日本の食料自給率は40%弱で推移している。従って、牛肉・ジャガイモ等の輸入に支障を来すと、代替供給品手当てや同食材の価格高騰等困難に直面してしまう。そうした中、消費量の98%を国産で占める米も、想定外の地震や悪天候が起きると、途端に小売店から米の在庫が払底する事態を招くとして、シンガポールメディアが日本の食料安全保障の課題について報じている。
9月22日付
『ザ・ストレーツ・タイムズ(ST)』紙(1845年創刊の英字紙)は、直近発生の米不足に象徴される日本の食料安全保障の課題について詳報している。
日本の食料自給率は、今年3月現在で僅か38%であり、政府が標榜している2031年3月までに45%達成という目標値に遠く及ばない。
直近でも、牛肉やジャガイモの輸入に支障を来して、代替品の供給確保に難儀しているが、消費量の98%が国産で賄われている米の供給不足問題も発生しており、『ST』日本特派員が日本の食料安全保障の課題について取材・報道している。
●輸入牛肉に関わる牛丼チェーン店「吉野家(1899年創業)」の対応
・2000年代初め、唯一の輸入元である米牛肉に感染症問題が発生し禁輸となった際、豚丼、鶏肉丼等で代用。後年、カナダ牛肉の輸入も開始。
・更に、第4の代替食材としてダチョウ肉の開発に着手し、2017年より茨城県でダチョウ飼育を開始した上で、今年8月に期間限定でダチョウ丼を発売。
・ただ、1杯1,683円と牛丼の3倍以上することもあって、6万食の限定販売。
・一方、円安の問題等もあって、輸入牛肉仕入れ価格が1㎏当り1,450円から1,530円に80円(約6%)も上昇していることから、今年7月に4年連続で牛丼の値上げ実施。
●ジャガイモ供給問題
・ファーストフード店が、2021~2022年に輸入ジャガイモ手当てに困窮し、看板商品のフライドポテト販売を制限。
・スナック菓子メーカー「カルビー(1949年前身創業)」は、看板商品ポテトチップス用のジャガイモの90%を国産で賄っているが、凶作に遭って難儀。
●オレンジ供給問題
・主要輸入元のブラジルにおける異常気象とオレンジの木の病気で、今年5月に深刻なオレンジ供給不足。
・国内飲料メーカーは、日本に輸入されたオレンジの90%をオレンジ果汁として販売しているため、軒並み生産・販売休止。
●米不足問題
・牛肉、ジャガイモ、オレンジ等と違って、食用米の98%は国産で、銘柄も500種類以上。
・しかし、2023年の異常気象によって国産米の生産量が減少し、2024年の需要量カバーに支障を来したことに加えて、今年8月初めに発生した日向灘地震が南海トラフ巨大地震に繋がる恐れがあるとの懸念から、多くの消費者が米を含めた食品の買い占め・備蓄に走ったため、多くの小売店で米在庫品の払底事態を惹起。
・その結果、米市場価格は50%前後も上昇。
・坂本哲志農林水産大臣(73歳、2023年就任)は9月6日、“米価格高騰は間もなく沈静化する見込みだ”とした上で、“米がスーパーマーケットやその他小売店にスムーズに供給されるように出荷と在庫を監視しているので、消費者においては冷静に対応するよう要請する”とコメント。
・これに対して、『毎日新聞』は9月12日付社説で、“過去と現在の政府の政策失敗のツケが回ってきている”とした上で、“日本は、予期せぬ需要変動への対応力を失っているとみられるので、主食の供給基盤を厳格にレビューする必要がある”と批評。
・『産経新聞』も9月18日付社説で、“米は日本の文化と食料安全保障の基盤であり、安定供給を確保するための長期戦略は政府の最優先事項であるべきだ”と強調。
・また、キヤノングローバル戦略研究所(2007年設立)の山下一仁研究主幹(69歳、2010年就任、元農林水産省官僚)は、“政府は、年間の米生産量を抑制する現下の政策を見直す必要がある”と主張。
・更に、同主幹は、“もし、小麦も牛肉も輸入できない深刻な危機になれば、輸入穀物に依存する畜産はほぼ壊滅するだろう”とした上で、“食料の輸入が途絶えれば、石油や肥料などの原材料も輸入できなくなる”と警鐘。
(注)食料安全保障:1999年施行の「食料・農業・農村基本法」に基づき、国内の農業生産の増大を図るとともに、輸入及び備蓄を適切に組み合わせ、食料の安定的な供給を確保する政策。また、凶作や輸入の途絶等の不測の事態が生じた場合にも、国民が最低限度必要とする食料の供給確保を目指す。
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7月19日付
『ロイター通信』、20日付シンガポール
『ザ・ストレーツ・タイムズ』紙は、シンガポール港沖で大型タンカー2隻の衝突事故が発生したと詳報している。
シンガポール港は、アジア最大の原油積揚げ港であると同時に世界最大のバンカーリング港(燃料補給)である。
同港では、今年に入ってからコンテナ船を含む多くの貨物船の異常滞船が発生している。
そうした中、先月の浚渫船とタンカー衝突事故に続いて、またしても7月19日早朝、大型タンカー2隻の衝突事故が発生した。...
