本邦では、フェイクニュースに踊らされた少数のトランプ支持者が、未だにトランプを支持するデモを行っている。しかし、米国では急進的なトランプ支持者も、戒厳令を敷いたり軍を率いての大統領再選行動に移らないトランプに落胆してか、SNS上で“裏切り者”と非難のツイートをする程見限り始めている。1月6日の連邦議事堂占拠行動に加わらなかったばかりか、実際に行動に出たトランプ支持者を非難する声明を出したこと等が大きく影響したものとみられる。
1月21日付
『ザ・ウィーク』(2001年創刊の週刊誌):「Qアノン信奉者やプラウド・ボーイズメンバー、トランプをお払い箱に」
ジョー・バイデン大統領(78歳)が1月20日に正式に誕生し、多くの米国人はこれで救われると思ったはずである。
しかし、急進的なトランプ支持者であるQアノン(注1後記)信奉者やプラウド・ボーイズ(注2後記)メンバーらは、最終段階で軍の蜂起もなければ、大勢の民主党議員の逮捕も起こらなかったことに落胆している。
何故なら彼らは、トランプが予言したような“大波乱”や“大覚醒(注3後記)”が最後の最後に起きると期待していたからである。
従って、Qアノン信奉者が直近で、“テレグラム(注4後記)”や“ギャブ(注5後記)”他のSNS上で、落胆する気持ちをつづり始めている。
また、『ニューヨーク・タイムズ』紙報道によると、トランプ派の最も過激な武装集団であるプラウド・ボーイズも、“トランプ支持を翻意し始めている”という。
プラウド・ボーイズや他の極右グループは、トランプによる“バイデンが票を盗んだ”との主張に共感し、かつては“テレグラム”上で“皇帝トランプ万歳”と叫ぶ程であった。
ところが、大した進展もなく12月が終わって1月になったことから、プラウド・ボーイズの何人かがトランプに対して、“ルビコン川を渡れ(注6後記)”と強く迫った。
また、Qアノン信奉者幹部も、きっとトランプは1月6日の米議会承認日、もしくは1月20日の大統領就任式の際には、戒厳令を敷いて、力尽くで政権を取り戻すはずだと信じていると表明していた。
にも拘らず、トランプ自身が1月6日の連邦議事堂までの行進に加わらなかったばかりか、1月8日には、当日に発生した、Qアノン信奉者、プラウド・ボーイズ他の極右グループによる議事堂占拠行為そのものを非難する声明を発表した。
そこでプラウド・ボーイズのメンバーは“テレグラム”上で、“トランプは裏切り者”とか“甚だしい弱虫”だと嘲っている。
更に、1月18日の“テレグラム”では、“トランプは大コケして逃げ出した”と追い打ちをかけただけでなく、1月20日のバイデン大統領就任式後には、“新政権は、やろうとしていることに正直だ”とも言い出す始末である。
近々、Qアノンに関わる著作を出版予定のマイク・ロスチャイルド氏(78歳、カリフォルニア州立大客員教授)は『AP通信』のインタビューに答えて、“急進的なトランプ支持者の彼らは、家族との日常生活や自身の人生の中で余りにも失望が大きく、また、犠牲を強いられてきた人たちだと思われる”とコメントしている。
同日付『ニューヨーク・タイムズ』紙:「完全な失敗:プラウド・ボーイズもトランプを嘲る」
トランプがついにホワイトハウスを去ったが、これまで急進的な支持者だったプラウド・ボーイズもトランプの下から離れ始めている。
2016年に組織されて以来、プラウド・ボーイズのメンバーらは、米国各地で反トランプ派を攻撃する行動に出ており、トランプの私設民兵として機能してきた。
そして、トランプが、昨年夏に複数都市で白人至上主義者による民主派グループ襲撃事件が発生した際、一方的に左派勢力の暴動行為と非難しただけでなく、プラウド・ボーイズらに対して、“一歩下がって待機せよ”とまで直接呼びかけたことから、彼らはその時機を待つこととした。
それが、1月6日の連邦議事堂占拠事件につながったと考えられる。
しかし、トランプは後日、ホワイトハウスを明け渡すとの意思表示をしただけでなく、議事堂占拠行動そのものまで非難した。
更に、トランプは、議事堂占拠事件に関わったプラウド・ボーイズのメンバーの逮捕・訴追に対して、何ら助け舟を出すことなく、フロリダ州の別荘に逃げ去ってしまった。
以上のトランプの一連の所業に対して、プラウド・ボーイズのメンバーらは“テレグラム”等のSNS上で、“トランプは裏切り者”とか“全くの意気地なし”等々嘲るツイートを投稿し始めている。
