中国は2000年代半ば以降、東南アジアのカンボジア(1953年フランスより独立の立憲君主制国家)に交通インフラ建設・電力供給・教育支援等の資金を惜しげもなく注ぎ込み、傀儡政権化を着々と進めてきた。そして同様の手口で、隣国ラオス(1949年フランスより独立の社会主義共和制国家)にも鉄道敷設等で中国化を促進しようとしている。そうした中、中国の影響力がこれ以上肥大化しないよう、日本・タイ・ベトナムが各々独自の政策でラオス支援に踏み込んでいる。
4月23日付
『ボイス・オブ・アメリカ』:「日本・タイ・ベトナム、貧困国ラオスの中国化阻止のために追加援助」
インドシナ半島の内陸にある貧困国ラオスは、近年中国からインフラ建設支援等を受けている。
特に、今年完成予定となっている、中国国境~首都ビエンチャン間400キロメートルを結ぶ中国ラオス鉄道建設プロジェクトには、中国が59億ドル(約6,370億円)を注ぎ込んでいる。
しかし、同国における中国の影響力がこれ以上大きくならないよう、日本・タイ・ベトナムが各国独自の支援を行おうとしている。
日本メディア報道によると、菅義偉首相(72歳)が今月、パンカム・ウィパーワン首相(70歳、今年3月就任)と電話会談した際、新型コロナウィルス(COVID-19)用ワクチン貯蔵設備建設及び国際空港増強工事で約180万ドル(約1億9千万円)の支援を約したという。
また、『ラオス国営放送』(1968年設立)は今月、タイのプラユット・チャンオチャ首相(67歳、2014年就任)がラオス首相に対して、教育・農業・公衆衛生の分野での支援に加えて、COVID-19感染対策での協力も申し出たと報じた。
更にベトナムの『ニャンザン』(1951年創刊のベトナム共産党機関紙)によると、ベトナムとラオスは2021~2030年戦略提携(5ヵ年協力協定含む)に合意したという。
ベトナムは既に昨年、COVID-19での支援及び1,000人分の奨学金提供を行っている。
ただ、米ウィリアム&メアリー大(1693年設立のバージニア州公立大学)のエイドデータ研究所(2009年設立)の公開データによると、中国がラオスに拠出している資金は、投融資含めて毎年110億ドル(約1兆1,880億円)にも上っているという。
これに対して日本の外務省データによると、日本も2016年の政府開発援助は638億ドル(約6兆8,900億円)となっている。
これら諸々の援助額はラオス国内総生産(GDP)の15%にもなり、『ラオス国営放送』によると、“友好国からの開発支援”によって直近5ヵ年の経済成長率は平均5.8%に達しているという。
そして、人口700万人の約4分の1が貧困層である同国にとって、かかる支援は非常に貴重なものとなっている。
しかし、中国以外のアジア諸国は、同国に対する中国の影響力を可能な限り減少させたいと考えている。
特に、メコン川の上流に当たるラオスに中国支援のダムが建設されることで、同河川流域のタイ、カンボジア、ベトナムの水資源確保等に少なからぬ影響を与えることになるからである。
そこで、中国化に懸念を示している米国も昨年、ラオスや近隣諸国への資金援助を申し出ている。
また、メコン川流域開発に直接関わっていない日本としても、日本車製造拠点としているタイや、また、脱中国で生産拠点を移転させたベトナムにおいて、メコン川が中国資本に牛耳られることで同河川を使った低額輸送ルートに影響を来すことを懸念している。
更に、タイ自身も、ラオスに水力発電所建設の支援を行って、中国関与に対抗しようとしている。
そして、ベトナムも、1979年発生の中越戦争から続く領土問題に加えて、南シナ海の領有権争いで中国対峙の姿勢を貫いており、ラオスの中国化によってベトナムが包囲されることを懸念している。
しかし、専門家によれば、中国自身はいくら投じているか明らかにしていないが、中国によるラオス投下資金は他のどの国よりも多い。
そして、GDPが190億ドル(約2兆520億円)に満たないラオスにとって、COVID-19流行に伴う経済落ち込みは尋常ではなく、日米や他の東南アジア諸国がラオスを自陣に引き込もうとしても、中国から更に支援が来るとなれば、背に腹はかえられないとみられる。
なお、国際通貨基金(IMF、1944年設立)によると、ラオスは昨年時点で鉄道建設に関わり2億5千万ドル(約270億円)の債務を負っているという。
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