中国半導体メーカー、米政府の対中輸出規制政策強化に対抗して米人技術者を全員解雇【米メディア】(2022/10/26)
バイデン政権は、中国を貿易上でも競争相手とし、特にIT分野での技術漏洩や移転に神経を尖らせている。そしてこの程、米商務省(1903年設立)が対中輸出規制をより厳しくする方針を打ち出したことから、まずアップルが中国半導体メーカーにメモリーチップを製造委託する計画を反故にした。そこで、これに対抗するように、当該中国半導体メーカーが同社の米人技術者全員を解雇するに至っている。
10月25日付
『Foxニュース』は、「中国メモリーチップメーカー、米人従業員を全員解雇」と題して、中国半導体メーカーが、米政府の対中輸出規制強化に対抗して、同社の米人技術者を全員解雇したと報じている。
中国のメモリーチップメーカーはこの程、米政府の輸出規制強化方針に鑑みて、同社技術部門にいる米人従業員を全員解雇すると発表した。
湖北省武漢市本拠の長江メモリー・テクノロジーズ(YMTC、2016年設立の国有企業)で、米政府の対中輸出規制強化政策の一環で、アップル(1976年設立)がYMTCに対するメモリーチップ製造委託する計画を反故にしたことに対抗したものとみられる。...
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10月25日付
『Foxニュース』は、「中国メモリーチップメーカー、米人従業員を全員解雇」と題して、中国半導体メーカーが、米政府の対中輸出規制強化に対抗して、同社の米人技術者を全員解雇したと報じている。
中国のメモリーチップメーカーはこの程、米政府の輸出規制強化方針に鑑みて、同社技術部門にいる米人従業員を全員解雇すると発表した。
湖北省武漢市本拠の長江メモリー・テクノロジーズ(YMTC、2016年設立の国有企業)で、米政府の対中輸出規制強化政策の一環で、アップル(1976年設立)がYMTCに対するメモリーチップ製造委託する計画を反故にしたことに対抗したものとみられる。
本件の事情通が英国『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタビューに答えて、米人従業員に退社を勧奨するのは、“会社自身にとっても、また米人従業員のリスクに鑑みても必要な措置”だと言及している。
解雇となった米市民及び米永住者は何人いるのか不明だが、同事情通によると、すでに数人の米人従業員が帰国しているという。
米商務省は今月初め、先端コンピューターチップを入手したり、スーパーコンピューターを開発したり、また、高機能半導体を製造する技術に中国がアクセスする道を制限すべく、対中輸出規制を更に強化していく方針であることを表明している。
同省は、中国がこれらチップ・スーパーコンピューター・半導体を駆使して、大量破壊兵器を製造したり、軍隊の意思決定スキームの正確・迅速化したりする恐れがあるからだとしている。
同省は更に、かかる方針は米国の国家安全保障及び外交政策を擁護するためのもので、同盟国やパートナー国とも連携した上で進めているとする。
同省のアラン・エステベス次官(産業安全保障担当、2022年就任)は、“我が国の脅威となる周辺環境は常に変化しており、同盟国等と十分連携して、中国によって引き起こされている様々な事態に対抗すべく、政策を随時見直していく必要がある”とコメントしている。
中国は、旧型の半導体を製造するメーカーを精力的に育成しているが、ほとんどの高機能スマートフォンやその他IT機器に使用される高性能チップの製造はできない状況にある。
そこで、米政府としては、中国がこれら高性能チップや部品製造技術にアクセスできないよう、制限を加える方策を強化してきている。
同日付『ロスアンゼルス・タイムズ(LAT)』紙は、「米政府、中国向け米半導体技術の輸出制限方針」と詳細を報じている。
バイデン政権はこの程、米企業が中国向けに半導体チップを輸出することを“違法”とすることで、米半導体技術が中国に流失することを厳しく制限する方針を発表した。
