6月26日付米
『ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)』紙、英国
『BBCニュース』は、昨年3月に“スパイ容疑”で逮捕された米国人ジャーナリストが密室裁判にかけられようとしていると報じた。
『WSJ』ロシア特派員のエバン・ゲルシュコビッチ記者(32歳、『ニューヨーク・タイムズ』、『モスクワ・タイムズ』、『AFP通信』を経て2022年『WSJ』入社)は昨年3月29日、取材旅行先のエカテリンブルグ(モスクワの約1,770キロメートル東方)でロシア連邦保安庁(FSB、1995年設立、旧ソ連国家保安委員会(KGB)後継組織)によって逮捕された。
FSSは、米中央情報局(CIA、1947年設立)の命を受けて、エカテリンブルグ在のロシア戦車工場にかかわる機密情報を収集した“スパイ容疑”だとし、証拠等も揃っていると発表している。
ただ、15ヵ月余りも拘束した上で、6月26日にエカテリンブルグで開廷される裁判は非公開とされている。
『WSJ』欧州・中東・アフリカ担当部門のデボラ・ボール副責任者(ロンドン駐在)は、“これはインチキで突拍子もない手続きだ”と非難した上で、“ロシアにおける無罪率は1%未満であり、彼が無罪となる可能性は全くない”と悲観している。
同記者の逮捕当時、米政府及び『WSJ』は挙ってロシア当局の不当逮捕を厳しく非難し、同告発は全く受けいれられないと強く主張していた。
なお、同記者は最長20年の懲役刑が科せられる恐れがある。
一方、今回の同記者の密室裁判含めて、ロシア当局は対米強硬措置の一環で、後述どおり多くの米国人を逮捕し、また長期の懲役刑を宣告していることから、『WSJ』は、“ロシア政府は、海外で投獄されているロシア人を解放させるべく、そのための交換要員として米国人をロシア刑務所に投獄している”と強硬に非難している。
● ポール・ウィーラン(54歳、元海兵隊員)
・2018年12月、旅行先のモスクワに滞在中、FSBによってスパイ容疑で逮捕。
・本人も米政府も不当逮捕と主張するも、2020年6月に懲役16年の有罪判決が下され服役中。
● アルス・クルマシェワ(ロシア系米国人、米議会出資の『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』所属ジャーナリスト)
・2023年10月、ロシア在住の母親の病気見舞いでカザン(モスクワの約900キロメートル東方)を訪問中にFSBによって逮捕。
・逮捕容疑は、外国エージェント(注後記)であることの申告義務違反だが、起訴状では、ロシア軍のウクライナ軍事侵攻を非難する内容を含んだ本を発行することによって“虚偽情報”を流布したとする容疑。
・裁判はこれからだが、最悪15年の懲役刑の恐れ。
● マーク・フォーゲル(63歳、アングロ-アメリカン・モスクワ校(1949~2023年)の元教師
・2021年8月にロシア再入国時、マリワナ所持で逮捕。
・医療用マリワナであると主張するも認められなかった上、2022年6月には、麻薬密売罪で14年の懲役刑が科され服役中。
● ゴードン・ブラック(34歳、在韓米軍所属の軍曹)
・今年5月、韓国からの帰国途上で立ち寄ったロシア極東ウラジオストックで逮捕。
・容疑は、韓国滞在中に知り合ったガールフレンドの私物窃盗及び脅迫。6月に3年9ヵ月の懲役刑宣告。
なお、ロシア側がこれらの逮捕・拘留米国人と交換したいと考えている人物の一人は、目下ドイツにおいて殺人罪で服役中のロシア人工作員ワディム・クラシコフ被告(58歳、2019年にドイツ避難中の反チェチェン活動家幹部を暗殺)と考えられる。
ただ、今年2月にウラジーミル・プーチン大統領(71歳、2000年就任)は捕虜交換の対象としてクラシコフのことを仄めかしていたが、今回のゲルシュコビッチ記者の裁判に関わる質問では、何ら言及していない。
(注)外国エージェント:一般的に外交使節の一員である外交官(公務員)として働く人に提供される保護・特権の範囲外で、外国の利益を積極的に遂行する個人または機関を指す。2017年制定のロシア「外国エージェント法」に基づき、当局への申告義務が課されている。
