4月4日付
『ザ・ディプロマット』オンラインニュース(2002年設立のアジア太平洋地域専門のメディア)は、「ロドリゴ・ドゥテルテ現大統領は、後任候補として誰を推すのかいつまで沈黙するのか」と題して、現大統領は、政界引退後に自身がICCに告発されない保障を求めうるマルコスJr.候補を推すと考えられると報じている。
ロドリゴ・ドゥテルテ現大統領は、5月9日の大統領選に先立ち、同日に投票が行われる上院議員候補(半数の12人が改選)及び地方議会議員候補について、与党・PDP-ラバン(民主党・国民の力、1983年設立)の公認とする候補者を承認した。
しかし、自身の後任候補として誰を推すかについては、依然沈黙を守っている。
同大統領は狡猾なベテラン政治家であり、これまでも大衆や対立候補等を困惑させるためか、いくつもの矛盾した声明を発表することで知られている。
そこで、今回沈黙を守っているのは、自身にとって最も有益と思われる時機を待って、誰を後任候補として推すか発表するものとみられる。
ただ、これまでの同大統領の発言や対応から推測されることは、数多の候補者の中で、唯一ドゥテルテ政権を批判せず、かつ、目玉とされたインフラ政策(BuildBuildBuild事業政策)を踏襲すると宣言している、ボンボン・マルコスJr.候補を推すものと考えられる。
特に、同大統領は、ICCが2019年に、同大統領が推進した「麻薬撲滅運動」の下で容認した超法規的殺人が深刻な人権侵害に当たる可能性があるとして、同大統領の個人犯罪容疑の捜査に入ると示唆していることから、同大統領の政権引退後にICCに身柄を引き渡されることを恐れている。
現段階では、マルコスJr.候補の方が、現大統領の推薦を取り付けることで、支持率上昇を期待していることから、そこで同大統領は、ICC問題を不問に付すことと引き換えに、同候補に売る恩を最大化できる時機を狙っているものと考えられる。
更に、マルコスJr.候補には、かつてコカイン使用疑惑が上がっていたことと、内国歳入庁(1904年設立、国税庁に相当)からマルコス家遺産に関わる相続税の未払い問題を指摘されていることから、同大統領としては、これらの問題が同候補の支持率にどう影響するのか見極めたいとの思いもあるとみられる。
なお、与党・PDP-ラバン幹部や現閣僚の何人かはかつて、イスコ・モレノ現マニラ市長(47歳、元俳優)やレニー・ロブレド現副大統領(56歳、野党・リベラル党所属、現大統領を最も批判)を推薦すると公言していた。
しかし、与党は先月下旬、大統領候補としてマルコスJr.を、また、副大統領候補としてサラ・ドゥテルテ現ダバオ市長(43歳、野党・ラカス-キリスト教イスラム教民主党所属、現大統領の実娘)を推薦することを正式決定している。
ただ、同党はその際、現大統領は依然推薦候補を決めていないと敢えて付け加えている。
(注)ICC:個人の国際犯罪を裁く常設の国際裁判所。1998年7月、国連全権外交使節会議において採択された国際刑事裁判所ローマ規程に基づき、2003年3月にオランダのハーグに設置。国際関心事である重大な犯罪について責任ある「個人」を訴追・処罰することで、将来において同様の犯罪が繰り返されることを防止することを目的としている。
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フィリピンでは来年5月、6年に一度の大統領選が行われる。大統領は1期のみで再選は許されないが、強権を発揮できることから、特に外交関係において、大統領自身の政策に左右されがちである。そこで、ロドリゴ・ドゥテルテ現大統領(76歳)の親中派政策が継承されるのかどうかは、偏に新大統領の政策に委ねられることになる。
12月16日付
『ザ・ディプロマット』オンラインニュース:「フィリピンの新大統領の対中政策は如何に」
フィリピンでは直近二十年間、中国との関係が“黄金期”、“アジアで最悪の関係”、また“揺れ動く関係”と変化してきた。
これは偏に、同国の大統領の外交政策によって左右されてしまうからである。
