業家で弁護士のターンブル氏は自由党議員や実業界で支持を得ている。カムルー教授は「なにより豪州メディア界の7割を牛耳る新聞王マードック氏の支持を得た」と断言しており、勝因の一つと見られる。...
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『リベラシオン紙』は「ターンブル氏の人物像」と題し、シドニー大学卒でパリ政治学院のカムルー教授の見解を報じる。カムルー教授によると「ターンブル氏は中産階級の夢を体現する立身出世の人物」で「アボット氏がスローガンで猛進する闘犬タイプなのに対し、ビジョンを持つ億万長者」。敏腕実業家で弁護士のターンブル氏は自由党議員や実業界で支持を得ている。カムルー教授は「なにより豪州メディア界の7割を牛耳る新聞王マードック氏の支持を得た」と断言しており、勝因の一つと見られる。
リベラシオン紙は、ターンブル氏が元々予定されていた党内選挙一週間前にクーデターを起した事に触れ、常に時機を見計らい好機をつかむ「日和見主義」の一面を指摘する。「この選挙が予定通り実施されていればアボット氏が勝った」と見る。
『ルモンド紙』はじめフランスメディアは、首相交代を招いた豪州経済低迷は、「鉱山景気の終焉」に加え「中国の景気減速に巻き込まれて犠牲になり成長率が急落した(0.2%)」という不運もあったと認めており、誰が首相でも回復は難しかったと思われるが、ターンブル氏はアボット氏の支持率低下を逃さず「このままでは2017年の選挙で労働党に敗れる」として動議を発動した。
リベラシオン紙はターンブル氏を「真のリベラル派」と形容し、今後豪州はリベラル派の方向へ行くとの見方を示す。同性婚支持、炭素税導入、再生可能エネルギー導入を謳い、政策ではアボット首相と対極にある。特にアボット氏は強固な君主制主義者で知られるが、大臣へ相談なく独断でエジンバラ公(エリザベス女王の夫)への勲章授与を昨年決定した事で国民や党内の反感をかった。1999年に共和制移行の是非を問う国民投票を実施したターンブル氏は「コンセンサスを重視する」点で、自由党議員の支持を得たとルモンド紙は報じる。
またリベラシオン紙によると、豪州は現在1人当たりの温室効果ガス排出量が最大国の一つで、石炭産業の熱心な擁護者のアボット氏は「気候変動は絶対でたらめ」、「石炭は人類にとって良いもの」と繰り返した事で国際的な非難を受けていた。カムルー教授は「威勢がいいが失言の多いサルコジタイプ」とアボット元首相をなぞらえる。
しかしルモンド紙はじめ仏メディアは「豪州政界ではクーデターは恒例で、この8年でターンブル氏を含め首相は5人」である事に触れる。
『レゼコー紙』は「自由党が政権に就く前の6年間、与党だった労働党は首相交代を伴う身内同士の紛争で分裂した」と、首相交代劇が党の弱体化を招いたとし「原料安に苦しんだ鉱業分野にかわる経済成長の推進力を見つける」事ができなければ、新たな首相交代劇が起こると示唆する。
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