また、プラウド・ボーイズのリーダーのジョセフ・ビッグス(37歳)が1月20日、逃亡先のフロリダ州で逮捕されたしまったことも同グループに与えた影響は大きい。
(注1)Qアノン:米国の極右が提唱している陰謀論。この陰謀論では、世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉嗜食者の秘密結社が存在し、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄であるとされている。2017年10月に「Q」というハンドルネームの人物によって広められ、2018年8月頃からトランプ大統領の選挙キャンペーン集会に参加し始め、徐々に拡大していって、2020年7月には信奉者が数百万に上っている。
(注2)プラウド・ボーイズ:男性のみによって構成される米及びカナダの右翼団体で、2016年にカナダで創設。現リーダーは、ラテン系米国人によるドナルド・トランプ支持団体「ラティーノス・フォー・トランプ」の幹部。全米で数々の演説活動、抗議活動を起こしているが、根底に女性蔑視・暴力礼賛の思想を有する。
(注3)大覚醒:1730年代から繰り返された、英米の歴史における大きな信仰のリバイバルの期間を指している。またこれは、米国の信仰の周期的な循環と言われていて、米国のリバイバルを指す。
(注4)テレグラム:2013年にロシア人技術者が開発した、インスタントメッセージ・システム。
(注5)ギャブ:2016年に米ペンシルベニア州在の企業が立ち上げたSNS。
(注6)ルビコン川を渡れ:ある重大な決断・行動するよう求める場合の例え。ルビコン川とは、古代ローマ時代、ガリアとイタリアとの境をなした川で、ルビコン川より内側には軍隊を連れて入ってはいけないとの取り決めを破って、ユリウス・カエサル(シーザー)が大軍を引き連れてこの川を渡り、ローマへ向かった。カエサルは「賽は投げられた」と叫び、元老院令を無視して渡河したという故事に基づく。
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7月4日付
『ザ・ウィーク』誌:「米軍及び中国軍が同時期に南シナ海で軍事演習を展開」
米海軍は7月4日、原子力空母“ロナルド・レーガン”及び同“ニミッツ”2つの空母打撃群を南シナ海に派遣し、搭載戦闘機の攻撃訓練等を含めた軍事演習を実施していると発表した。
同海軍の声明によると、現在中国軍がパラセル諸島海域で実施している軍事演習に対抗するものではなく、“南シナ海周辺の米同盟国や友好国に対して、米国は同海域の平和と安定にこれからも尽くしていく”ことを明確に伝えるためだとしている。
最初に報道した『ウォールストリート・ジャーナル』紙によると、中国は自ら設定した南シナ海の90%程を占める海域の制海権盤石化を重要戦略に据えている、とした上で、特に直近二、三年で人工島にミサイルを配備したり、米軍等の作戦遂行を妨害する様々な機器を設置したりしているという。
同日付『ロイター通信』:「米軍、中国軍が軍事演習をしている南シナ海に空母2隻を派遣」
米海軍は7月4日に発表した声明の中で、“南シナ海を含めたインド太平洋海域における自由で開かれた航行を支援するため”、2隻の空母打撃群を派遣して軍事演習を実施していることを明らかにした。
ただ、声明では南シナ海のどこで実施しているかは言及されていない。
“ロナルド・レーガン”空母打撃群司令官のジョージ・ウィコフ少将は、『ウォールストリート・ジャーナル』紙のインタビューに答えて、“今回の軍事演習は、中国が実施している軍事演習に対抗するためのものではなく、ただ、同海域の平和と安定を維持するために米国が尽くしていくという明確なメッセージを、米同盟国を含めた同海域周辺国にアピールするため”だと表明している。
なお、米国は過日、中国軍による同海域の軍事演習は、同海域で石油・天然ガス探査を実施したいと考えている周辺国を脅す目的で実施されている、と非難している。
これに対して中国は7月3日、米国こそが悪戯に同海域の緊張を高めているとして、米国側非難を一蹴している。
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