世界中の専門家は、7日間の攻防を経て、すでに何千人もの犠牲者が出ているにもかかわらず、圧倒的な力の差となるはずだった武力行使に一定の抑制をかけてきたロシア軍の戦術、さらには弱点に疑問を呈している。
仏誌
『レゼコー』によると、専門家たちの最大の疑問は、ロシア参謀本部が長距離ミサイルや空挺部隊による攻撃で、敵の急速な崩壊を期待していたのかどうかという点である。もしそうであれば、失敗は明らかだという。ウクライナ軍が抵抗しているだけでなく、市民もその味方になり、都市中心部へのアクセスを封鎖している。これらは、欧米諸国と世論が一致して反対していることによっても助けられている。
元海兵隊大佐のミシェル・ゴヤ大佐は、ロシア軍は燃料供給の問題に悩まされ、多くの装備を道端に放棄せざるを得ない状況を述べ、ロジスティックスの問題を指摘している。2012年以降、ロシア軍は専門性の強化に努めているにもかかわらず、こうしたロジスティックス面で課題を抱えていることに専門家たちは驚きを隠せない。
元フランス空軍参謀長でNATOナンバー2のステファン・アブリアル将軍は、「奇妙な戦争だ」と述べ、「立ち往生した装甲車の周りでは、多くの一般市民が徒歩や自転車、自動車で移動しているのを見かける。キエフの北60キロに伸びたロシア軍の隊列が動かないのは、この兵站の失敗が原因だろう。ウクライナの空軍はほぼゼロになったのに、ロシア空軍が出てきていない。」と指摘している。アブリアル将軍は、ロシア空軍の消極性は、巻き添え被害への恐れ、依然として大量に存在する携帯型地対空ミサイル、あるいは識別しにくい、またはうまく隠れたターゲットなどを警戒しているのではないかと分析している。現在は、キエフ、さらには北東部の同国第2の都市ハリコフや、クリミアとドンバスを結ぶ戦略港湾マリウポルへの空爆が強化されており、専門家たちは、瞬時に勝利を得ることが出来なかったロシア参謀本部は、本来の強みである重砲を使う戦術に切り替えたと見ている。
次に、ロシア兵のモチベーションも疑問視されている。ロシアでは兵役は義務であり、徴兵制が戦闘員の3分の1を占めている。多くの青年は兵役を免除してもらっているが、反体制派の立場を取る者は免除されることはないという。軍隊は政権に反対する人々を、強制的に、しばしば残忍な手段で徴兵している。こうした裏事情が、ウクライナ人が撮影した車両の放棄など、ある種の「怠慢」を説明することができるのかもしれない。
米『ニューヨーク・タイムズ』は、米国防総省の高官が2日、ウクライナに侵攻したロシア軍の一部は、燃料や食料の不足に加え、戦闘を避けるために集団降伏したり、自分たちの車両を破壊したりしていると述べたことを伝えている。
同高官は、ロシア軍の一部の部隊は、驚くほど堅固なウクライナの防衛に直面した後、戦わずに武器を置いたと語った。ロシア軍のかなり多くの兵士は、訓練が不十分で、総攻撃の準備もできていない若い徴兵兵である。中には戦闘を避けるために、ガソリンタンクに意図的に穴を開けている車両も確認されているという。
こうした中、『ロイター通信』は、ウクライナ大統領の軍事顧問は2日、ロシアのウクライナ侵攻開始以来、7000人以上のロシア軍兵士が死亡し、上級将校を含む数百人が捕虜になっていると発表したと伝えている。
『ニューヨーク・タイムズ』は、軍事アナリストたちによれば、ロシアは前線近くに野戦病院を配備しており、ロシア軍部隊とモスクワの同盟国である隣国ベラルーシの病院とを往復する救急車も確認されているという。
NATOの最高連合軍司令官だったジェームズ・G・スタブリディス提督は、「4000人以上のロシア人が戦死したという多くの報告から、何か劇的なことが起きているのは明らかだ」と述べ、「もしロシアの損失がこれほど大きいのなら、プーチンは自国内で説明するのが難しいだろう」と指摘している。オバマ政権時代に国防総省のロシア・ウクライナ担当高官だったエブリン・ファーカス氏は、「戦場で倒れた仲間を置き去りにしているのは衝撃的だ」とし、やがて母親たちが我が子のゆくえを探すだろうと述べている。
ウクライナ当局は、ロシア人の家族が死亡または捕虜となった兵士に関する情報を追跡するためのウェブサイトを立ち上げている。ウクライナ内務省が作成したというこのサイトでは、捕らえられたロシア兵の映像や、負傷したロシア兵の映像が提供されているという。写真や動画は1日中変化している。
英『デイリーメイル』によると、ウクライナ国防省は2日、声明で、「捕虜になったロシア軍をウクライナ、キエフに引き取りに来る母親には引き渡すことを決定した」と述べた。声明とともに、ウクライナ人に降伏したロシア兵が泣き崩れながら母親と電話で話している動画を公開した。映像では、ロシア軍の若い兵士が武器を捨てた後、ウクライナの女性たちから温かいお茶をもらって飲み、軽食を食べながら、ウクライナの女性が差し出した携帯電話で母親とつながるや否や涙を流し、女性が若者を励ましてあげている様子が映し出されている。
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ロシアの軍事侵攻に喘ぐウクライナ政府は2月26日、同政府及び国軍支援の一環で、暗号資産による寄付を求める投稿をツイッター上で行った。ブロックチェーン(注1後記)の分析をてがける英国エリプティック(2013年設立)によると、同政府等を支援するNGO団体からの暗号資産による寄付が約3,400万ドル(約39億円)まで積み上がっているという。
3月1日付
『AP通信』は、「ウクライナ、3,400万ドル相当の暗号資産による寄付を受領」と題して、同政府の呼びかけに応えた巨額の寄付について報じている。
すなわち、暗号通貨取引の追跡を行うエリプティックによると、ウクライナ政府を支援する一環での暗号通貨による寄付が3,380万ドル(約38億8,700万円)に上っているという。
これは、1週間前にロシアからの軍事侵攻を受けたウクライナ政府が、暗号資産による寄付を募ったことに応えたもので、上記金額の3分の1近くが3月1日の一日だけで積み上がったものである。...
