オーストラリア、今後10年で海軍力倍増と発表【米・英国メディア】(2024/02/23)
既報どおり、9年振りに返り咲いた豪州労働党政権は、前保守党政権より親中政策を展開しようと試みている。しかし、こと安全保障分野では違う模様で、インド太平洋地域で軍事力を強大化する中国に対抗する一環で、豪州政府が今後十年で海軍力を倍増させる意向を表明している。なお、米軍事力評価機関グローバル・ファイアパワー(GFP)が先月末に発表した2024年軍事力ランキング(注後記)で、豪州は16位となっている。
2月20日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』、英国
『ザ・タイム』、2月21日付英国
『デイリィ・エクスプレス』は、豪州が海軍力を倍増するとの計画を発表したと報じている。
豪州では2022年、9年振りに労働党政権が復活した。
アンソニー・アルバニージー首相(60歳)は就任以降、前保守党政権が中国対峙の政策を取ってきたのに対して、豪州産業支援を優先して、中国による禁輸・貿易制限対応を是正してもらうべく、豪州首相として7年振りに訪中して直接折衝を試みている。...
全部読む
2月20日付米
『ボイス・オブ・アメリカ』、英国
『ザ・タイム』、2月21日付英国
『デイリィ・エクスプレス』は、豪州が海軍力を倍増するとの計画を発表したと報じている。
豪州では2022年、9年振りに労働党政権が復活した。
アンソニー・アルバニージー首相(60歳)は就任以降、前保守党政権が中国対峙の政策を取ってきたのに対して、豪州産業支援を優先して、中国による禁輸・貿易制限対応を是正してもらうべく、豪州首相として7年振りに訪中して直接折衝を試みている。
ただ、こと安全保障分野では異なる模様で、前政権が米・英国と2021年に締結したAUKUS三ヵ国軍事同盟の継続を再確認している。
その一環で、豪州政府はこの程、インド太平洋地域で益々軍事力を強大化している中国に対抗すべく、今後十年で海軍力を倍増させると高らかに宣言している。
リチャード・マールズ副首相兼国防相(56歳、2022年就任)が2月20日に明らかにしたもので、海軍の艦隊を第二次大戦以来最大となる2倍に増やすと表明した。
具体的には、現有の11隻を26隻まで増やす計画で、ハンター級フリゲート(イージス艦)6隻、汎用フリゲート艦11隻、航空戦駆逐艦3隻、最新鋭の水上艦艇6隻を増やす予定である。
これらの艦艇の一部はトマホーク・ミサイル(射程距離1,300キロメートルの巡航ミサイル)で武装しており、敵地の奥深くにある標的を攻撃する能力があるため、抑止力となると考えられている。
総額は、352億5千万ドル(約5兆2,875億円)と見積もられている。
海軍長官のマーク・ハモンド中将(2022年就任)はシドニーで記者団に対して、“地政学的な不確実性が高まる中、国家安全保障上の重要な投資となる”とコメントしている。
なお、豪州は上記とは別に、AUKUS同盟に基づいて米国製原子力潜水艦を取得する計画も保有している。
軍事アナリストらは、中国による覇権主義の高まりがAUKUS設立の主な動機となっていると分析しているが、件の中国は、当該3カ国を“冷戦思考”だとした上で、“誤りと危険の道”へと突き進んでいると非難している。
(注)2024年軍事力ランキング:GFPが、兵員・陸軍・空軍・海軍能力等について60項目の指標で以て毎年ランキングを付けているもので、2024年版は対象145ヵ国で、①米、②ロシア、③中国、④インド、⑤韓国、⑥英国、⑦日本、⑧トルコ、⑨パキスタン、⑩イタリア、⑪フランス、⑫ブラジル、⑬インドネシア、⑭イラン、⑮エジプト、⑯豪州、⑰イスラエル、⑱ウクライナ、⑲ドイツ、⑳スペイン。
閉じる
オランダ国王、奴隷解放記念日に過去の奴隷貿易仕業を初めて公に謝罪【米・英国メディア】(2023/07/04)
オランダ国王が同国の「奴隷記念日(SRD、注1後記)」に、17~19世紀後半における同国の違法な奴隷貿易の仕業について初めて公に謝罪した。ただ、市民の中には“やり過ぎ”という声が上がる一方、国際人権団体は被植民地の被害の重さを十分認識した上で賠償していく責任があると主張している。
7月3日付
