日本鉄鋼業界は、かつては高炉6社体制で欧米製鉄業界を凌駕していたが、中国・インド等の新興国メーカーとの国際市場の奪い合い、また、それらの国々の過剰生産に伴う鋼材価格長期価格低迷もあって、現在は3社(日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼)に再編成されてしまった。しかし、依然生き残りをかけた国際競争にさらされている。そうした中、トップの日本製鉄が主力の製鉄所の高炉を休止する決定をしているが、日本政府も将来の脱炭素政策を打ち出しており、二酸化炭素等温室効果ガスを排出する高炉メーカーは、更なる構造改革が焦眉の急となっていると、米メディアが分析レポートを掲載している。
3月1日付
『グリーン・カー・コングレス』オンラインニュース(エネルギー産業の業界紙):「日本鉄鋼業界、更なる規模縮小の憂き目」
英国の金属・鉱物・化学品産業のリサーチ・コンサルタント会社のロスキル(1930年設立)が、日本鉄鋼業界の窮状について分析レポートを発表した。
<ロスキル社レポート>
『日経新聞』の2月19日報道によれば、日本製鉄(2012年、新日鉄と住友金属が合併して設立)が、傘下の鹿島製鉄所の2高炉のうち1基を休止すると発表した。
同高炉は、同社粗鋼生産量の約10%を占めるが、規模を縮小して設備の稼働率を上げて収益を改善していくための決断だとしている。
同社は既に、呉製鉄所の2高炉、和歌山製鉄所の1高炉を休止することを決定しており、稼働高炉は14基から10基体制となり、全社的に約20%の減産となる。
この背景には、世界の鉄鋼需要の長期的落ち込みや外国企業との競争激化があるが、更に、日本政府が昨年発表した脱炭素社会の実現(2050年カーボンニュートラル達成)に伴い、将来的に二酸化炭素等温室効果ガスを大量に発生させる高炉法の見直しを迫られている。
日本鉄鋼業界は1億3千万トンの粗鋼生産規模を有するが、2019年は9,900万トンで、2020年には、新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題に伴う国内外の鉄鋼需要落ち込みによって、更に8,300万トンまでの減産となっており、稼働率は64%である。
すなわち、欧州の同業他社同様、過剰生産規模を再編成して窮状を打開していく必要性に迫られている。
日本鉄鋼業界の場合、人口減少に伴う内需の落ち込みによって、輸出に頼らざるを得ない。
欧州や米国は、自国生産量より内需の方が多い鉄鋼純輸入国であるが、日本は中国に次いで世界第2位の鉄鋼輸出国である。
ただ、中国は自国生産量の僅か5%が輸出に回されているが、日本の場合は25%が輸出依存量となっている。
その輸出先市場であるが、激戦地域である東南アジア市場において、中国が市場比率を大きく伸ばしている。
これは、これまで安価だけで勝負してきた中国産鉄鋼製品の品質が、高品質が売りであった日本製品に近づいていることで、益々競争力が高まっていることが挙げられる。
更に、韓国鉄鋼業界も同市場に割って入ってきているだけでなく、東南アジア諸国においても、自前の鉄鋼会社の設立計画が実現化されつつある。
一方、欧州連合(EU)と同様、日本においても脱炭素政策が打ち出され、2050年カーボンニュートラル達成目標が掲げられるに至っている。
これに伴い、日本鉄鋼業界が粗鋼生産の75%を頼る高炉法が、温室効果ガス発生源となっていることから、今後の規制に準拠していくためにも、高炉法による粗鋼生産ではなく、直接還元鉄製法(DRI、注後記)に転換していく必要にも迫られている。
(参考:世界の主要鉄鋼メーカーの生産規模)
① アルセロール・ミタル(ルクセンブルグ、2006年合併により設立)9,809万トン
② 日本製鉄(2012年合併により設立)4,930万トン
③ 河北鋼鉄集団(中国河北省、2008年設立)4,709万トン
④ 宝鋼集団(上海、1977年設立)4,335万トン
⑤ POSCO(韓国浦項、1968年設立)4,143万トン
⑥ 沙鋼集団(中国江蘇省、1975年設立)3,533万トン
⑦ 鞍鋼集団(中国遼寧省、1997年設立)3,435万トン
⑧ 武漢鋼鉄(中国湖北省、1958年設立)3,305万トン
⑨ JFEスチール(2000年合併により設立)3,141万トン
⑩ 首鋼集団(北京、1919年設立)3,078万トン
⑪ タタ・スチール(インド、1907年設立)2,620万トン
⑫ 山東鋼鉄集団(中国山東省、2008年合併により設立)2,330万トン
⑬ ニューコア(米国ノースカロライナ州、1940年設立)2,141万トン
⑭ 現代製鉄(韓国仁川、1953年設立)2,058万トン
⑮ USスチール(米国ペンシルベニア州、1901年設立)1,973万トン
(注)DRI:高炉に依らない新世代型の製鉄法で、主として天然ガスを使用して鉄鉱石を還元するプラント。高炉のように大規模ではなく、コークスも不要なので、従来から天然ガスを産出する発展途上国にてミニミルとして建設されていて、近年では先進国においてもスクラップ代替の清浄鉄源製造プロセスとして需要が増加。
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