4月28日付「中国習主席の富国強兵政策」等で触れたとおり、習近平(シー・チンピン)
指導部は、核弾道装着可能な超高速ミサイルの発射実験を実施する一方、北京開催の“アジア相互協力信頼醸成措置会議”に出席した三十数ヵ国代表を前に、朝鮮半島の紛争化阻止のために北朝鮮を諌めるだけでなく、米国側にも慎重な対応を求めた。更に、南シナ海問題で、フィリピンが提訴の国際仲裁裁判所で不利な審理結果が出る前に、東南アジア諸国の抱き込みに奔走している。そして今度は、中国の体制を脅かすと公安(警察に相当)が判断した海外NGOを取り締まる「海外非政府組織(NGO)国内活動管理法」を制定し、7千以上のNGOの活動の監視を強化しようとしている。
4月29日付米
『CNBCニュース』の報道「中国、7千の海外組織の活動を取り締まり」:
「・全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は4月28日、海外NGOのみならず、海外NGOと交流のある国内NGOも含めた、7千余りのNGOの活動を公安が監視することを許容する“海外NGO国内活動管理法”を制定。
・本法は、中国の国家安全や国家利益を損なうような活動を取り締まる目的で、2017年1月1日発効。
・同法によって、全てのNGOは業務内容、資金の流れ等を明らかにすることが求められ、また、全ての従業員が尋問対象。
・公安部の高官は、香港の民主活動家やチベットの反政府分子などとつながる、中国の体制を脅かす恐れのあるNGOを厳しく取り締まる必要があると言明。
・この結果、人権擁護活動家や弁護士などを支援するNGOの活動が制限される恐れ。
・既に今年1月、人権弁護士の活動や役人相手の訴訟を支援してきた“中国緊急支援グループ”の中心メンバーだったスウェーデン人のピーター・ダーリン氏が拘束され、国外追放処分。」
同日付米
『クォーツ』ビジネスニュースサイトの報道記事「G20は、習近平政権のNGO取締法に断固反対すべき」:
「・今年9月、杭州(ハンチョウ、中国南東部浙江省の省都)で開催される主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット、注1後記)は、これまでと違って中国国内のNGO代表が招待されない恐れ。
・当初のG20サミットは、政府関係者のみに限られ、経済や金融情勢につき偏った協議しかされないとの批判から、以降市民団体、労働組合、企業家、シンクタンク、女性組織、青年組織等も加わる開かれた国際会議に変革。
・しかし、従来中国は体制批判を懸念して、市民団体や人権活動家らを取り締まってきており、この程“海外NGO国内活動管理”を制定するに至り、益々政府主導の国際会議の色合いが濃くなり、当然国内NGOの参画を求めない意向。
・今年のG20サミットの議長国は中国であるが、他の同サミット参加国は、これまで関わってきた市民団体やNGOなども参加させることによって、中国の閉鎖的な対応を再考させるよう働きかけるべき。」
同日付英
『インターナショナル・ビジネス・タイムズ英国版』オンラインニュースの報道記事「西側政府及び人権グループ、中国導入の7千の海外NGO取締法に懸念表明」:
「・全人代常務委法制工作委員会の郭(グォ)委員は、中国は多くの海外NGOを歓迎しており、本法に憂慮する必要はない、と言明。
・この新法制定に対して、米国が率先して懸念を表明。
・米国家安全保障会議のネッド・プライス報道官は、中国に対して、人権団体、ジャーナリスト、企業家等市民社会を形成する団体の権利と自由を保障するよう求めると主張。
・また、アムネスティ・インターナショナル(注2後記)代表は、これまでも制限されてきた表現の自由や平和的集会などが、この新法によって益々厳しく取り締まられると懸念表明。」
一方、同日付中国
『東方日報(上海)』の報道記事「海外NGOを取り締まる新法制定」:
「・全人代常務委法制工作委員会の張勇(チャン・ヨン)副主任は、中国の法律に従う限り、新法導入を何ら懸念する必要はないと明言。
・また、同委の郭委員も、新法によってNGOの権利は保護されるが、ごく少数の組織は社会の安定と国家安全を脅かす恐れがあるので、それらを取り締まるためのものと強調。」
(注1)G20サミット:1997年のアジア通貨危機を契機に、1999年から主要20ヵ国の財務相・中央銀行総裁が年一度集り、世界金融情勢につき打合せ。2008年のリーマンショック以降は、G20首脳も毎年春・秋に集り、世界経済及び金融情勢につき討議。参加国は以下のとおり。