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3月1日付
『AP通信』は、「ウクライナ、3,400万ドル相当の暗号資産による寄付を受領」と題して、同政府の呼びかけに応えた巨額の寄付について報じている。
すなわち、暗号通貨取引の追跡を行うエリプティックによると、ウクライナ政府を支援する一環での暗号通貨による寄付が3,380万ドル(約38億8,700万円)に上っているという。
これは、1週間前にロシアからの軍事侵攻を受けたウクライナ政府が、暗号資産による寄付を募ったことに応えたもので、上記金額の3分の1近くが3月1日の一日だけで積み上がったものである。
同社共同創業者のトム・ロビンソン最高執行責任者は、ほとんどの寄付がビットコイン(注2後記)とイーサ(注3後記)で占められているが、一部非代替性トークン(NFT、注4後記)も含まれると語った。
本日までの1週間で、3万件の寄付行為がなされており、英国人プログラマーで仮想通貨イーサのプラットフォーム共同創設者であるギャビン・ウッド氏(41歳)は580万ドル(約6,670億円)を寄付している。
100万ドル(約1億1,500万円)以上を寄付した人が他に数人いる。
なお、エリプティックは、ウクライナ政府宛の寄付を装った詐欺行為も横行しているので注意を要すると呼びかけている。
同日付『ニューヨーク・タイムズ』紙も、「ウクライナ政府、1,500万ドル以上の暗号資産による寄付を受領」と題して詳報している。
ウクライナ政府は先週末、ツイッターのアカウント上で、暗号通貨のビットコイン、イーサ、テザー(注5後記)による寄付を呼びかけた。
エリプティックが2月28日晩に公表したデータによると、ウクライナ政府及び同国NGOカムバックアライブ(CBA、2014年設立の軍事支援用クラウドファンディングを行う団体)宛に合計2,200万ドル(約25億3千万円)以上の暗号資産による寄付行為が行われたという。
ただ、CBAの寄付集めの行為が、クラウドファンディング・プラットフォーム「パトレオン(注6後記)」が定めた、軍事支援用のファンディング禁止ルールに反するとされたため、
先週新たにウクライナDAOを立ち上げた。
ウクライナDAO広報担当によると、ロシアの反政府バンドのプッシー・ライオット(2011年設立)の協力で設営でき、2月28日晩現在で既に700万ドル(約8億500万円)余りのファンドが集まっているという。
なお、プッシー・ライオットのメンバーであるナジェージダ・トロンニコワ氏(32歳)は、“旧式のファンド集めでは時間もかかり煩雑だ”として、暗号資産による寄付方式を絶賛している。
(注1)ブロックチェーン:暗号技術を使ってリンクされたブロックと呼ばれるレコードの増大するリストで、設計上、データの改変に強い。そこで、2つの当事者間の取引を効率的かつ検証可能で恒久的な方法で記録することができるオープンな分散型台帳の役割を成す。ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトという名前を使った人物(またはグループ)が、暗号通貨ビットコインの公開取引台帳としての役割を果たすために発明したものだが、その正体は現在まで不明のまま。
(注2)ビットコイン:中央銀行や単一の管理者を持たない分散型のデジタル通貨であり、仲介者を必要とせず、ビットコインネットワーク上でユーザーからユーザーへとビットコインを送信することで取引ができる。その取引はネットワークノード によって検証され、ビットコインのすべての取引履歴がブロックチェーンと呼ばれる台帳に分散的に記録される。2008年にサトシ・ナカモトと名乗る人物またはグループによって発明され、2009年1月初めから使用が開始されている。
(注3)イーサ:インターネット上の仮想通貨。分散アプリケーションのためのプラットフォーム「イーサリアム」で取引などを実行する際に、「燃料」としての役割を果たす。
(注4)NFT:ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位。画像・動画・音声、及びその他の種類のデジタルファイルなど、容易に複製可能なアイテムを一意なアイテムとして関連づけられる。代替可能性がないという点で、ビットコインなどの暗号通貨とは異なる。
(注5)テザー:テザー社(2015年設立)が2015年2月から発行している、米ドルと連動した暗号通貨。規模は小さいがユーロと連動したユーロ・テザーも発行されている。
(注6)パトレオン:主にYouTubeコンテンツ製作者(ユーチューバー)、ミュージシャン、ウェブコミック作者向けのクラウドファンディング・プラットフォーム。2013年に設立。本社はサンフランシスコ。
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