中国は、遥か昔から中国漁師が東・南シナ海の広い範囲で漁を行っていた等自国に都合の良いデータを基に、同海域の領有権を主張して譲らない。そこでこの程、米航空宇宙局(NASA、1958年設立)トップが、中国は近い将来、月に一番に恒久施設を設けて本格探査を始めた等との既成事実を積み重ねた上で、月の領有権を主張し始める恐れがあると警鐘を鳴らしている。
7月14日付
『コンソーシアム・ニュース』(1995年創刊の調査ニュース誌)は、「NASAトップ、中国が月の領有権主張の恐れと警鐘」と題して、東・南シナ海等で自国都合のデータを振りかざして領有権を主張する中国が、月についても同様の主張を言い出しかねないと、NASAトップが懸念を表明したと報じている。
NASAのビル・ネルソン長官(79歳、2021年就任、元宇宙飛行士、2001~2019年上院議員)はこの程、中国が何らかの理屈をつけて、月の領有権を主張し、かつ、他国の月探査の中止を要求しかねないとの懸念を表明した。
同長官は、“中国は月での本格活動を開始するや否や、月の領有権を主張し、よそ者は出て行けと言い出しかねない”と語った。
これに対して、中国政府はすぐさま“虚偽”と反発している。
NASAトップと中国高官の間での諍いが生じた背景には、目下、米・中両国が積極的に月探査計画を進めていることがある。
中国は2019年初め、世界で初めて月の裏側に無人宇宙船を着陸させた。
そして中国とロシアは同年、2026年までに月の南極点に到達するとの共同宇宙開発計画を発表している。
更に中国は、2027年までに月探査活動の拠点となる恒久有人施設を建設する意向を表明している。
かかる中国の活動から、中国がやがて月の領有権を主張し始めるのではないかとみられる訳である。
しかし、国際法上は如何なる国も月の領有権の主張は認められない。
すなわち、中国も含めた134ヵ国が批准している「宇宙条約(注1後記)」の第2条では、“天体を含む宇宙空間に対しては、いずれの国家も領有権を主張することはできない”と謳っているからである。
従って、中国が領有権主張を言い出せば、また国際法を破ろうとしていると国際社会から白い目で見られるリスクを冒すことになろう。
但し、中国は、現実的に南シナ海や東シナ海で取り入れている「サラミスライシング(サラミ法、注2後記)」戦略を、月の領有権についても採用しかねない。
つまり、月における探査活動の実績を少しずつ先行して積み上げていくことで、中国の縄張りとして事実上の領有体制を作りあげていきかねない。
一方、米国が主導する月探査活動については、20ヵ国と共同で進めるアルテミス計画があり、それによると2025年までに有人宇宙船によって月を周回した上で地球に帰還する計画である。
この一環で、月の南極点での探査活動を支援する拠点とするため、2024年11月に月軌道プラットフォーム“ゲートウェイ”を打ち上げる計画である。
なお、米・中両国の直近の宇宙開発競争は激烈で、2021年に打ち上げた人工衛星は、米国の51基に対して中国は55基であった。
また、中国国営の広帯域通信企業スターネットが、合計1万2,992の人工衛星を打ち上げて世界規模の衛星通信事業を展開する計画を発表している。
更に、中国国家航天局(1993年設立)が取り組んでいる天宮号宇宙ステーション(ティアンゴン、2021年4月に最初のモジュール打ち上げ)は、今年後半に第2、第3モジュールが打ち上げられて完成する見込みとなっている。
但し、中国の宇宙開発費は2020年で130億ドル(約1兆7,940億円)と、NASAの半分程度に過ぎず、天文学的な費用がかかるとみられる“月の領有”には、依然遥かに少ない。
(注1)宇宙条約:正式名称は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約で、国際的な宇宙法の基礎となった条約。1967年10月発効。宇宙空間における探査と利用の自由、領有の禁止、宇宙平和利用の原則、国家への責任集中原則などが定められている。
(注2)サラミ法:不正行為が発覚しない程度に少量ずつの金銭や物品を窃取する行為。サラミソーセージを丸ごと1本盗んだ場合にはすぐに発覚するが、たくさんあるサラミソーセージから少しずつスライスして合計1本分を盗んだ場合にはなかなか発覚しないことから名づけられた。
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4月3日、ウクライナのキーウ近郊ブチャで多数の民間人がロシア軍に殺害されたというニュースが報じられた。アメリカの多くのメディアはロシアによる虐殺を非難する一方で、ニューヨーク・タイムズをはじめとしたいくつかのアメリカのメディアとまずは慎重な事実確認が必要であると報じている。
