米国は昨年12月末、イラクに展開していたイスラム過激派組織(イスラム国)の掃討作戦が終了したとして、イラクでの戦闘任務を完了させた。ただ米国は、2003年のイラク戦争突入以来イラクに深く関わってきたこともあって、平和国家となったと心から感じられないイラク市民にとって、米国のことを良く思わない人も多い。そうした中、アフガニスタン同様、米軍撤退後のイラクにおいて、中国がソフト・パワー(注後記)を用いて影響力を高めようとしている。
1月31日付
『ボイス・オブ・アメリカ』:「イラク北部で中国語習得コースを立ち上げ、中国のソフト・パワー強化」
イラク北部のクルド人自治区の中心都市アルビールにおいて、中国語習得コースが立ち上げられている。
同市内のサラハディン大(1968年設立の公立大学)に設けられたもので、胡志偉先生(フー・チーウェイ、52歳)が14人のクルド人学生に熱心に教えている。
同コースは同大で試験的に始められたもので、もし当該学生が無事に修了すれば、同大で正式に中国語学部が開設されることになる。...
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1月31日付
『ボイス・オブ・アメリカ』:「イラク北部で中国語習得コースを立ち上げ、中国のソフト・パワー強化」
イラク北部のクルド人自治区の中心都市アルビールにおいて、中国語習得コースが立ち上げられている。
同市内のサラハディン大(1968年設立の公立大学)に設けられたもので、胡志偉先生(フー・チーウェイ、52歳)が14人のクルド人学生に熱心に教えている。
同コースは同大で試験的に始められたもので、もし当該学生が無事に修了すれば、同大で正式に中国語学部が開設されることになる。
そして、同地域に展開する多くの中国企業にとって、同コース修了の学生を雇用しやすくなる。
中国は、エネルギー事業を中心に同地域での影響力を拡大している。
更に近年では、同地域が心底必要な学校から、発電所、工場、水処理施設まで広範囲にわたって建設している。
すなわち、米国含めた多くの西側諸国が撤退し始めている最中、代わって中国が大きく進出してきている。
イラクの高官も、米国の幅広い範囲での存在を望んでいるものの、現実問題では、民主主義や構造改革等のうるさい条件を抜きにして中国が開発援助を申し出ていることを歓迎している。
中東政治等の研究者サールダル・アジズ氏は、「中国・イラク関係」と題したクルド語の著書の中で、中国語習得コース開設は、現地の人々にとって中国がより親しみやすくなり、“中国人や文化・製品”にも魅力を感じやすくなるというソフト・パワーの成果を生み出すことになろう、と述べている。
中国企業はこれまで、イラクの基幹産業である原油事業に軸足を置き、同国産原油輸出量の40%をも中国に供給する程優位を占めてきた。
しかし、直近では石油化学に留まらず、金融、輸送、建設、更には通信分野まで投資を増やしてきている。
特に、習近平国家主席(シー・チンピン、68歳)が2013年に提唱した「一帯一路経済圏構想(BRI)」に基づき、東アジアから中東を経由して欧州まで展開する大型プロジェクト開発計画を立ち上げたことから、イラクにおける中国プロジェクト推進機運が増強されている。
そうした中、イラク在中国総領事館が2017年、イラク政府に対して中国語習得コース開設を進言し、第一候補の首都バクダッドは治安の関係で見送られたものの、比較的安全なイラク北部のアルビールに設営することが決定された。
ただ、サラハディン大クルド語学部アティフ・アブドラー・ファルハディ学部長(48歳)は当初、同大学生に興味を持たれるか、有能な中国語教師が見つかるのか等不安を覚えたという。
そこで同学部長は中国総領事館に対して、中国側持ちで中国語教師派遣、教科書やオーディオ設備等の提供、並びに中国への留学機会を設ける条件を提案した。
その結果、中国側がこれら条件を全て受け入れたことから、2019年に同コースが立ち上げられ、同コース修学生が来年卒業することを受けて、以降中国語学部が正式に設置されることになっている。
一方、同学部長によると、米国や英国総領事館にも英語習得コース立ち上げを打診したが、無しの礫だったという。
(注)ソフト・パワー:国家が軍事力や経済力などの対外的な強制力によらず、その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力のこと。