マサチューセッツ州在のフレッチャー・スクール(1933年設立の私立外交大学院)のクリストファー・ミラー准教授(30代半ば)の『LAT』への寄稿文によると、バイデン政権は、中国が半導体技術を高度化していくことが米国の安全保障等の点でマイナスになると判断している、という。
ドナルド・トランプ前大統領(76歳、2017~2021年在任)が、中国通信機器大手メーカーの華為技術(ファーウェイ、1987年設立)に制限を加えたように、ジョー・バイデン大統領(79歳、2021年就任)は、中国の全コンピューター企業に対して制限政策を取ろうとしている。
すなわち、高性能コンピューター用のメモリーチップ等の高度な技術を中国に流失させないようにしたものである。
同准教授によれば、過去10年、米国はコンピューター技術の中国軍への流失を止めることに失敗してきており、そこで、高性能のミサイルやレーダー製造のための最先端技術を徹底的に管理することが肝要だと判断したものだとする。
具体的には、たとえ民間企業向けとは言え、一度中国側に輸出されてしまうと、米政府の監視が届かないことになってしまうため、イランや北朝鮮に対して制裁しているのと同様、全ての高性能半導体技術の輸出について、目を光らせることにしたものであるという。
かかる方針の下、アップルは直近で、中国国有企業のYMTCへのメモリーチップ製造委託契約を反故にし、中国外のメーカーに乗り換えざるを得ないとの決定を余儀なくされている。
同准教授は更に、“もし米政府の強化政策が奏功すれば、中国側は高性能半導体部品等を自前で製造するまでに少なくとも10年はかかるとみられる”とコメントしている。
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中国大手企業の米映画産業への投資、米中政治対立激化で減退【英国メディア】(2022/10/11)
中国は、最先端技術含めて、西側先進国にいち早く追い付くべく、まず先進国産業界への投資活動で技術・ノウハウ等を吸収し自国産で賄おうとしている。映画産業も同様で、多くの大手企業がハリウッドの映画制作会社等に資本投下して、自国での映画産業隆盛を目指している。しかし、トランプ政権後期から現バイデン政権にかけての政治的対立の激化の影響を受けて、多くの企業が撤退、もしくは追加投資の二の足を踏む結果となっている。
10月6日付
『フィナンシャル・タイムズ』紙(1888年創刊、2015年日経紙傘下)は、「ハリウッド、大挙した中国資本の退出」と題して、直近十年間で十数社の中国大手企業がハリウッドの映画制作会社等に資本投下していたが、米中政治対立が激化する中、撤退や追加投資の沈静化の波が押し寄せていると報じた。
世界最大のビデオゲーム製作グループのテンセント(1998年設立)は2019年、ハリウッドの映画制作会社スカイダンス(注後記)と共同して、トム・クルーズ主演の「トップガン:マーベリック」制作・配信・公開に関わる旨発表した。...
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10月6日付
『フィナンシャル・タイムズ』紙(1888年創刊、2015年日経紙傘下)は、「ハリウッド、大挙した中国資本の退出」と題して、直近十年間で十数社の中国大手企業がハリウッドの映画制作会社等に資本投下していたが、米中政治対立が激化する中、撤退や追加投資の沈静化の波が押し寄せていると報じた。
世界最大のビデオゲーム製作グループのテンセント(1998年設立)は2019年、ハリウッドの映画制作会社スカイダンス(注後記)と共同して、トム・クルーズ主演の「トップガン:マーベリック」制作・配信・公開に関わる旨発表した。
同社は2018年、スカイダンスに資本参加(10%)しているが、2010年代には同社を含めて中国大手企業十数社がハリウッドの映画制作会社等に投資していた。
しかし、同映画が米国で5指に入る最高傑作で、今年5月に世界各地で上映された結果、14億ドル(約2,030億円)もの興行収入を叩き出しているにも拘らず、同社はその分け前に与ることを諦めざるを得なくなった。
何故なら、中国共産党政府が同映画内で米軍が賛美されすぎていることに不快感を抱いていると同社幹部が懸念し、同社に対する謂れのない取り締まり等が行われることを避けて、同映画からの興行収入を得る道を断念せざるを得ないと判断したためである。