・アジア・太平洋地域:日本、中国、韓国、豪州、インド、インドネシア(6ヵ国)
・中東・北アフリカ地域:サウジアラビア、トルコ(2ヵ国)
・欧州:英国、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、EU(6ヵ国・地域)
・サハラ以南アフリカ地域:南アフリカ(1ヵ国)
・北米地域:米国、カナダ(2ヵ国)
・南米地域:メキシコ、ブラジル、アルゼンチン(3ヵ国)
(注2)アムネスティ・インターナショナル:国際連合との協議資格をもつ、国際的影響力の大きいNGO。国際法に則って、死刑の廃止、人権擁護、難民救済など良心の囚人を救済、支援する活動を行っている。1961年7月設立で、本部はロンドン。
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インドネシア向け高速鉄道では中国に敗退し、また、国産小型ジェット機でも中国側に追随され、「クールジャパン」戦略(日本政府による対外文化宣伝・輸出政策で使用される用語)で何かと中国に邪魔をされてきている。しかし、人口で世界第2位の大国インド向け新幹線は、ほぼ日本が成約に漕ぎ着ける見通しとなったと、米・インドメディアが伝えた。
12月8日付米
『CNBCニュース』(
『ロイター通信』記事引用)は、「12月8日付「日経」によると、インドネシアの高速鉄道建設計画では中国に敗れたものの、インド向け新幹線では、日本がほぼ契約を勝ち取る見通しとなったという。日本は、総工費9,800億ルピー(約1兆8千億円)と見積られる、ムンバイ(西部最大都市)とアーメダバード(北西部工業都市)間505キロメーターを結ぶ高速鉄道建設計画に対して、1兆円を超える円借款を供与する提案を行っている。安倍首相が今週インドを訪問し、モディ首相との首脳会談で最終合意を目指すという。なお、同建設計画は2017年に着工し、2023年に完工予定である。」と報じた。
同日付米
『NYSEポスト』証券取引ニュースは、「外務省は、安倍首相のインド訪問は、年次首脳会談出席のためとしているが、同首相はモディ首相との12月12日首脳会談において、インド初の高速鉄道に日本の新幹線を採用することにつき最終合意したい意向である。新幹線導入によって、ムンバイ・アーメダバード間の所要時間(8~10時間)が僅か2時間程に短縮される。なお、同新幹線は2007年に台湾で導入されているが、もしインド向けが成立すれば、2例目の新幹線輸出となる。」と伝えた。
また、同日付米
『クォーツ・ニュース(大西洋メディア社配信)』は、「新幹線建設費用として、インドに提案している1兆円を超える円借款について、適用金利は1%以下と破格である。なお、この円借款を供与することになると、直近10年で年1,000億円増えてきたインド向け円借款貸付残高(注1後記)が、これまで最高だったインドネシアを抜いて1位となる。」と報じた。
一方、同日付インド
『ザ・ヒンドゥー』(南インドの一般紙、1878年創刊)は、「国際協力機構(JICA、注2後記)とインド鉄道省は、2年前から高速鉄道建設の採算性評価作業を行ってきた。なお、日本の新幹線の採用が決定されると、国際入札が開かれることになり、JR東・川崎重工・日立のコンソーシアムが応札するとみられる。」と伝えた。
記事中にもあるとおり、新幹線輸出の2例目になるかどうか注目されるが、目下米国やマレーシアなどでも進める新幹線導入計画が左右されることになるため、政府としても形振り構わず成約を目指している。特に、インドネシア高速鉄道建設が、中国による6,000億円の無保証ローン提案によってひっくり返されたこともあって、インド向け商談に関し、安倍首相自らのトップセールスで以て最終合意を勝ち取ろうとしている。
(注1)円借款貸付残高:政府開発援助(ODA)と違って、返済義務のある低金利ローンで、2012年現在の貸付残高は29兆円余り。最大はインドネシアの2兆円、2位インド1兆5千億円、3位中国1兆円、4位フィリピン8千億円、5位タイ4千億円。
(注2)JICA:2003年10月設立の外務省所管の独立行政法人(前身は国際協力事業団)。開発途上地域・国向けの技術協力、円借款、無償資金協力の援助方法を一元的に担う、総合的なODAの実施機関。
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