日米が主導する四ヵ国戦略対話(クワッド会議、注後記)が、5月24日に東京で開催される。しかし、直前の5月21日に代議院議員(下院に相当)総選挙を控える豪州では、与党・自由党あるいは最大野党・労働党のどちらが政権を掌握するか蓋を開けるまで分からない(単独過半数が取れない場合、連立協議が必要となるため、開票当日に結果判明しない恐れ)。クワッド会議直前の日本移動という物理的な理由から、自由党・労働党両党首が揃って来日する可能性がある。
5月18日付米
『AP通信』は、「豪州首相、日本開催のクワッド会議に誰が出席するか未定」と題して、直前の総選挙の結果を踏まえてどの政党が政権を掌握するか確定するまで、東京で開催されるクワッド会議に誰が正規メンバーとして出席するか不詳だと報じている。
豪州のスコット・モリソン首相(53歳、2018年就任)は5月18日、5月21日の総選挙の3日後に東京で開催されるクワッド会議に、豪州首脳として誰が出席するのかまだ言えないと表明した。
同首相は、“(来週の首脳会議の)「準備は進めている」が、土曜日の総選挙の結果が僅差となった場合、どういう対応ができるのかということになるが、今は何とも言いようがない”とコメントした。
一方、野党・労働党のアンソニー・アルバネージ党首(53歳、2019年就任)は、総選挙に勝利したら、5月22日に即刻宣誓の上で首相に就任し、クワッド会議に出席するために訪日すると述べている。
同党首は、“同盟国の米国のジョー・バイデン大統領(79歳、2021年就任)はもとより、友好国である日本の岸田文雄首相(64歳、2021年就任)、インドのナレンドラ・モディ首相(71歳、2014年就任)と直接会って協議したい”と地元紙のインタビューに答えた。
シドニー大学(1850年設立の公立大)憲法学専門のアン・トゥーミー教授は、モリソン首相の与党・自由党の敗北が決定していれば、同首相は、デビッド・ハーリー豪州総督(68歳、2019年就任)による新首相宣誓式前に辞任する必要があるが、もし決着が付いていないならば、最終確定するまでの間はモリソン氏が首相に留まることになる、と解説している。
更に同教授は、来週の首脳会議までに事態が確定しない場合に備えて、モリソン・アルバネージ両氏が訪日するということも考えられる、とも付言した。
ペニー・ウォン元老院議員(上院に相当、53歳、南オーストラリア州選出の労働党議員、2002年初当選)は、もし労働党が勝利すれば、外相(野党が組織する影の内閣の外相に2016年就任)としてアルバニーズ党首に同行して訪日する、と表明している。
同議員は先週、豪州『ABCニュース』のインタビューに答えて、“総選挙後の初外遊先は日本となる”とし、“クワッド首脳会議にはメンバー国外相も出席するからだ”と述べた。
更に同議員は、“通常であるならば、アルバニーズ党首も自身も、初外遊先はインドネシアとなるが、今回はクワッド会議開催が迫っているので、日本が最初となるだろう”と付言した。
インドネシアは、豪州にとって特異な二国間関係先であることより、新政権を担うことになったトップの最初の訪問先ということが慣例となってきていた。
なお、通常ならば、総選挙開票当日に結果が判明して、即刻組閣となるが、直近の世論調査によると、自由党・労働党の支持率は僅差でどちらが勝利するか不明の状態となっている。
もし、どちらの党も単独過半数(75/150以上)が取れない場合、他党との連立協議が必要となり、新政権誕生までにはしばらく時間を擁す。
2010年時に労働党が少数与党として政権を担った際は、他党と連立協議を行って組閣するまで17日も擁していた。
一方、同日付豪州『スカイニュース・オーストラリアTV』は、「モリソン首相、アルバニーズ党首が総選挙後に即刻首相就任宣誓式を行ってクワッド会議に出席するとする発言を“厚かましい”と糾弾」と題して、フライング気味の野党党首を非難した旨報じている。
モリソン首相は、総選挙の結果がどうなるか分からない段階で、アルバニーズ労働党党首が来週予定されているクワッド会議に出席すると表明しているのは、“少々厚かましい”と言わざるを得ないとコメントした。
アルバニーズ党首は、総選挙の結果を踏まえて即刻首相の就任式を行い、ウォン外相とともに来週のクワッド会議出席のために訪日すると発言していた。
これに対してモリソン首相は5月18日朝の記者会見で、“アルバニーズ党首は、すでに総選挙結果が判明して、勝利を収めているかのような発言をしており、少々厚かましいと思われる”と表明した。
同首相は、前回総選挙時(2019年5月)も、当時のビル・ショーテン労働党々首(当時52歳)及び労働党が、“あたかも総選挙に勝利したかのように振舞っていた”ことを非難していた。
実際は、自由党保守連合が政権を継続奪取(2013年以降3期連続)していた。
