日本産ホタテは、2022年実績で輸出品の93%が中国向けであった。しかし、福島原発の処理水を昨年8月から海洋放出するとの日本政府決定に反発して、中国政府は日本産の全水産物の輸入を禁止した。そこで、国内消費奨励はもとより、同盟国の米国への輸出に注力するだけでなく、2021年5月に日本産食品の輸入規制を撤廃しているシンガポール向けにも輸出攻勢をかけている。
2月3日付
『ザ・ストレーツ・タイムズ』(1845年創刊の英字紙)、
『アジアワン』オンラインニュース(2009年設立)等は、日本産ホタテの80%余りを占める北海道産ホタテが、中国の輸入禁輸措置を受けて、新たな販路として米国等に加えてシンガポールにも輸出攻勢がかけられていると報じた。
『ロイター通信』報道によると、日本の水産物輸出業者約700社が、2022年に中国向けに輸出した水産物の総額は6億ドル(8億300万シンガポールドル、約882億円)であった。
北海道庁水産局の小林茂之水産食品課長(59歳)によると、“日本産ホタテの80%余りが北海道産で占められ、これによって北海道が「ホタテ王国」と呼ばれていて、残りは青森県・岩手県・宮城県産だ”という。
そして2022年における日本産ホタテの93%が中国向けで、残り7%は欧州連合(EU)・米国・東南アジア諸国連合(ASEAN)・香港等であったが、中国政府が2023年8月、福島原発の処理水を海洋放出するとの日本政府決定に反発して、ホタテを含む日本産水産物全品の輸入を禁止したため、大きな打撃を被ることになっている。
岸田文雄首相(66歳、2021年就任)は早速、新規輸出先開拓のために800億円(7億2,700万シンガポールドル)の支援金を拠出することを決めた。
また、昨年10月の『ロイター通信』報道によると、米国が日本支援の一環で大量のホタテを輸入することを決めただけでなく、初めて在日米軍基地向けにも供給することにしたという。
一方で、新型コロナウィルス感染症問題勃発以降、ホタテ輸出が滞っていたシンガポール向けの輸出商談も活発化している。
貿易・投資促進等を担う日本貿易振興機構(JETRO、2003年設立)はジャーナリスト・シェフ・ネットインフルエンサー等を招いてホタテの養殖や加工工場を案内しており、また、十の水産協同組合の代表が4月にシンガポールを訪問し、水産物輸入業者らにホタテの搬入についての商談を行う予定である。
ただ、『ザ・ストレーツ・タイムズ』が何人かの水産業者に取材したところ、シンガポール向け輸出に余り積極的でない声が聞こえている。
●北海道の水産問屋の札幌中央水産(1960年設立)の森脇信之執行役員(51歳)は、“政府の支援のお陰で国内向け販路強化が達成されつつあるので、ホタテ販売高に大きな落ち込みはない”として、輸出開拓に余り積極的ではない模様であった。
●北海道東端(知床・根室の中間)の野付漁業協同組合の内藤智明常務(65歳)は、“コロナ禍前は、シンガポール向けに毎年4~5トン輸出していたが、現在は停止していて、2023年実績では70%が国内向けで、残りは台湾や米国向けだ”という。
その上で、“現下のホタテ市場価格が乱高下(1㎏当り3千~4千円)している上に、同組合が輸出主流とする高級ホタテ(殻を向いて洗浄した大型品)の基準価格が、コロナ禍前の6千円レベルまで回復しないと、シンガポール向けの輸出再開は難しい”とする。
しかし、道庁水産局の小林課長は、米国・シンガポール向けの他、豪州・タイ・ベトナム等向け販路開拓にも注力していくとコメントしている。
更に、かつて中国向けに輸出したホタテを、現地で加工した上でアジア他向けに輸出していたが、中国に代わる加工工場をベトナムやメキシコに建設して、ホタテの他にブリやヒラメ等の北海道産の魚介類を新市場向けに供給していく計画も推進しているとする。
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豪
『News.com.au』と
『ロイター通信』によると、シンガポール当局は、新型コロナウイルス感染症を「根絶することはできないが、インフルエンザや水疱瘡のようなはるかに脅威の少ないものに変えて、生活を続けることはできる」として、近々、新型コロナウイルス感染症をインフルエンザなどと同様に扱うことを発表した。
シンガポール政府は、感染者ゼロという目標をなくし、入国者の検疫も廃止する。濃厚接触者の自主隔離の義務もなくなる。また、毎日の陽性者数の発表を行わず、重症化の数だけ追っていく方針だ。
多くの国と同様、シンガポールは昨年4月中旬に1日600人の新規陽性者を記録し、ピークをむかえた。その後、8月にも小規模な流行があったが、それ以降は、流行を抑えることができている。それでも、人口570万人の国で、毎日20~30人の新規陽性者が出ている。これまでに35名が死亡している。
しかし、シンガポール当局は、「毎年、多くの人がインフルエンザにかかるが、圧倒的多数は入院の必要もなく、ほとんど薬も飲まずに回復している。しかし、少数の人、特に高齢者や合併症のある人が重症化し、亡くなる場合がある。コロナを根絶することはできないが、コロナウイルスをインフルエンザや水疱瘡のような、はるかに脅威の少ないものに変えて、生活を続けることはできる」という見解を示した。
ただし、コロナとうまく共存するためにはワクチン接種の徹底を条件としている。シンガポールでは、数週間以内に住民の3分の2が少なくともワクチン1回目(ファイザー製、またはモデルナ製)を接種し、8月初旬までに3分の2が2回目を受け終わる見通しとなっている。シンガポールでは、2回の予防接種を受けた後に感染するケースが報告されているものの、重症化した人は出ていないという。
検査も、より簡単で迅速なものに移行する方針だ。当局は、不快なPCR検査に代わり、自宅で行うことができる簡易検査に変えていくことを計画している。そして、人を隔離するための検査ではなく、イベントや社会活動、海外旅行などを安全に行うための検査として位置づけていく方針だ。
シンガポール紙『ストレーツ・タイムズ』によると、ワクチン接種率が高いイスラエルでは、すべての年齢層において、ワクチン接種を終了した人の入院率は1日10万人あたり0.3人、死亡率は10万人あたり0.1人となっているが、2018/19年の米国におけるインフルエンザによる入院率は1日10万人当たり0.4人、死亡率は1日10万人当たり0.03人だった。2017/18年のようなインフルエンザが大流行した年は、入院率は0.67人、死亡率は0.05人だった。国民の接種が進んでいるイスラエルでは、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザに近いものになりつつある。
シンガポールの貿易相、財務相、そして保健相は、ストレーツ・タイムズの社説で、「悪いニュースは、コロナがなくなることはないかもしれないということ。良いニュースは、日常生活の中にコロナウイルスがあっても、普通に暮らせるということだ」と述べている。シンガポールは、「新型コロナウイルスとともに生きる」という「ニューノーマル」に方針を転換していく。
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