ヨーロッパでのテロ事件後、各国で難民受け入れを制限する動きが活発化している。
運よくヨーロッパに入国できたとしても、安定した居場所を築くことができる難民は
ごくわずかだ。ヨーロッパ諸国内では移民排斥を謳う政治団体が活動し、難民を狙っ
た犯罪も多発している。そんな中、EUの中では突出して難民を受け入れてきたドイツ
(昨年で約100万人)で、去年1年間で6000人近い難民の子どもが行方不明になってい
ることが明らかになった。各メディアは次のように報じている。
4月12日付
『ザ・ガーディアン』(英)によると、ドイツの内務省は、ドイツ国内で
約6000人の難民の子どもが行方不明になっていると発表している。同記事は行方不明
者数はおびただしい数の難民が流入しているため、正確には分かっていないと報じ
る。ひょっとしたら難民関連施設で足止めを食っているのかもしれないし、はたまた
家族との再会を果たし、そのことを報告していないだけかもしれない。しかしなが
ら、いなくなった子どもたちが人身売買や犯罪の犠牲者になっていないとも言い切れ
ない。
ドイツだけでなく、EU自体もここ2年でヨーロッパ入りした難民の子どものうち1万人
が行方不明だと発表しているが、この数字も「過小見積もりの可能性がある」として
いる。ユニセフの広報担当は、行方不明者は、周囲の人間が行方不明との届け出をし
ない限りカウントされない点が問題なのだと指摘する。行方不明者のリストを一括し
て管理するシステムがないことも、問題をさらに複雑にしているともいえる。
ドイツ政府も今回発表した数字が「過小見積もりである可能性が高い」としている。
行方不明になっている子どもの出身国はシリアをはじめ、アフガニスタン、エリトリ
ア(アフリカ北東部の国)、モロッコ、アルジェリアであり、行方不明者の一割近い
550人は14歳以下だとする。
ユニセフの担当者は、行方不明になっている子どもが、人身売買され、性産業や奴隷
的労働を強いられている可能性があり、さらには臓器売買の犠牲となることもあると
指摘する。「ただ、子どもたちの行く末についての正確な情報が無く、このことが各
国の認識の甘さを招いている」。また、難民を受け入れていない国でも、人身売買さ
れた子どもが送られている可能性がある以上、もっとこの問題に関心を払うべきだと
する。多数の難民流入問題が起きたことにより、人身売買産業は以前よりも組織的に
なり、その規模も大きくなっている可能性が大きい。
同日付
『ニュー・ヨーロッパ』(ベルギー)では、今回のドイツ政府の発表が、自発
的に行われたものではなく、「フンケ・メディアグループ」や「ドイチェ・ヴェレ」といった
国内の報道機関からの圧力によりやむを得ず発表したことを指摘する。ドイチェ・
ヴェレによれば、ドイツ政府は今年の2月に今回の問題に関する質問を受けた際「そ
のような証拠はない」と質問を一蹴していたという。
国連難民高等弁務官事務所はEUに対して、繰り返し成人の同伴者のいない子どもだけ
の難民受け入れ施設の拡充を求めてきた。それでも事態はなかなか改善してはいな
い。非政府組織「ミッシング・チルドレン・ヨーロッパ」の発表では今年2月だけ
で、ハンガリーの難民受け入れセンターに入所した子どものうち90~95%の子ども
が、またスロヴェニアでは80%、スウェーデンでも割合は明らかではないが毎週7人
から10人の子どもが、オーストリアでは一か所の受け入れセンターから100人の子ど
もが行方不明になったことが報告されている。
同日付
『インディペンデント』(英)も、行方不明の難民の子どもの数の多さを指摘
し、イタリアだけで5000人が行方不明だとの報告があるとする。また、同記事は膨ら
む人身売買ビジネスの規模を20億ポンド(約3100億円)から40億ポンド(約6200億
円)と試算している。組織がカバーする地域も拡大傾向にあり、今やサブサハラアフ
リカ(サハラ砂漠以南)からスカンジナビア半島までだという。そして何万人もの人
間が人身売買ビジネスに関わっているとも指摘する。
弱者を食い物にするビジネスが繁栄を極めている。
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