(注)クワッド会議:2006年に当時の安倍晋三首相が、環太平洋における日本・米国・豪州・インドの四ヵ国の戦略対話を提言。第2次以降の安倍政権で2017年に局長級会合、2019年に外相会談を開き、2021年3月に初めてオンラインで首脳協議が実現。同年9月、バイデン政権の呼びかけで初の対面による四ヵ国首脳対話を実施し、以降毎年の開催について合意。対中国牽制に重心を移すバイデン政権は、クワッドに中核的な役割を求めている。
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気候変動がもたらす危機が叫ばれる中、国連はオーストラリア、米国、英国、その他のOECD諸国に2030年までに石炭の使用を停止するよう求める新しい気候対策計画を発表した。一方、世界最大の温室効果ガス排出国である中国は2030年の期限の対象外としており、オーストラリアが反発の声を上げている。
『エポックタイムズ』によると、国連の新しい気候対策計画は、国連の潘基文前事務総長をはじめとする国連関係者が、世界の国々に対してネット・ゼロ達成の具体的な期限を設けるよう求めていたことを受けて作成されたものだという。しかし、中国は世界最大の温室効果ガス生産国であるにもかかわらず、国連が設定した2030年という期限には含まれなかった。
国民党のマット・カナバン上院議員は、国連が世界最大の排出国に対して不平等な扱いをしているのは偽善的だとし、国際機関がオーストラリアの経済を破壊しようとしていると非難している。拒否権を持つ常任理事国である中国は、国連最大の財政支援者であり、最新の2021年予算では3億5千万米ドル(約386億円)を計上していることから、国連に対するその影響力が懸念されている。
労働党のジョエル・フィッツギボン議員は、スカイニュース・オーストラリアに対し、国連のあと10年という期限は「オーストラリアとその経済と市場に対する理解が不十分」であることを示すものだと述べている。石炭産業は主要な雇用提供者であり、炭鉱と石炭発電所で働くオーストラリア人は合わせて5万人近くに上る。さらに、過去5年間でオーストラリアは約2100億米ドル(約23億円)分の石炭を輸出しており、これはオーストラリアの総輸出額の約16%を占めている。フィッツギボン議員は、オーストラリアでは再生可能エネルギーへの移行が加速していることを指摘し、エネルギーの安定的な供給を確保するためには石炭発電の支援が必要だと主張している。
フィッツギボン議員はまた、「オーストラリアの石炭の80%は、インドや中国などの発展途上国を含むアジアのパートナーに輸出されている」と指摘し、「石炭の輸出をやめることはできない。輸出をやめるべきではない。」と述べた。
モリソン首相も以前、中国がOECD諸国の合計よりも多くの排出量を出していると訴えていた。世界最大の二酸化炭素排出国である中国は、16日間でオーストラリアの1年間の排出量を上回る二酸化炭素の量を排出している。
「グローバル・エネルギー・モニター」の報告書によると、2020年に中国は週に平均1基の大型石炭火力発電所を建設しており、世界の他の国々と比べて合計で3倍以上の石炭火力発電所を建設しているという。また、同報告書によると、2月時点で中国が開発中の石炭発電所は247ギガワットで、これはオーストラリアの総発電容量の約5倍にあたる。
カナダのニュースサイト『デジタル・ジャーナル』によると、国連の気候変動特別顧問であるセルウィン・ハート氏は5日、キャンベラで行われた講演で、オーストラリア政府は石炭の廃止に向けた取り組みを強化すべきであり、さもなければ気候変動が同国の経済に劇的なダメージを与えると批判した。ハート氏は、オーストラリア政府は「時機を捉えて」自然エネルギーに切り替えるべきだと述べ、「もし世界が急速に石炭を廃止しなければ、気候変動は農業から観光、そしてサービス業に至るまで、オーストラリア経済全体に大打撃を与えるだろう」と語った。
オーストラリアのキース・ピット資源大臣は、6日に声明を発表し、最新の輸出額を見れば、「石炭の死期が迫っている」という報道は大幅に誇張されており、2030年以降もその将来性は保証されていると述べ、強い反発を示した。「この重要な産業の将来は、オーストラリア政府が決定するものであり、何千人もの雇用と何十億ドルもの輸出を犠牲にして石炭を閉鎖しようとする外国の機関が決定するのではない」と反論した。
さらに、「国際エネルギー機関(IEA)は、中国、インド、韓国などのエネルギー需要を満たすために、アジア全体の石炭消費量が今後10年間で増加すると予測している。オーストラリアは、その需要を満たすために重要な役割を担っている。石炭は今後も数十億ドルのロイヤルティと税金を州政府と連邦政府にもたらし、5万人以上のオーストラリア人を直接雇用することになる」。」と主張した。
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