『ロイター通信』は5日、アメリカの国防当局高官は、米軍は、ロシア軍によるブチャの町の民間人に対する残虐行為に関するウクライナの証言を独自に確認する立場にはないが、その証言に異議を唱える理由もないと述べたことを伝えている。
一方、アメリカの調査報道ニュースサイト『コンソーシアム・ニュース』は、民間人の虐殺について時系列に出来事を追った際、疑問点がいくつか湧いてくると伝えている。
ロシア国防省によると、ロシア軍は3月30日にブチャから撤退した。3月31日、ブチャ市議会の公式フェイスブックページで、笑顔のアナトリー・フェドルック市長が動画を投稿し、ブチャ市が解放された事を発表した。「3月31日、ブチャの解放の日。ブチャ市長のアナトリー・フェドルークが発表。この日は、ウクライナ軍によるロシア占領軍からの解放の日として、ブチャとブチャのコミュニティ全体の輝かしい歴史に刻まれるでしょう。」と投稿されている。
『コンソーシアム・ニュース』は、ロシア軍が撤退したこの時点で、大虐殺があったという話は出てきていないことを指摘し、もし周囲に何百人もの民間人の死体が散乱していたのであれば、市長はブチャの歴史の中で「輝かしい日」だとにこやかに話すことはできないのではないかと疑問を呈している。なお、ロシア国防省はテレグラムへの投稿で、「すべてのロシア軍は3月30日にブチャから完全に撤退し、ブチャがロシア軍の支配下にあった間、一人の地元住民も負傷していない」と報告していた。
4月1日、ニューヨーク・タイムズの記者がブチャにいたものの、タイムズ紙も大虐殺を報じていない。その代わりに、タイムズ紙は、ロシア軍の撤退が完了し、「目撃者、ウクライナ当局者、衛星画像、軍事アナリストによれば、死んだ兵士と燃えた車を残していった」と伝えていた。また6人の民間人の遺体を発見したことに言及し「彼らがどのような状況で死亡したかは不明だが、頭を撃たれた一人の男のそばには、ロシア軍の配給品の廃棄された包装が横たわっていた」と伝えた。
『コンソーシアム・ニュース』は、2日にはまだ虐殺の全容は明らかになっておらず、市長でさえ2日前には気づいていなかった可能性があると指摘する一方で、現在では多くの遺体が町の通りに野ざらしになっている写真が出てきており、こうした情景を見逃すことは困難だったのではないかと指摘している。
ニューヨーク・タイムズはその後、ウクライナ内務省管轄の国内軍組織アゾフ大隊が殺害に関与している可能性を示唆した。記者は、「4月2日、国内外のメディアに大虐殺が取り上げられる数時間前に、非常に興味深いことが起こった。」と書いており、米国とEUが資金を提供するゴルシェニン研究所のオンラインのウクライナ語サイト「レフトバンク」が次のように発表したと伝えた。「特殊部隊は、ウクライナ軍によって解放されたキエフ地方のブチャ市で掃討作戦を開始した。この街は、ロシア軍の破壊工作員や共犯者から解放されつつある。」タイムズ紙はさらに、前日の1日には、ブチャ市議会当局を代表するエカテリーナ・ウクレンチヴァが、ブチャ・ライブ・テレグラムページの動画に登場し、軍服を着てウクライナの旗の前に座り、「街の浄化」を宣言したと伝えている。ウクレンチヴァは、ロシア軍は撤退したものの、アゾフ大隊の到着は解放が完了したことを意味せず、「完全な掃討」を行わなければならないと住民に告げた。ブチャでの虐殺が世界に報道されたのは、ウクライナ治安維持局とウクライナメディアの代表が町に到着してから4日目のことである。
一方、米ニュースサイト『パリスベーコン』の番組に出演したジャーナリストのグレン・グリーンウォルドは、現在の欧米のソーシャルネットワークは、ウクライナ戦争への他国の参加に反対する者を「ロシアの工作員」に変えてしまう傾向があると指摘した。また、過去20年は、「戦争のプロパガンダに疑問や異議を唱えることができない場合、とんでもない結果を招く」ことを世界に教えてきたと警告している。
他の紛争では、公式に確認された死者数でさえ、この種の反応を呼び起こさなかったことを想起し、アメリカの一部メディアにおける「第三次世界大戦への呼びかけ」も「冷静さを必要とする」とした。特に、米国のイラク侵攻後、最初の6から8週間で死亡した民間人の数は、公式には8千人を超えていたことを想起した。
「もし私に一つの政治的希望があるとすれば、それはすべての戦争、特に米国とそのパートナーが関与している戦争が、ウクライナと同じようにメディアの注目を集め、その犠牲者が同じように共感されることだ」と強調した。グリーンウォルド氏は、米『フォックスニュース』の番組に出演した際、「ウクライナ人を助けることができるのは、戦争を外交的に解決することだけだ。皮肉なことに、それを唱えると、ロシアの工作員と呼ばれることになる」と述べている。
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