日本は、主要7ヵ国(G-7)で唯一、石炭火力発電所の輸出に公的支援を続けており、国際社会から非難を浴びている。しかし、それを大きく上回る勢いで世界エネルギー業界を席捲しているのが中国である。国内では、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行による経済大失速挽回のため、パリ協定(注1後記)の目標を横に置いて石炭火力発電所の稼働率を上げているだけでなく、海外においては、“一帯一路(BRI)”経済圏構想下の途上国に新規石炭火力発電所の輸出・建設に拍車をかけている。
7月3日付
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース(
『ラジオ・フリー・アジア』(米議会出資の短波放送局)配信):「中国の石炭火力発電所建設計画に法的制限を、との声」
中国の、海外における石炭火力発電所建設計画の勢いが止まらない。
非営利団体『中外対話』(チャイナダイアローグ、2006年設立の環境問題に特化したウェブサイト、拠点は北京・ロンドン)に掲載された環境活動家の主張によると、中国が2007年以来草稿しているエネルギー法案には、海外で展開されるBRIインフラ計画における環境規制に関わる条項が含まれていないという。
従って、いくら国内でエネルギー産業に環境規制を課しても、中国政府のBRI開発構想で支援される1兆ドル(7兆700億人民元、約107兆円)の資金に基づき途上国で建設される石炭火力発電所で、“炭素リーケージ(注2後記)”が発生することになってしまう、と環境活動家は非難している。
オランダ非営利団体再生エネルギーの王娃娃(ワン・ワワ)上級顧問及び張晶晶(チャン・ジンジン)環境派弁護士は『中外対話』掲載記事の中で、“中国が制定を検討しているエネルギー法案には輸出問題が欠落していて、化石燃料の発生や抑制技術に関わる審査条項が全く入っていない”と批評している。
更に中国国内においても、COVID-19感染問題で大失速した経済活動を活発化させるため、CO2排出量削減の話は横に置いて、新規石炭火力発電所建設計画を促進している。
そこで、国際エネルギー機関(IEA)は先月、中国が計画している新設石炭火力発電所発電能力が合計180ギガワット(1億8千万キロワット、約4,500万世帯分の電力相当)と、世界全体で計画されている石炭火力発電所の3分の1にも及ぶことから、“中国国内の環境問題のみならず、地球温暖化対策も念頭に置いて、慎重な対応が求められる”との声明を発表している。
グローバル・エネルギーモニター(2008年設立のカリフォルニア州NGO)及びエネルギー・クリーンエア研究センター(化石燃料特化の独立研究所)は先週リリースした調査報告の中で、中国は、世界の石炭火力発電所縮小傾向に逆行している、と批評した。
そして同報告の中で、“世界で依然多くの石炭火力発電所建設計画が進められているが、ほとんどが中国資金で賄われている”と非難している。
フランス『ル・モンド』紙報道によると、中国はBRI傘下の国のひとつである西アフリカのコートジボワールに700メガワット(70万キロワット、約18万世帯相当)の石炭火力発電所を新設しようとしている。
また、『ブルームバーグ』が4月に報道したところによると、中国国営葛洲場集団公司(ゲチューバ、2006年設立のゼネコン)がアフリカ南部のジンバブエに、30億ドル(212億人民元、約3,210億円)の資金を援助して2,800メガワット(280万キロワット、約70万世帯相当)の石炭火力発電所建設を推進しているという。
更に、環境活動家は、欧州においても、ボスニア・ヘルツェゴヴィナやセルビア等で、中国からの資金援助によって、合計4.1ギガワット(410万キロワット、約103万世帯相当)の新規石炭火力発電所の建設が進められようとしていると批判している。
『ニューヨーク・タイムズ』紙が1月報じたところによれば、国際金融協会(IIF、注3後記)の報告では、“中国のBRI政策に関わる資金の実に85%が、石炭火力発電所等温室効果ガス排出に直結するインフラ建設に投じられている”という。
そして、中国国営企業は、中国国内と違って規制が及ばない、海外での石炭火力発電所等の建設に注力しているとする。
そこで環境活動家は、“中国が海外プロジェクトに関しては、環境アセスメント等の報告を義務付けていないため、中国国営企業が環境問題に直結する石炭火力発電所建設も好き勝手に進めている”と非難している。
一方、中国商務部(省に相当)は5月、今年4ヵ月間のBRI傘下の国々(BRI公式サイトによると143ヵ国)との貿易高は2兆7,600億人民元(3,899億ドル、約41兆7,190億円)と+0.9%となり、COVID-19問題による中国の世界貿易▼4.9%減少を十分にカバーしていると発表した。
なお、中国国営『新華社通信』報道によると、今や中国のBRI傘下の国々との貿易高は中国全体の30.4%にも上っているという。