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リトアニアが欧州連合(EU)のロシアへの制裁措置を適用し、自国領土を横断するロシアの列車が飛び地カリーニングラード州まで鉄や鋼鉄を輸送していないことを確認する措置を取り始めた。ロシア政府は報復を約束している。
仏
『レゼコー』紙は、「ロシアとEUの対立がますます悪化している」と報じている。ロシア政府は、リトアニアがロシアからカリーニングラード州への特定の物資の自国領土通過を阻止する決定を下した。ロシア艦隊を抱えるこのロシアの飛び地は、2月24日のウクライナに対する攻撃開始以来、キーウを断固として支持してきたNATOとEUのメンバーでもあるリトアニアとポーランドに囲まれている。
リトアニア政府は、EUが決定した制裁措置に従い、ウクライナ侵攻の報復として、鉄鋼や鉱物を中心とする特定のロシア製品の輸入を全面的に禁止するこの措置を適用した。しかし、同政府が対象とする製品は、ロシアの領土から別の領土への通過に過ぎないため、ロシアの輸出ではない。ロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は、カリーニングラードを訪問した際、「そのような敵対行為に対して、適切な措置が検討されている」と述べた。「リトアニアの人々にとって深刻な悪影響を及ぼすだろう」と続け、欧州の制裁の拡大を非難した。ロシア政府は、旧ソ連のバルト三国がEUに加盟した2002年に締結された通過協定により、ロシア本土と飛び地間の物資の移動が制限されることは違法であると考えている。
これに対し、EUの外交責任者であるジョセップ・ボレルは、リトアニアはEUの決定を実行しただけであり、「ロシアとカリーニングラード間の陸路輸送は停止も禁止もされていない。乗客や物資の輸送は継続しており、封鎖はしていない」と回答した。さらに、たとえ航路が長く、コストが上がるとしても、当該物品を海上で飛び地まで輸送し続けることができると指摘した。
ウクライナ侵攻以来、モスクワと他の旧ソビエト連邦14カ国の大半との緊張関係が高まっている。ロシア国会では最近、1990年のリトアニアの独立承認を覆すことが提案されていた。こうした中、米ニュースサイト『ブライトバート』によると、リトアニアはロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、ロシアに対する制裁を最も強く推進している国の一つだという。
4月、リトアニアはロシア産ガスの輸入をすべて遮断した。同国のエネルギー省は、「ヨーロッパに対するロシアのエネルギー脅迫とウクライナでの戦争を受けて、ロシア産ガスからの完全な自立を求めて、ロシア産ガスを完全に放棄した」と発表した。同月末、リトアニア議会は、ロシアの侵略との関連性から、「Z」と「V」の文字の象徴的な使用を禁止し、それらを表示する者に罰金を科し、そのシンボルは「軍事侵略、人道に対する罪、戦争犯罪」を促進すると見なした。
リトアニアの外相は、ロシアの政権交代を求め、「我々の立場から言えば、現政権が力を失わない限り、その周辺諸国はある程度、危険にさらされることになる。プーチンだけでなく、政権全体が対象だ。プーチンを変え、側近を変えても、別のプーチンがその座に就くかもしれないのだから。」と述べている。
なお、米報道機関『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』は、ロシアの南に位置するカザフスタンもロシアと距離を置き始めていることを伝えている。同国のトカエフ大統領は、先週開催されたサンペテスルスブルグ経済フォーラムで、ロシア大統領と一緒に参加したパネルで、ロシアが承認したウクライナ東部のルガンスクとドネツクの2つの州を国家とは考えていない、と述べた。
『ラジオ・フリー・ヨーロッパ』は、プーチンの隣に座ってのこの大胆な発言は、カザフスタンなどの旧ソビエト連邦国が、ロシアとのウクライナ侵攻と距離を置こうとし、ロシアとの摩擦が強まる中で外交の綱渡りをしようとしていることを浮き彫りにしていると指摘している。
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