先週末ノーベル平和賞が発表された。憲法9条など、いろいろ取りざたされたが今年
はチュニジアの「ナショナル・ダイアログ・カルテット」(直訳で4団体による国家
に関する意見交換の会)の受賞である。2010年にチュニジアで始まったアラブの春も
記憶にはあるが、昨今の世界情勢の中で印象が薄らいでいた点は否めない。各メディ
アは以下のように報じている。
10月10日付
『ワシントンポスト』はAP通信の記事を引用し、今回の受賞は今年に入っ
てから2度もテロの被害を被った北アフリカ諸国に希望をもたらすものだとしてい
る。また、今回受賞したチュニジアの人権団体のリーダーが「受賞が自分たちの国だ
けでなく戦火にあえぐ全ての国への励ましになれば」と述べたコメントを掲載してい
る。
今回受賞した4団体の1つであるチュニジア人権連盟の会長であるベン・ムーサ氏は
「今回の受賞は2010年のアラブの春以降、ただひたすらに民主化を目指してきた賜物
であり、リビアのように国内紛争が恒常化している国への希望のメッセージだ」と
語ったという。...
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10月10日付
『ワシントンポスト』はAP通信の記事を引用し、今回の受賞は今年に入っ
てから2度もテロの被害を被った北アフリカ諸国に希望をもたらすものだとしてい
る。また、今回受賞したチュニジアの人権団体のリーダーが「受賞が自分たちの国だ
けでなく戦火にあえぐ全ての国への励ましになれば」と述べたコメントを掲載してい
る。
今回受賞した4団体の1つであるチュニジア人権連盟の会長であるベン・ムーサ氏は
「今回の受賞は2010年のアラブの春以降、ただひたすらに民主化を目指してきた賜物
であり、リビアのように国内紛争が恒常化している国への希望のメッセージだ」と
語ったという。また、もう1団体のチュニジア連合のブシャマウィ氏も「貧困と暴力
に苦しむ我が国の未来に対する心強いメッセージである。今回の受賞がきっかけで、
観光客が戻り、海外資本も投資活動を行ってくれれば」とコメントしている。
前述の2度のテロとは、チュニジアのバルド国立博物館とスース海岸での銃乱射事件
を指している。これらの事件以降、観光客の数が激減し、経済的な復興が望まれてい
るという。現在のチュニジアの経済成長は前年と同レベルかマイナスで、15%を超え
る失業率と6%もの物価のインフレに悩まされているという。
10月10日付
『ディスパッチ・タイムズ』(アメリカ)は、オバマ大統領も今回のチュ
ニジアの「ナショナル・ダイアログ・カルテット」の受賞を「イスラムと民主主義の
共栄」と歓迎していると伝えている。
今回の受賞団体である4団体が団結するなど、初めはあり得ない話だったという。
「ディスパッチ・タイムズ」はアメリカの非営利・公共のラジオネットワーク
『ナショナル・パブリック・ラジオ』の放送内容を引用し、「チュニジアは中東諸国で初
めて権力に立ち向かい支配を脱却しようとした国であり、国民はカルテットに信頼を
寄せている」としている。チュニジアは1956年にフランスから独立した後も政府高官
を巻き込んだ政治闘争の歴史を歩んできている。
今回の4団体のうちいずれも平和賞を選考するノーベル委員会とは関連性がなく、マ
スコミの予測やブックメーカーの賭け予想にもノミネートされていなかったという。
ノーベル平和賞の監視団体NPPWによると、チュニジアの首相と外務大臣だけは事前に
受賞の知らせを受けていたとはいうものの、「ノーベル氏すらも思い及ばないよう
な」圏外だったという。
2010年にノーベル平和賞を受賞した中国人の民主活動家である劉暁波(りゅうぎょう
は)氏は今回のチュニジアの「ナショナル・ダイアログ・カルテット」の受賞はアラ
ブの春が生まれた場所で、民主化の思想がいまだに息づいていることを示すものだと
している。「このままチュニジアが信頼に足る、民衆参加型のプロセスをたどること
ができたなら、チュニジア国民に正義をもたらすことになる。同時にそれはアラブの
春が波及した国々が相次いで失敗した中で、素晴らしい例外的な存在となるだろ
う」。
今後この4団体がリーダーを欠いたまま、分裂することなしに民主活動を進めていけ
るのか危ぶむ意見もあるという。ただ、ノーベル委員会によれば今回の賞は「チュニ
ジアの国民と混乱を極める中東諸国への激励となれば」とのことだという。中東諸国
で民主化に向けて歩き続けているのはチュニジアのみであり、カルテットの活動はそ
の動きを軌道に載せたという意味で、大変意義のあるものであるという。
しかしながら、チュニジアにもカルテットにも、まだやるべきことは残されていると
いう。前出のブシャマウィ氏も「民主化への道はまだ半ばだが、我々の行ってきたこ
とが正しかったことは証明された。若者の3分の1が失業中であり、これからもチュニ
ジアやその周辺国は民主化に向けて努力していくべきだ」と語ったという。
また「ディスパッチ・タイムズ」はノーベル平和賞を設けたノーベル氏の遺志を引用
している。「当該賞は国家間の友好関係の構築、敵対関係の解消、平和を促進する議
会の設立に貢献した者に贈られるべきである」。
今後のチュニジアの歩む歴史が受賞の正当性を評価することになるだろう。
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