世界各国でアストラゼネカ社製ワクチンの使用の中止が徐々に広がっている。ブラジルはアストラゼネカ社のワクチンを接種した妊婦が死亡したことを受けて、いくつかの州が妊婦への接種を中止した。カナダのオンタリオ州も血液凝固の報告を受けてアストラゼネカ社の予防接種の中止を発表し、ヨーロッパではノルウェーやスロバキアなども今週、使用中止を決定した。
米
『フォックスニュース』によると、ブラジルのリオデジャネイロでアストラゼネカ製のワクチンを接種した妊婦が死亡したことで、国の規制当局が妊婦への使用の即時中止を勧告した。これを受けて、いくつかの州は11日から妊婦への接種を中止した。ロイター通信によると、サンパウロ州は規制当局の勧告に従い、合併症のある妊婦へのワクチン接種を中止し、リオデジャネイロ州はすべての女性への接種を中止した。
アストラゼネカ社はロイター通信に対し、臨床試験では妊娠中の女性と授乳中の女性は除外されており、動物実験では 妊娠または胎児の発育に関する直接的または間接的な害の証拠は示されていないと伝えている。
『ロイター通信』によると、ノルウェーでは、3月11日、アストラゼネカ社のワクチンを接種した少数の人々が、血栓、出血、血小板数の減少などの症状で入院し、そのうちの何人かが後に死亡したため、当局は接種を中止した。ソンベルグ首相は5月12日、アストラゼネカ社製のワクチンの使用を再開せず、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のワクチンも大量接種計画に含めるかどうかの決定は保留されたままであると発表した。政府が任命した委員会は、まれではあるが有害な副作用のリスクがあるとして、両ワクチンをノルウェーのプログラムから除外するよう勧告していた。
デンマークとノルウェーで行われた調査では、アストラゼネカ社のワクチンの初回接種を受けた人の間で、血栓の発生率が、脳内を含め、一般的に期待される発生率と比較してわずかに増加していることがわかった。ソンベルグ首相は、「政府は、アストラゼネカワクチンは、ボランティアに対しても使用しないことを決定した」と述べた。ノルウェーでは現在、モデルナ社とファイザーとバイオンテック社製のワクチンのみを使用しており、7月下旬にはすべての成人にいずれかのワクチンを少なくとも1回接種することを予定している。
米『abcニュース』によると、スロバキアも11日、アストラゼネカ社製ワクチンの初回投与を中止すると同保健省が発表した。この発表は、スロバキアの国立薬物管理研究所が先週、ワクチン投与を受けた47歳の女性の死がワクチンに関連している「可能性が高い」と結論づけたことを受けたものである。2回目の接種を待っている人には、引き続きアストラゼネカ製が投与される。
英『インディペンデント』によると、カナダ最大の州であるオンタリオ州も11日、アストラゼネカ社のワクチンの初回投与を、稀な血栓症のリスクが以前の推定よりも高いという証拠を理由に中止することを発表した。オンタリオ州の医療担当責任者であるデイビッド・ウィリアムズ博士は、このワクチン接種に関連した稀な血栓症の事例が増加していることから、慎重に吟味したうえで決定したと述べている。カナダではワクチン接種の対象となる成人のほぼ50%が、少なくとも1回は接種しており、そのほとんどがファイザー社とモデナ社のものだという。
なお、フランスでは、アストラゼネカ社のワクチン投与を55歳以上の人に制限している。仏ニュースサイト『キャピタル』によると、パスツール研究所の研究で、「個人の利益とリスクの比率の転換点」は「50~55歳」にあり、この年齢を超えると、「非定型血栓症のリスクは大幅に減少する一方で、ワクチンによる保護に関連する利益(入院や死亡の回避)は大幅に増加し始める」という。フランス当局は、アストラゼネカ社のワクチンを「合併症のリスクと、個人への期待される利益がより限定的である若年者に投与することには懸念」を示している。
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かつてオーストラリアは、他のほとんどの国と同様、経済成長著しい中国との交易に頼ってきた。しかし、新型コロナウィルス(COVID-19)感染問題が勃発した際のオーストラリアが表明した疑念に対して、中国側が露骨に不当な貿易制限をかけたことを契機に、現政権としては、強権主義的な中国といよいよ一線を画す政策に転換し始めている。対中強硬政策を標榜している米政権としても、連携を強化しようとしているクワッド会議(四ヵ国戦略対話、注1後記)メンバーの中で、依然中国依存から明確に抜け出せない日本やインドより、オーストラリアとのタイアップを強める意向とみられる。
5月4日付米
『フォリン・ポリシー』時事ニュース誌(1970年創刊):「オーストラリア、中国と一線を画す」
オーストラリアの国防省高官及び政治家がそれぞれ、中国と一線を画す態度を明確にしつつある。
まず、ピーター・ダットン国防相(50歳)が、中国による台湾に対する様々な嫌がらせがやがて域内の衝突に発展しかねないと懸念を表明した。
その数日後、オーストラリア軍のトップだった元軍人が、(中国からオーストラリアに対する嫌がらせに辟易して)昨年、中国と戦闘を交える“可能性が高い”と警告したことを明らかにしている。
これまでオーストラリアは、米国と非常に長い間同盟関係にありながら、一方で中国との経済関係を重視する方針を取ってきた。
しかし、ここへ来てのオーストラリアの軍事費増額や中国に対する敵対的政策に対して、米政権としても、外交及び軍事面での関係強化という形でオーストラリアの姿勢に報いようとしている。