同国大統領の任期は6年、但し“1期のみ”に限られ“再選は認められない”。
従って、大統領独自の個人的利権に注力してしまう傾向となる。
1.これまでの大統領の外交政策は以下のとおりであった。
●グロリア・マカパガル=アロヨ第14代大統領(2001~2010年在任、就任時53歳)
・中道右派のラカス党(1991年設立)。
・米国との関係は継続するとするも、南シナ海領有権問題に拘泥せず、中国との貿易・投資関係増強を優先。
・任期中、中国の活動が平和的だったこともあって、軍上層部や大手企業は、同大統領の対中政策を評価。
●ベニグノ・アキノ3世第15代大統領(2010~2016年在任、1960~2021年)
・中道右派の自由党(1946年設立)。
・前政権と反対に、中国と対峙する一方、親米政策を推進。2014年には、米比拡大防衛協約を締結。これに伴い、米国側からフィリピン側に、監視艇、戦闘機、その他フィリピン国軍近代化のための装備品を提供。
・一方、中国は、南シナ海における領有権主張(九段線)を基に、2013年から同海域の環礁に人工島の建設を開始し、更に軍事拠点化を推進する等、一方的な海洋進出を実行。
・これに業を煮やし、同政権はハーグ(オランダ)在の常設仲裁裁判所(PCA、1899年設立)に対して、“九段線”は無効だとして提訴。結果、PCAは2016年7月、フィリピンの訴えを支持する裁定。
●ロドリゴ・ドゥテルテ第16代大統領(2016~現在、就任時71歳)
・中道左派のPDPラバン党(フィリピン民主党・国民の力の合併で1986年設立)。
・前政権の方針に真っ向から反対し、親中政策を推進。PCA裁定を不問にして、中国からの投融資やインフラ援助獲得に注力。
・オバマ政権が、同大統領が麻薬犯罪撲滅の一環で行った超法規的殺人政策に批判的であったことから、益々謙米政策に移行。
・2020年2月には、米比間訪問部隊協定(VFA、1999年発効)を一方的に破棄すると宣言し、駐留米軍の早期撤退を要求。ただ、その後の中国の強硬策に恐れを抱いたこともあって、2021年7月にVFA破棄宣言を撤回。
2.新大統領の有力候補者は以下である。
●フェルディナンド・マルコス・ジュニア(64歳、前上院議員。独裁者フェルディナンド・マルコス第10代大統領の長男)
・フィリピン国民党。
・ドゥテルテ大統領の親中政策を“正当”なものと評価。従って、当選した場合、南シナ海領有権問題含め、対中政策に変更はない見込み。
●レニー・ロブレド(56歳、2016年就任の現副大統領)
・自由党。
・アキノ3世大統領と同じ政党ながら、中国と対峙することは避けて、“包括的かつ独自の外交政策”を推進する意向を表明。
・特に、ベトナムの対中政策を見習って、中国と衝突することのない分野での経済・投資関係構築を模索。
・ただ、PCA裁定の意義を認め、中国がフィリピンに事前相談もなく、南シナ海での天然資源開発を進めることは問題視すると表明。
●マニー・パッキャオ(42歳、ボクシング界の国民的英雄)
・PDPラバン党。
・ドゥテルテ現大統領と同じ政党ながら、反対派に推されて立候補。
・従って、特に同大統領の南シナ海領有権問題での対中軟弱姿勢を非難。
●フランシスコ・ドマゴソ(47歳、元俳優、2019年就任の現マニラ市長)
・中道右派の国民統一党(2011年設立)。
・対中強硬派。フィリピン主権擁護のために“戦うことは全く恐れない”とし、当選した場合、PCA裁定“遵守”を中国に強く迫る、と表明。
3.なお、アルバート・デル・ロサリオ元外相(82歳、2011~2016年在任)が、2016年の大統領選時、(親中派の)ドゥテルテ候補を当選させるべく中国が画策した疑いがある、とコメントしている。
そこで、米国政府としては、“中国政府の傀儡政権”が誕生することを恐れて、2022年大統領選挙は如何なる外国勢力の影響も排除するよう、フィリピン側を支援していく意向である。
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