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7月19日付
『ロイター通信』、20日付シンガポール
『ザ・ストレーツ・タイムズ』紙は、シンガポール港沖で大型タンカー2隻の衝突事故が発生したと詳報している。
シンガポール港は、アジア最大の原油積揚げ港であると同時に世界最大のバンカーリング港(燃料補給)である。
同港では、今年に入ってからコンテナ船を含む多くの貨物船の異常滞船が発生している。
そうした中、先月の浚渫船とタンカー衝突事故に続いて、またしても7月19日早朝、大型タンカー2隻の衝突事故が発生した。
シンガポール海事港湾庁(MPA、1996年設立)発表によると、衝突したのはシンガポール船籍“ハフニア・ナイル号(2017年建造)”とアフリカ大陸ギニア沖サントメ・プリンシペ船籍“ケレスI(2001年建造、船主は中国企業)”で、衝突場所はシンガポール領のペドラ・ブランカ島55キロメートル(34マイル)東沖の海上であるという。
また、前船の乗組員22人及び後船の40人のうちの14人は、MPA及びシンガポール海軍によって救出され、後船の26人は現在も本船消火に当たっているという。
前船は、総積載量7万4千トンで30万バレル(約4万7,700キロリットル)のナフサ(粗製ガソリン)を積載しており、後船は総積載量30万トンの超大型船だが積み荷は不詳である。
但し、“ケレスI”は、船舶追跡データによると今年3~4月にはイラン産原油を運送していた。
イラン産原油については、米国が昨年11月から強化した制裁下にあって、輸送に関わった船舶や関係企業が制裁対象になっている。
船舶追跡データを扱うLSEG(2007年設立)によると、“ケレスI”はイラン原油の他、同じく米国制裁対象となっているベネズエラ産原油をここ数年中国向けに輸送しているという。
更に、同社データでは、本船は7月11日以降、今回衝突したペドラ・ブランカ島沖に停泊したままとなっていた。
船舶情報全般データ提供会社ロイド・リスト・インテリジェンス(2017年設立、本拠英国)のミシェル・ワイズ・ボックマン首席アナリストは、“彼の地(ペドラ・ブランカ島沖)は、以前から米国制裁対象のイラン産原油を密かに輸送する船団が集まる場所と知られている”とした上で、“ケレスIは、イラン産原油をしばしば輸送していて、明らかに米国制裁破りをしていた”とコメントした。
また、同じく船舶追跡データを扱うKpler(2014年設立)のマット・スタンレー市場担当責任者も、“ケレスIは、イラン産原油を中国向けに輸送していることが分かっている”と追認している。
なお、船舶情報データ専門家情報によれば、米国の制裁対象となっているイラン・ベネズエラ産原油に加えて、欧米の制裁対象のロシア産原油を密かに輸送する闇の船団は850隻にも上るという。
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