『ワシントン・ポスト』紙、
『インターナショナル・ビジネス・タイムズ』オンラインニュース、7月2日付英国
『BBCニュース』、
『ジ・エクスプレス』紙等は、オランダ国王が過去の奴隷貿易の仕業について、初めて公に謝罪したと報じている。
第7代オランダ国王のウィレム=アレクサンダー(56歳、2013年即位)は7月1日、同国のSRD式典において、過去の違法な奴隷貿易の仕業について初めて公に謝罪すると表明した。
同日は、オランダが正式に南米スリナム(1975年オランダから独立)、カリブ海オランダ領(アルバ島、クラサオ島、ボネール島等)に対する奴隷貿易を、1863年7月1日に廃止する旨表明したことを記念する日である。
同国王は、“奴隷制は人の自由を奪い、尊厳を傷つける最も非人間的な仕業だ”とした上で、“国王として、また政府の一員として、心から詫びたい”と沈痛に語った。
オランダの植民地政策は、南米スリナムから南アフリカ、そして東インド(現在のインドネシア)まで及んでおり、政府は、過去300年余りの間、植民地のプランテーション(注2後記)での労役のために60万人余りの奴隷をアフリカから送り込んだことを認めている。
航海途上で約7万5千人の奴隷が死亡していて、また、植民地の先住民も奴隷に駆り出されていた。
スリナム出身の第二院(下院に相当)シルバナ・シモンズ議員(52歳、2021年就任、左派反人種主義政党党首)は、国王自らの謝罪表明を“歴史的なこと”として歓迎するとした上で、潮目は変わりつつあるとツイートした。
マーク・ルッテ首相(56歳、2010年就任)も政府を代表して陳謝しており、奴隷制度の実態を国民に理解してもらうためのカルチャー施設用に2億1,800万ドル(約316億円)を投じることを決定している。
ただ、国民の意識は少々違っていて、国王自身も、1世紀以上も前のことを謝罪することは“行き過ぎだ”と考える人がいることを承知している旨付言した。
英国のデータ収集・分析専門のYouGov(2000年設立、本部ロンドン)が2019年に実施した、欧州列強や日本が行った帝国主義政策についてのアンケートによると、オランダ市民の回答者のうち半分以上が、恥じることではなくむしろ誇り高いことだったとコメントしており、他のどの国より支持する声が多かった。
過去の帝国主義や奴隷制度に対して謝罪すべきかどうかは、他の欧州諸国にとっても悩ましい問題で、ベルギーのフィリップ国王(63歳、2013年即位)は2020年、アフリカ中部のコンゴ民主共和国(旧ザイール、1960年にベルギーから独立)への植民地政策に“深い悔恨”の意を表明したが、謝罪の言葉は控えた。
英国のチャールズ三世国王(74歳、2022年即位)は昨年、奴隷制について“個人としての哀悼の意”を明らかにしていて、5月の戴冠式時にも英国の帝国主義について謝罪するよう求める声が上がっていた。
しかし、リシ・スナク首相(43歳、2022年就任)は、上記の求めにも、また、英国議員の一部からの奴隷制被害者に対する賠償の支払いの要求に対しても同意していない。
なお、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(1978年設立、本部ニューヨーク)は昨年12月、“奴隷制や搾取等の植民地主義の罪を心から悔い改めるとするなら、植民地主義がもたらした被害の重さと責任を十分認識した上で、賠償金を支払うことが必要である”との声明を発表している。
(注1)SRD:奴隷貿易とその廃止を記念する日。国連教育科学文化機関(ユネスコ、1945年設立)がSRD国際デーと定めたのは8月23日。なお、オランダが奴隷貿易廃止を決定したのは1863年で、米国でエイブラハム・リンカーン大統領(1809~1865年、1861~1865年在任)が南北戦争勝利を受けて発信した奴隷解放宣言と同年。その他、英国は1833年、フランスは1848年、ポルトガル及びスペインは1860年。
(注2)プランテーション:熱帯、亜熱帯地域の広大な農地に大量の資本を投入し、国際的に取引価値の高い単一作物を大量に栽培する大規模農園。植民地主義によって推進され、歴史的には先住民や黒人奴隷などの熱帯地域に耐えうる安価な労働力が使われてきた。
閉じる
その他の最新記事