(注1)パリ協定:2015年末、パリで開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で合意された、2020年以降の地球温暖化対策を定める気候変動に関する国際的枠組み。1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりとなる国際的枠組みで、同条約に加盟する全196カ国全てが参加する枠組みとしては史上初。排出量削減目標の策定義務化や進捗の調査など一部は法的拘束力があるものの、罰則規定はない。2016年4月22日のアースデーに署名が始まり、同年9月3日に温室効果ガス2大排出国である中国と米国(オバマ政権下)が同時批准し、同年10月5日の欧州連合(EU)の批准によって11月4日に発効。但し、正式な離脱通告がかのうになった2019年11月4日に、トランプ大統領が離脱を宣言している。
(注2)炭素リーケージ:温室効果ガスの排出規制の程度が国により異なる場合、規制が厳しい国の産業と規制が緩やかな国の産業との間で国際競争力に差が生じ、その結果として、規制が厳しい国の生産・投資が縮小して排出量が減る一方、規制が緩やかな国での生産・投資が拡大して排出量が増加すること。
(注3)IIF:世界の大手民間金融機関が参加する国際的な組織。1983年設立。本部はワシントン。国際金融システムの安定を維持するため、金融リスク管理の支援、規制・基準の策定などを行う。78の国・地域から商業銀行・投資銀行・証券会社・保険会社・投資顧問会社など約430社が参加。
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6月26日付米
『ユーラシア・レビュー』オンラインニュース(
『ラジオ・フリー・アジア』配信):「日本に続きASEANも、領有権問題で中国に対峙」
ASEAN首脳会議が6月26日、今年の議長国のベトナム主導でオンラインを通じて開催される。
主要議題は、現下の新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題に対する協力関係の強化であるが、それと同じくらいの重要事項として、南シナ海における対中国領有権問題が挙げられる。
ベトナムメディア『トゥオイチェー』紙(1975年創刊、ホーチミン共産青年団発行の機関紙)によると、ファム・ビン・ミン副首相兼外相(61歳)が6月25日、ASEAN外相とのオンライン会議を通じて、“ASEAN加盟国は、南シナ海において平和、安定、安全保障かつ航行・飛行の自由が保障されるようにすることを最優先事項として対応していく”ことで同意したことを明らかにしているという。
アジア諸国がCOVID-19感染対策に取り組んでいる最中、その隙を狙って中国は、領有権争いのある海域での海底資源探査、一方的な行政区設置、更には他国船の進入を勝手に取り締まる等、制海権の既成事実化を促進している。
そこで同副首相兼外相は、“国際法に則って、有効なCOCの策定が必須”だと強調している。
インドネシアのルトノ・マルスディ外相(57歳)も6月25日の共同記者会見で、“COCは南シナ海における環境整備に非常に役立つことになる”と表明している。
元々ASEANと中国は2002年、南シナ海における行動原則を発表し、それに基づき強制力のあるCOC策定のための交渉に入るとしていたが、中々進展をみなかった。
そして2017年に漸く、2021年を期限として本格交渉が始められ、COC原案も作成・公開されたが、その後も余り進展がみられなかった。
更に2020年になっても、例えば4月に予定されていたASEANサミットがCOVID-19感染問題で延期されたりしていた。
一方、既報どおり日本も、中国側の東シナ海における一方的行動に対峙する姿勢をみせている。
河野太郎防衛相は6月25日、日本外国特派員協会での記者会見で、“中国の東シナ海における一方的な現状変更措置、また、インド国境や香港行政に関わる活動に大いなる懸念を抱いている”と表明した。
更に同相は、“日本周辺で起こっている事態、例えばほとんど毎日のように中国機の侵入に対してスクランブル発進していること等について、国際社会に訴えていく必要があると考えている”とも付言している。
ただ、これに対して中国外交部(省に相当)の趙立堅(チョウ・リーチアン)報道官は、“日本の一部の人が、「外国からの脅威」と一方的に煽って、軍事力増強に走ろうとしている”と非難した。
そして更に、“日本は歴史から学び、地域の平和維持・発展のために真摯に貢献すべき”だと強調している。
同日付マレーシア『マレー・メール』紙(1896年創刊):「ムヒディン首相、南シナ海は“平和で自由貿易の保障された海”とすると表明」
ムヒディン・ヤシン首相(73歳、2020年3月就任)は6月25日、翌日開催予定の第36回ASEANサミットに臨むに当たって、“南シナ海を、平和で自由貿易が保障された海とすることがマレーシアの明確な立場”だと強調した。
そして同首相は、“従って、1982年海洋法に関する国連条約(UNCLOS、注後記)を含めた国際法に則って、懸案事項を平和的に解決していくことが重要”だとも付言している。
(注)UNCLOS:海洋法に関する包括的・一般的な秩序の確立を目指して1982年4月30日に第3次国連海洋法会議にて採択され、同年12月10日に署名開放、1994年11月16日に発効した条約。通称・略称は、国連海洋法条約。国際海洋法において、最も普遍的・包括的な条約であり、基本条約であるため、別名「海の憲法」とも呼ばれる。168の国・地域と欧州連合が批准。
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