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1月26日、キューバの人権団体は、キューバ政府が海外に派遣された医師、芸術家、スポーツ選手、教師、船舶職員などを「奴隷」として扱っているとして告発した。キューバは現在、与党共産党による独裁体制が敷かれている。
仏紙
『ル・モンド』によると、2019年5月にハーグの国際刑事裁判所(ICC)とジュネーブの国連に、110人の医師に関するキューバ当局による「奴隷制度」を訴える文書が提出された。文書は、医療従事者たちが、キューバの外交とその経済にとって不可欠な収入源となっている「海外派遣団」に、ボランティアとして自主的に参加しているわけではない現状を指摘していた。派遣された人の給料の90パーセントは共産党政府に支払われ、許可なく結婚することが禁じられ、「脱走」すると8年間入国禁止となるなど、多くの制約があった。その後、2020年までに、600以上の新しい証言が追加された。
そして今回、1月27日に、マドリードの囚人擁護団体、「ラテンアメリカの開放と発展のためのセンター」、そしてキューバ反体制組織の「キューバ愛国同盟」が、国際刑事裁判所(ICC)と国連に、1100以上の証言に基づく新たな告発文書を提出した。文書は、これまで約4万人の専門職に就くキューバ人がキューバから逃げ出し、入国禁止になっていると報告している。そして、現在5千人から1万人の「脱走者」たちが我が子に会うことができないでいるという。今回の文書は、クルーズ船で雇用され、奴隷同様の労働条件に置かれている乗組員(キッチンアシスタント、客室係、受付係、技術者等)らの証言を集めている。
匿名を条件に『ル・モンド』紙の取材に応じたキューバ人によると、イタリア系のジュネーブに本社を置くヨーロッパ最大のクルーズ会社「MSC」子会社、「MSC Crociere」の船で働いていたという。2019年に9カ月間過ごしたクルーズ船には100人ほどのキューバ人が働いていたと推定している。
MSCがキューバ人を雇用するには、船員の募集と訓練を担当する国家機関、Selecmarを通さなければならないという。Selecmarは、国際労働機関(ILO)が定めた協定を尊重していると反論しているが、文書に掲載された雇用契約書によると、キューバ人従業員の基本給の80%がSelecmarに支払われているという。訴状に添付された2つの契約書によると328ユーロから408ユーロ(約4万2千円から約5万3千円)になる。
米『ボイス・オブ・アメリカ』は、海外での仕事が、キューバ政府にとって有利な収入源となっていると伝えている。共産党政府には海外から毎年85億ドル(約9774億円)がもたらされる。これに対し、観光は年間29億ドル(約3335億円)の収入にとどまる。
文書によると、海外で働くキューバ人の約41%が、任地で性的暴行を受けたことがあると答えている。人権団体は、キューバ政府はキューバの国際任務の一部を構成する専門家の基本的権利を侵害していると主張している。
中南米やアフリカを中心に世界60カ国で働くキューバ人医師は推定3万人で、キューバ当局は、一度海外に出た彼らの離反を阻止するために厳しいルールを策定しているという。エクアドルで8年間働いたキューバ人医師、ダヤミ・ゴンザレスは、キューバ政府からの任務から降りたいと申し出た際、脅迫を受けたと証言している。
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、キューバや北朝鮮などでの人身売買に対処する連邦タスクフォースを立ち上げるよう呼びかけた。仏ニュースサイト『ユーロニュース』によると、欧州議会の副議長の一人であるディタ・チャランゾヴァは、このような恥ずべき制度はヨーロッパでは許されないという。「「欧州連合はキューバと枠組み協定を結んでいるが、この協定の批准プロセスにおいて、強力な人権条項を条件としたのは、実は欧州議会だった。今こそ、この協定をきちんと履行し、実施する時だと思う。そして、こうした実態は、欧州連合が強制労働を禁止する緊急性があることを示していると思う。」と語っている。
スペインの欧州議員ジョルディ・カナス氏は、「キューバは自由な国というより、奴隷農園のようなものだ。キューバは、お金を生み出すために国民を奴隷のように扱っている。」と非難している。
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