(編注;同映画は、トップガンと呼ばれる海軍精鋭ジェット戦闘機部隊が、ならず者国家とされる某国が建設・稼働しようとしているウラン濃縮施設を破壊すべく、強力な防空網等を勇猛果敢に掻い潜り、見事特殊対地攻撃作戦を成功させるストーリーとなっている。筆者が観た限り、某国とは中国を想定していると思われた。)
ただ、テンセントはスカイダンスの少数株主の立場は保持していて、その他、アベンジャーズシリーズで有名なマーベルを支援しているAGBO(2016年設立の映画・TVドラマ制作会社)に投資している貨意グループ(フアイ、1990年設立)等数社は依然撤退はしていない。
中国では、映画鑑賞対象となる中堅クラスの人口がとてつもなく多いが、映画制作上のソフトウェアやその他ノウハウが不足しているため、多くの大手企業が中国の映画産業を隆盛させるため、手っ取り早くハリウッドの映画製作会社等に投資することで早急な成長を目論んだ。
米独立系リサーチ会社ロジウムグループ(RG、ニューヨーク本拠)によると、2012年に始まった中国企業による米メディアやエンターテインメント分野への資本投下は27億ドル(約3,915億円)、中国の対米総投資額の37%にも上ったという。
また、同社によると、2016年には中国企業による米メディア・エンターテインメント業界への総投資額が48億ドル(約6,960億円)にも達していて、そのうち、大連万達グループ(ターリアンワンダ、1988年設立の複合企業)によるレジェンダリー・ピクチャーズ(2000年設立の映画制作会社、バッドマン・スーパーマン・キングコング・ゴジラ等)買収額の35億ドル(約5,075億円)が大半を占めるという。
しかし、大連万達グループは2021年、2012年に26億ドル(約3,770億円)で買収したAMCシネマチェーン(1920年設立の世界的映画館チェーンでIMAX 3Dシネマで有名)を手放し、また、レジェンダリー・ピクチャーズの株式保有率を引き下げている。
中国企業向け融資が主流のイーストウェスト銀行(1973年設立、ロスアンゼルス本拠)のベネット・ポジル企業融資担当部門長は、中国企業によるハリウッドの映画製作会社の爆買いは“もはや手に負えなくなり、急激に減退してしまっている”とし、“今後再び活性化することはないだろう”と嘆いた。
RGのマーク・ウィツク上級アナリストは、中国当局が2017年に“不合理な”海外投資を制限する法整備をして以来、エンターテインメント業界含めて中国企業による投資が大きく減退していると分析している。
更に同アナリストは、2020~2021年に中国投資額が一時的に増えたのはテンセントがユニバーサル・ミュージック・グループ(1934年設立、世界最大のレコード会社)の10%株式を取得したことが主要因だとしながらも、中国政府の昨今のIT企業への取り締まり強化政策に遭って、今後同社が引き続き積極的投資を行うが不確かとなっているとコメントした。
なお、同社幹部は最近、海外投資案件を切り詰めることを模索していると発言している。
一方、イーストウェスト銀行のポジル部門長は、2017年配信・公開の「戦狼:ウルフ・オブ・ウォー」(中国映画史上、興行収入1位を記録。中国版ランボー)が大成功を収めたことから、“中国側はもうハリウッドの映画製作会社等のノウハウは必要なくなった”と感じ始めており、そこで中国企業による米エンターテインメント業界への投資熱が冷めたとも分析している。
因みに、2020年の中国における興行収入が初めて北米を抜いている。
北米における新型コロナウィルス感染流行問題に関わる行動制限が多分に影響しているものと考えられるが、目下、中国も“ゼロコロナ政策”に伴う厳しい都市封鎖措置に遭っているものの、業界専門家は、近い将来、中国の興行収入が世界を牽引することになろうとコメントしている。
(注)スカイダンス:2006年設立、2012年にパラマウンド映画(世界で5番目に古い映画制作会社)と共同出資契約締結。主な作品に、ミッション:インポッシブル、スタートレック、ターミネーター等がある。
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