米同盟国の中には、フィリピンのように、中国の領土拡大の覇権主義と経済の優位性の両面からの対応に負けて、どっちつかずの政策を取る国もある。
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領(76歳)は、南シナ海の自国領有権が踏みにじられようとしても、軍部や国民の意図に反して、習近平国家主席(シー・チンピン、67歳)に言い寄ってきているからである。
ニュージーランドも、機密情報ネットワーク“ファイブ・アイズ(FVEY、注2後記)”加盟国であるにも拘らず、中国の一方的な海洋進出を表立って非難することで、中国との貿易関係に影響が出ることを嫌がっている。
しかし、今回のオーストラリアの対中政策は本腰を入れたものとみられる一方、果たして今後どういう方向に向かうことになるかの試金石となる。
トランプ政権下で、国防総省次官補(東アジア担当)を務めていたハイノ・クリンク氏は、“坑内炭鉱に入る時のカナリアの役目(有毒ガスが湧出していないかの確認手段)”となると解説している。
同氏は、COVID-19感染初期の段階での問題提起や、南シナ海進出を問題視してきたオーストラリアに対して、“中国は露骨にオーストラリアを懲らしめる政策に打って出ている”とし、“この報復政策は、オーストラリア以外の国にも向けた中国の明確なメッセージだからだ”と言及した。
すなわち、COVID-19原因特定のための独立した調査団の中国派遣を主張したオーストラリアに対する懲罰的行動は、中国の古いことわざ“猿を脅すなら目の前で鶏を殺せ”に倣ったもので、他の国がオーストラリアに続いて、調査団派遣を言い出さないように脅しをかけたと考えられる、という。
特に、これまでオーストラリアが輸出先としての中国に負うところは大きく、主要貨物である鉄鉱石・石炭・大麦・小麦・ワイン・羊等に対する中国の輸入制限や懲罰的関税賦課に伴う損失は、昨年30億ドル(約3,240億円)にも上り、同国経済に深刻な打撃となっている。
ただ、更に深刻とみられるのは、今後も成長著しい中国市場へのアクセスが制限されかねいないことと、直近で中国政府がオーストラリア・ワインに対して今後5年間、懲罰的関税を賦課することを決定したことである。
しかし、かかる仕打ちにもめげず、オーストラリアは中国の同国への投資事業1,000件余りを見直していて、最近の動きとして、中国が主導した“一帯一路経済圏構想(OBOR)”の下で締結されたビクトリア州政府と中国との覚書を破棄する行動に出ている。
この行為は、中国にとって侮辱と取られていて、対オーストラリア政策が更に厳しくなることが懸念される。
そこで、米政府が、中国からの様々な圧力に屈しないよう、如何にオーストラリアを支援できるかにかかってくる。
ただ、米議会は2017年、韓国が米国製ミサイル防衛システム(終末高高度防衛ミサイル、THAAD)採用を決めたことに立腹した中国による対韓国経済制裁が行われた際、韓国を支援しなかったという苦い経験がある。
そこで、米新政権としては、年内にも米・オーストラリア国防・外相会議(2+2)を開催し、70年に及ぶ両国同盟関係を更に盤石化するべく行動に移す意向である。
5月5日付オーストラリア『ジ・アドバタイザー』紙(1858年創刊):「モリソン政権がビクトリア州・中国間のOBOR覚書破棄したことで、オーストラリア産鉄鉱石の中国向け輸出が更に打撃」
スコット・モリソン首相(52歳)は先月、対中強硬政策の一環で、中国が推進しているOBOR下で締結されたビクトリア州政府・中国間の覚書を破棄する決定を行った。
これに伴い、これまで以上に中国側から、対オーストラリア報復措置が講じられることが懸念される。
ただ、AMPキャピタル(1849年設立のグローバル資産運用会社)が5月5日にリリースした地政学的リスク分析報告の中で、同社チーフエコノミストのシェーン・オリバー氏は、両国間の緊張関係は、既に2018年にオーストラリアが米国に追随し、同国の第5世代移動通信システムに中国製品を入れないと決定して以来高まってきていると分析している。
そして、中国の表立った対オーストラリア強硬策が、2020年にオーストラリアがCOVID-19原因特定のために独立系調査団の中国派遣を主張したことを契機に始まり、鉄鉱石・石炭等鉱物資源の輸入制限や食物類への懲罰的関税賦課が行われているとする。
その上で、同氏は、現政権のOBOR関連覚書破棄によって、中国による取引停止や追加関税賦課措置が益々エスカレートすると懸念している。
しかし、現政権はかかる懸念をものともせず、ダットン国防相が今週、同国北端のダーウィン港が中国企業と締結している長期リース契約を無効化することを検討していることを明らかにしている。
(注1)クワッド会議:非公式な戦略的同盟を組んでいる日・米・豪・印の四ヵ国における会談で、二ヵ国同盟によって維持。対話は2007年当時、安倍晋三首相(当時53歳)によって提唱され、その後ディック・チェイニー副大統領(同67歳)の支援を得て、ジョン・ハワード首相(同68歳)とマンモハン・シン首相(同75歳)が参加して開催。対話は、インド南西端で毎年開催されるマラバール演習(四ヵ国合同演習)の実施に繋がっている。
(注2)FVEY:1946年に、当時のソ連と東欧の衛星国に対する監視を主な目的として米英間で機密協定が交わされ、後にカナダ(1948年)、オーストラリア、ニュージーランド(両国とも1956年)が加わって結成された英語圏五ヵ国の機密情報共有ネットワーク。2010年に英国政府通信本部が創設文書の一部を公開したことで、初めて公式に機密解除となり、その存在が公に明らかとなっている。
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